アリス君、合格です
名前を呼ばれたので受付まで行くと横にムキムキの半袖の人が待機してた。
この人が試験官かな? スキンヘッドで凄い怖い、僕より二回り位大きい。
「小僧がアリスか? 大丈夫か? まだ青白いガキじゃないかよ。」
ゴツゴツの腕が僕のフードをはぎ取って怖い顔が僕を覗いてくる。
めきめきっ。
僕の上から嫌な音が聞こえた。
「お前、オレのアリスに何触ってるんだ?」
めきめき・・・えーっ、なんでリフさんこの人の腕掴んでるの!?
「いてっ!? なんなんだお前!?・・・あれ? いてててっつ!!?」
うわ、今この人が腕を動かそうとしたけどピクリとも動かなかった。このゴツイ人相手にどんな腕力してるの!?
「ちょっと! リフさん何やってるんですか! 放してください!」
「大袈裟だな、オレは軽く握っただけだぞ。」
男の人は解放された腕を押さえながら涙目で荒く呼吸する。なんかすいません。
「だ、大丈夫ですか? 回復いります?」
神子さんの言葉に男の人は首を振ると恐る恐るとリフさんを見る。
「その・・・あなたは?」
「オレはアリスの保護者だ!」
そんな腕を組んで堂々と言わなくても。あっ、僕の外れたフード直してくれた。
「その・・・ご職業とかは?」
「アリスの保護者だ。はふん。」
「・・・。」
やめて! 無職のリフさん、困ってるから、保護者のごり押しもうやめてあげて。
「その、あなたも狩師になります?」
「いや、ならない。」
「そうですか。・・・じゃあ、アリス君試験に行こうか。」
なんでいつのまにかこの人敬語になってるの?
「すいません、僕の事はアリスでいいので。」
連れて来られたのは地下室だった、ここには訓練室があるんだって。
男の人はジョージさんでここのギルドマスターだった。
訓練室は石造りで今は他に人はいない、隅の方には色んな武器が並べられてる。
「その、アリス。これから俺とお前は戦うんだけど、大丈夫か? 途中で乱入して来たりしないか?」
「・・・。」
ジョージさんが大きな体を曲げて僕にこそこそ話してくる。いろいろすいません。
「リフさん、これから僕はジョージさんと戦うから変な事しないでくださいね。」
「当たり前だろ。オレを何だと思っているんだ?」
「・・・。」
リフさん、なんでそんな呆れた顔を出来るんですか?
少し前に自分のした事忘れたの?
「・・・アリス。お前の武器はその剣でいいんだよな?」
ジョージさんが僕の剣と似たサイズの木剣を投げて渡してくれる。ジョージさんのは大剣サイズの木剣だ。
「木剣でやるんですね。」
「試験で怪我しても仕方ないからな。とは言っても遠慮せずに全力で来いよ、上に神子がいるからすぐに治してもらえるからな。」
「はい。」
「じゃあ、いつでも来い。」
「・・・行きます。」
僕は一度剣を振ってみてからジョージさんに向けて駆け出す。
斜めに振り上げた剣は大剣で受けられて僕は右に小さく跳ぶ、剣を薙ぎ払う、ん? ・・・ 振るわれるジョージさんの剣に押し負けて後ろに下がる、追いかけてくるジョージさんの剣を迎え撃つ、やっぱり力負けはするから身体を横に逃がして背中に回り込・・・剣が来る! しゃがんで避けた! 剣ごと身体を回したジョージさんの大きな足が潰しに来るのを尻もちを付いてかわして、僕はそのまま背中を床に付けて足を振り上げる。
顔を目掛けて放った蹴りは外れたけど、その反動で立ち上がった僕は踏み込みながら剣を振るう。
ぶつかる剣と剣、力では争わずに僕は連続で剣を繰り出す。
・・・何度かの攻防の後に打ち勝ったのは僕だった。
「・・・。」
僕の剣がジョージさんの首の付け根で止まっている。
「やるじゃないか、アリス。その年でそれだけ戦えるのは大したものだぞ、そっちの姉さんに鍛えられたか?」
「はふん。」
ジョージさんは笑ってリフさんは得意げに鼻息を吐いてるけど、僕は素直には喜べない。
「文句なしの合格だ。Bランクからスタートって所だな。一度受付に戻るから詳しい話はそっちで聞いてくれ。」
木剣を戻して三人で上に戻る。
「やったな、アリス。偉いぞ。」
リフさんが僕の頭を撫でてくるけど、リフさんなら絶対に気付いてるよね? もしかしてわざとやった?
「アザリア。アリスは合格だ、Bランクで登録を頼む。」
「Bランクですか、アリス君凄いですね! じゃあ色々説明しちゃいますね。」
神子さんはアザリアさんって言うのか、僕の事を喜んでくれるのは嬉しいんだけどその前に。
「すいません、アザリアさん。先にジョージさんの腕を治してあげてください。」
「えっ? はい、分かりました。」
「なんだ、気付いてたのか?」
「はい、・・・すいませんでした。」
ジョージさん、剣を動かす前にほんの少しだけどタイムラグがあった。リフさんに掴まれたダメージが思ったよりも大きかったんだと思う、それに気付いていたけど僕は最後に剣の打ち合いに持ち込んだ、それしか勝つ方法が無かったから。
「謝る事はない。怪我に試験の結果は関係ないからな。」
アザリアさんがジョージさんを癒した事で周りが騒がしくなる。やめて! 僕がジョージさんに怪我をさせた訳じゃないから! スーパールーキーとか言わないで!!
リフさん誇らしげに胸を張るのやめて、恥ずかしいから!
「さて、改めて説明しますね。その前に私はアザリア・リポ・ドールです、よろしくね、アリス君。」
「はい、よろしくお願いします。」
ジョージさんはどこかに戻っていって僕は座ってアザリアさんと向かい合う。リフさんは僕の後ろで仁王立ちだ。
「まずは狩師の仕事は基本的に街の外で魔物を狩って来る事です。アリス君個人で行ってもいいですし、あちらの掲示板でパーティーの募集を行っているのでそちらを利用して仲間を見つけてもらっても構いません。お金はかかりますが私達神子に同行の依頼を出す事も出来ますよ、高いですけど。・・・高いですけど。」
どれだけ高いんだろう。
・・・そりゃ神子さんが同行してくれたら助かるんだろうけど、高いのか。
「魔物の買い取り部位についても掲示板に貼ってありますので時間のある時に確認してみてください。ギルドでは魔法鞄の貸し出しもしておりますので、必要なら言ってくださいね。」
魔法鞄って空間を司る空龍が加護を込めた鞄の事か、物がいっぱい入れられるっていう凄い鞄だよね。
「そうなんですか、借りられるなら僕も借りたいです。」
「必要ないぞ。」
「?」
後ろから声をかけてきたリフさんが僕の背中にくっつくと僕のパーカーのお腹のポッケに手を入れてくる。
な、何を!?・・・あれ? どんどんリフさんの腕が入っていくけど、リフさんの腕がどこにもない?
「これにも空龍の加護は付いているからな。」
「なんで!?」
「なんでですか!?」
僕とアザリアさんの驚きの声が重なる。
なんで僕知らない間にそんな凄い物着てるの?
「なんでってその方が便利だからだろ?」
いや、そうかも知れないけどそれは僕の聞きたかった事じゃない。
「そんな、服に空龍の加護が付いているのなんて龍使徒や神子の制服くらいの筈・・・アリス君何者ですか?」
「いや・・・僕はただ借りてるだけなんで。」
僕はジッとリフさんの横顔を見る。っていうかそろそろ手をポッケから出して離れてください。
「えーと、話を戻しますね。持ち込む魔物の素材はギルド裏の持ち込み所があるのでそちらに持って行ってください、解体せずにそのまま持ち込まれても大丈夫ですので。素材を換金したお金が狩師の収入になります。安定して狩りを行う事でランクが上がっていきます。」
「僕はBランクなんですよね? ランクって何なんですか?」
「狩師のランクです。Dから始まってAその上にAAとAAAがあります。アリス君のBランクは中堅ランクですよ。ランクが上がると色んな街で優遇を受ける事も出来ますがギルド内においては扱いの差はあまりありません。ギルド側から狩師の方に依頼をお願いする事があるんですがその際の参考にさせてもらう位です。ただランクが高いと女性にモテます。」
「・・・なるほど。」
・・・リフさん、何がなるほどなの?
「依頼ってどういうのがあるんですか?」
「一番は魔物の大量発生、こちらは狩師の方には拒否権はありません。大体龍使徒の補助をしてもらったりになるんですけど。あとは常設依頼として牧場や馬車の護衛です。でも当分アリス君に依頼が行く事は無いのでまずは安全を確保しながら魔物との戦いになれてください。怪我をした時はすぐに顔を出してくださいね。」
最後にアザリアさんにバッジを渡された、骨と剣とBの文字の描かれたバッジが僕の狩師としての証明らしい。
ギルドを出てバッジを上に掲げてみる。
僕の合格にジョージさんの怪我は関係ないって。ちゃんと僕は戦えた、僕は自分の力で合格出来た。
何かに手が届いた時、手が届かなかったモノを思い出して胸が痛んだ。