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アリス君は気が付いた

 



 次の日も次の日も僕は延々とリフさんと戦い続けた。

 無くしたものを忘れる為に夢中で挑める目標がある事が嬉しかったのかもしれない。

 何日も何日も戦い続けて、そしてハタと僕は気付いた。


 リフさんとの戦いを中断して僕はお店に戻る。


「アリス、どうしたんだ?」


 早足で歩く僕にリフさんがついて来る。

 いた、今日もマスターとアサヒは僕らのご飯を準備してくれてる。


「アサヒ! マスター! 僕、ここに来てから何も仕事してない!!」


「うん、そうだね♪ お兄ちゃん。」


「・・・まさか、今更気付いたのかい?」


 アサヒは当たり前の様に笑顔で、マスターには呆れた顔をされるけど僕は今まで気付きませんでした。


「安心しろアリス、オレも働いてない。」


 何故か自信満々で自分の顔を親指でさすリフさん、それには薄々気付いていました。


「坊主、俺っちも働いてないぜ。」


 シアさん、それも気付いてました。


「キューはちゃんと働いてるきゅ、かなり稼いでるきゅ。崇め(あがめ)奉る(たてまつる)きゅ、アリス。」


 テーブルでいつもの工作をしていたキューさんがソファーの上に立って僕を煽ってくる、なんかイラっとするけど何も言えない。

 今日は何かお城みたいのを作ってるけどこれがお仕事で高く売れるのかな?

 実際かなり精密な造りだしお金持ちの家とかに置かれてるのかもしれない。


「僕も働いてるー。」


 ダンボールの上で寝てばっかりいるモザイクさんまで!

 僕はこのなんだか人としてダメそうな二人以下!?


「お兄ちゃんはそのままでいいんじゃないかな♪ 毎日楽しそうだし。」


 何その僕をダメにする考え。

 アサヒの言葉を真に受けては駄目だと理性が強く訴えてくる。


「そもそも僕ここに来てどれ位経ったかな。」


「アリスが来てからまだ十日くらいだろ。」


 リフさん、正確な日にちは僕も全然覚えてないけど、もっとずっとここにいると思う。


「うーん、ちょっと待ってね♪ お兄ちゃんが来てからの夕ご飯は毎日アサヒが作ってるから・・・ハンバーグ、肉じゃが、鶏肉のトマト煮込み、お兄ちゃんが美味しいって言ってくれたからこの後五日間鶏肉のトマト煮込み♪」


 続いてた! そういえば確かに来てばっかりの頃毎日鶏肉のトマト煮だった、あれ僕の為だったのか。

 えっ? アサヒ僕が来てから夕ご飯に作った物を全部覚えてるの?


「次はしゃぶしゃぶ、カレーライス、鶏肉のトマト煮込み、炊き込みご飯、チキン南蛮、ビーフシチュー、この後ビーフシチューが三日続いて♪」


 ・・・僕、ビーフシチューも最初に食べた時凄い美味しいって言った気がする。


「アリスばっかり優遇されてないか。オレの牛の丸焼きが全然出てこない。」


「そんなのここでは作れないよ♪ リフが勝手に外で食べてよ。」


「俺っちの魚の干物もな。」


「もう! 順番に思い出してるんだから邪魔しないで。・・・オムライス、鶏肉のトマト煮込み、・・・」


 順番にアサヒは指を折っていくけど、本気で僕が来てからの日にちを夕ご飯で数えようとしてるのか、凄い記憶力だな。


「・・・それで昨日が唐揚げで、全部で何日だった? お兄ちゃん♪」


「えっ、僕? 数えてないよ。アサヒが自分で数えてたんじゃないの?」


「途中で分かんなくなったよ♪」


「今日で92日だよー、僕は最初から知ってたけどねー。」


 寝転がったままのモザイクさんが手を上げて教えてくれる。

 92日、僕もう三か月も働かずに毎日リフさんと遊んでいたのか。


「92日もかー、楽しくてあっという間だったな、アリス。」


 いや、そんな嬉しそうに僕の背中を叩く事じゃないですって。僕も毎日リフさんに挑むのが楽しくて日にちの感覚無くしてたけど。


 でも僕にも言い分はあるんだよ。


「アサヒ、ここカフェレストランって言ってたけど、営業してないよね?」


「そんな事ないよ、毎日みんなでご飯食べてるでしょ♪」


「いや、それをレストランって言わないよね。」


 はっきりと認識するのに時間がかかってしまったけど、ここはただの台所だと思う。

 ここじゃそもそも僕の仕事はないんだ。


「だから僕は仕事を探しに行こうと思う。」


 ここにいればお金は使わずにすむけど、いつまでもそういう訳にはいかないし。


「ええー、お兄ちゃん。出て行っちゃうの?」


「いや、ここに住んでていいならそのまま住まわせてもらえたら嬉しい。」


 涙目で僕の腕を引くアサヒを邪険にはできない、ずっと良くしてもらってたし、ここの皆にも愛着あるし。


「よし。そういう事なら行くか、アリス。」


 リフさんが僕の肩に腕を回す。


「行くってどこに?」


「狩師ギルド、外に魔物を倒しに行くぞ!」


 狩師ギルド、魔物を倒してお金を貰える仕事。

 もしかしてリフさんが強いのは狩師だからかな、魔物と戦う狩師もリフさんとなら安心できるし凄いいいかも。


「リフさん、行きましょう!」


 僕が元気に頷くとリフさんも笑顔で応えてくれる。


「よし、行くぞ。」


 龍使徒をやめて三か月、僕は狩師になる事を決めた。


「あっ、お兄ちゃん。髪の毛そのままだとまた目立つから、外に出るなら前にしてたバンダナ付けていくといいよ♪」


「・・・そっか、ありがと。」


 アサヒに教えてもらって僕は部屋にバンダナを取りに行く、赤と青の前にカナデさんがくれた物だ。

 自意識過剰かもしれないけど、中身の伴わない僕が人に注目を浴びるとか嫌だからな。

 ここの人は誰も僕が英雄に似てるなんて言わないからすっかり忘れてたんだけど。


「リフさん、お待たせしました。」


「おう。」


 頭にバンダナを巻いた僕が戻るといつもゴロゴロしているモザイクさんがリフさんの横に立ってた。僕、この人が立っている姿をちゃんと見るの初めてかもしれない、僕よりも身長高いんだな。


「これあげるー。」


 モザイクさんが僕に差し出してくれたのは彼女がいつも着ているのと同じ薄紫色のパーカー、フードをかぶれば少し顔が隠れるけどそこまで大袈裟にする? 

 皆の方を見てみると順番に頷いてくれる。


「いいと思う♪ お兄ちゃんの噂は街中に広まってるからね、隠せるところは隠した方がいいよ♪」


「そ、そうかな。・・・モザイクさんありがとうございます。」


「いいよー、おそろーい。」


 フードの奥でモザイクさんが目を細めてニパッて笑う、笑うと可愛い。

 僕はそのままパーカーを羽織るとバンダナの上からフードを被る。


「どうですかね?」


「可愛いんじゃないのか。」


「胡散臭いな、モズと並ぶと余計に。」


 リフさん、シアさんの順に答えてくれたけど僕としてはシアさんの言葉に同意する。リフさんは僕の事を凄く甘やかしてくれる人なのだ。あんまり信用できない。


「いいと思うよ、お兄ちゃん♪」


 アサヒも僕を甘やかす側だからな、僕は苦笑いを浮かべつつリフさんに頷く。


「じゃあ、今度こそ出発だな。」




 腰の後ろに剣を差したリフさんが僕の前を歩く。

 狩師ギルドの支部はこの街の中だけでも五か所もあるらしくて、店から歩いてすぐの所にも一つあった。


 壁に飾られた剣と骨の描かれた看板が狩師ギルドの目印らしい。

 リフさんに続けて入り口をくぐると正面に受付があった。受付には若い女性、っていうかあの制服は神子? 神子さんが三人並んで受付にいる。

 それ以外だとなんだかいかつい見るからに戦士ですって人たちが多いんだな、同じ戦う仕事でも龍使徒に比べてワイルドな感じだ。武器も大剣とか斧とかの人が多いし。


「いらっしゃいませ。本日はどんなご用件ですか?」


 受付に近付くと空いてる神子さんが営業スマイルをくれた。


「えっと、仕事が欲しくて来たんですけど。神子さんが受付をしているんですか?」


 僕はフードを外しながら神子さんに尋ねる。僕の後ろで仁王立ちするリフさんが何も言わずにフードをまた被せてきた、・・・そうか一応顔を隠す為に付けてたんだもんな。


「君は初めて来たんですね。狩師ギルドは怪我人が多い場所だから、神子が派遣されてるんですよ。門の近くにあるから旅人の怪我にも対応しやすいですしね。」


 なるほど、確かに魔物と戦うんだから近くに神子の人がいてくれるのは安心だ。

 ・・・神子さんを見ているとエトを思い出して胸が苦しくなるのは僕の弱さかな。


「それで、お仕事ですね。狩師として働く為には試験に合格して資格を得なくてはなりません。今までに狩師の試験を受けた事はありますか?」


「いえ、無いです。試験とかあるんですね。」


「危険な仕事ですので、戦う力のない人はお断りさせていただいているのですよ。試験を受けられますか?」


「はい、お願いします。」


「では、こちらにご記入をお願いします。」


 試験か、なんかトラウマを感じる。これでまた落ちたら僕はどうしたらいいんだろう。

 不安を抱えながらとりあえず紙を書き始める。名前、アリス・ハイズ、13歳と経歴・・・特になしでいいかな?


「えーと、お連れの方は?」


「オレはいい。付き添いで来ただけだから、・・・保護者! 保護者だから! はふん。」


 保護者!?

 リフさん最後に鼻息を荒くしたけど保護者って何!?


「えっ、リフさん狩師の経験者とかじゃないんですか?」


「いや、ないぞ。」


「えっと、一緒に試験を受けたりは?」


「見守るだけだ、保護者として。はふん。」


 ・・・マジか、リフさんと一緒だからと感じていた安心感は一瞬で無くなった。

 

「えーと、どうしますか? 今なら辞退も出来ますよ。」


「いえ、お願いします。」


 僕は書き終えた紙を神子さんに渡す。


「・・・アリス・ハイズ、アリス君ですね。準備が出来たらお呼びしますので座って待っててください。」



 リフさんと並んで椅子に座る。・・・リフさん距離近くない? 少し距離を取るとすぐに縮められた。まーいいか。


「リフさんは狩師にならないんですね。」


「オレはそういうのはちょっとな。」


「そうなんですか、リフさんが強いのは狩師をしてたからかと思ったんですけど違うんですね。」


「ん? オレはそういう仕事をした事はないぞ。というか、仕事自体した事ないけどな。」


 いや、リフさん笑ってるけどどういう人なの? リフさんだけじゃなくて一緒に住んでる皆が謎だけど。




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