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エトとカナデとトマト煮込み

 


 カナデ視点


 あいつが龍使徒を辞めて三日がたった。もう三日でまだ三日だ。

 一人いなくなったからって何が変わる訳でもない、ただ一番必死に頑張っていたあいつがいなくなったから何となく張り合いが無くなった。

 いや、あいつの分まで頑張らないと。

 あと、変化と言えばずっと三人でご飯を食べていたのにあいつがいなくなったからロロナと二人になったって事だ、別にいいんだけど。ただ気まずさもあるのよ、だからって急に違うテーブルで食べるのも変だし、もう。



 それから、エト・クラナ・ドールが精彩をなくしてる。

 訓練の時間に顔を合わせる程度だけど、分かりやすく目が虚ろなのよね、なんだか輪郭がぼやけて見えるくらい。

 もっと強い子だと思っていたのに、本当に普通の女の子だったのね。


「あなた、大丈夫なの?」


 思い切って訓練終わりに話しかけてみる。


「何がですか? カナデ・アイリ・アリス。」


 ・・・話しかけると一応キリっとするのね。

 心が強いんだか弱いんだか。


「ふん、アリス・ハイズがいなくなって寂しいんじゃないかと思って。」


「余計なお世話です。・・・何の問題もない。私は私の願いも誓いも忘れてはいないから。」


「・・・。」


 私を見る瞳に力を入れるのはいいけど、少しずつ肩が下がっていってるわよ。ほら、喋りおえた口からも力が抜けた、今にもため息が出そう。


「はー。」


 溜息出た!

 なんなのこの子? 面白かわいい。

 なんでこの子もアリスも近寄りがたいのにほっとけないタイプなのよ・・・。


「私、次の休みにあの子の様子を見に行きたいんだけど、あなたもついて来てくれない? 場所を探さなくちゃいけないから見つけられるかは分からないけど。」


「・・・私は遠慮します。そんな事をしている時間はありません。あなた一人でどうぞ。」


 瞳を暗く感情を隠し俯く彼女はそう言った。

 強情ね。・・・仕方ない、見つけたら改めて教えてあげればいいかしら。


「そう。じゃあ、私一人で探すことにするわ。」


 私はエトに背中を向けると歩き出す。

 どうやって探そうかしら、あいつの容姿だから人に聞いて行けば見つかるのかも知れないけど、話を大きくしたくはないのよね。


「ま、待って!」


 呼び止められたから振り返れば彼女が私に伸ばした手がプルプルと震えている、なんなの?


「やっぱり、私も、私も行くわ。」


「う、うん、分かったわ。」


 腕は震えてるし、顔は強張って上の歯と下の歯ががちがちなってるしどれだけ葛藤しているのよ?

 会いたいなら素直に認めればいいのに、あなたにとってあいつが特別な事くらい皆もう知っているんだから。

 こういうのをギャップ萌えとかいうのかしら、可愛いって思ってしまう。

 全く、本当にほっとけない子。



 休みの日、待ち合わせした校舎の前まで行くと既にエト・クラナ・ドールはいた。

 何か遠巻きに見ている野次馬が多いと思ったら、遠目からも彼女がキラキラしてるのが分かった。なんでいつもと同じ神子服なのに後光がさしてるみたいに輝いてるのよ!?


「・・・お待たせ。待たせたかしら?」


「おはよう! 全然待ってないわ。」


 意を決して近付けば笑顔が凄い眩しい!

 私は思わず顔を背ける。

 エメラルドの髪はいつも以上にツヤツヤだし、白い肌も生まれたてみたいにプルプル、いや、なんなのこの子、どれだけ楽しみにしてたのよ!?

 ・・・恋する乙女ってこうなっちゃうの?

 なんだか凄い恥ずかしいわ。


「・・・行きましょうか。」


 キラキラエト・クラナ・ドールが歩き出すから私も横に並ぶ。

 彼女が歩くだけで前に出来ていた人の壁が割れて道が出来る。本気? 私こんなキラキラした人と一緒に街を歩き回るの? 拷問だわ。


「カナデがアリスを見つけたいって言うから、今日は私も協力しますね。」


「・・・ありがとう。」


 私の為みたいに言っても、その笑顔じゃ全然感情隠せてないからね。


「多分、知り合いの店にアリスはいると思うの。街外れのカフェレストランって言ってたんだけど。」


 そういう情報があるのは助かる。


「街外れってどっち側の? 店の名前は?」


「分からない。・・・でも、北門の方だと思う。」


 北門、王都に向かう人が多いからそっち側が一番賑わってるしね。

 でも、確証はなしなのよね。今日で見つけられるかしら。


 エトは迷いなく歩いているからとりあえずついて行こう。

 しかし、街行く人たちが全員エトの事を見ているんだから恐れ入るわ、本人がそれを全く気にしていないのもね。

 エトを見た後に私を見て少し落胆するのはやめて欲しい。・・・きっと横にいる筈のアリスを探したんでしょうけど。


 ・・・余所見をして転んだ人に駆け寄って癒してあげてる、話しかけられれば笑顔で応えて、・・・光の再来ね。手を合わせて拝む人たちはなんなの?


 あっ、アリスの話を振られて笑顔を引きつらせてる、と思ったら凄い笑顔だ! 一体何を言われたのよ!? そんな笑顔ほいほいと出していたら失神者が出るわよ!



「すいません。この辺でカフェレストランを知りませんか? 黒髪のかわいい女の子が働いていると思うんですけど。」


 彼女が情報を集めようとしているけど、知っている人はいない。

 もう北門が見える場所まで来てるのに・・・こっちじゃないのかしら?

 私はエトに話しかけられた人がウットリと魂が抜けた様になってるのは見ない事にする。男性だけならまだしも老婆にまで効果があるってなんなのよ、本当。近くにいるといい匂いまでするから余計にくるのよね。


「知り合いって女の子なの?」


「ええ、そうですよ。私達より少し年上くらいですかね?」


 平然と言うけど、その子可愛いのよね? そんな子とアリスを一緒にするのは嫌じゃないのかしら。変な子。


「ここら辺じゃなかったんですかね。・・・少し試してみますね。」


「試す?」


 私が首を傾げるとエト・クラナ・ドールの手に杖が現れる、彼女は杖をクルリと回して地面に突き立てた。


「世界に光を・光は奇跡を・奇跡よここに・エルクドール。」


 なにを? 光の波が地面を走っていく。

 これは魔物を探す神子の業? ・・・でも、これじゃ人を探す事なんて出来ない筈。

 わー、また注目を集めてる。この子と行動を共にするだけでストレスで痩せそうな気がするわ。


「何か分かったの?」


「いえ。これはそんなに便利なモノじゃないので。」


 何事も無い様に言って彼女は杖を腕輪に戻す、じゃあなんで使ったのよ?


「もういいわ。どこかでお昼にしましょう。」


「少し待ってください。誰か来てくれるかもしれないので。」


「?」


 どういう事? さっきのは見つける為じゃなくて見つけてもらう為に使ったって事?

 確か、高位の神子には他の神子の使った奇跡を感じ取れる人がいるって聞いた事があるけど、ごく一部の神子だけだった筈。


「来ました。」


「え?」


 エトの見る方を向けばタキシードを着崩した綺麗な人が歩いてくる。

 後ろで結った水色の髪が歩くたびに揺れる、本当に綺麗な人、全身からあふれ出す魅力に私は思わず唾を飲んだ。


「よー、やっぱり嬢ちゃんか。坊主に会いに来たのか?」


 軽く手を上げてエトに笑いかける姿にクラっと来てしまう、中性的な人で、こんなに近くにいるのに私には男性なのか女性なのかの判断が出来ない。


「あなたもいたんですね。気付いてもらえて良かったです。出てきてもらって悪いんですけど、私は会うつもりはないんですよ、ただ少しでも姿を見れればいいなって。」


「ふっ、相変わらず健気な事で。会ってやればいいのに。で、そっちは?」


 水色の瞳が私を映す、不思議な事に私はそれだけの事で幸せを感じてしまっていた。


「彼女はカナデ・アイリ・アリス、水龍オールシア・スイカンタに力を授かった龍使徒です。」


「ああ、そのようだな。一度見たら忘れられないカワイ子ちゃんだ。俺っちの事はシアって呼んでくれ。」


 気が付けば私は手を取られ手の甲に口づけをされていた。


「なっ! なんな!!?」


 頭に血が集まって来る、顔が熱い。

 いやだ、なんでこんなに熱くなるの?


「あなた、本当にいつも女の子が好きなんですね。」


 呆れたエトの声にシアさんはハッと動きを止める。


「ち、違うからな! 今のは俺っち流の挨拶って言うか、挨拶だからな!」


「分かってますよ。どうしたんですか?」


 エトは全く取り合ってないけどシアさんは本気で焦っている様に見える、この人も彼女の事が好きなのかしら?


「分かればいい、分かればいいんだよ。とりあえず寄っていけよ、今坊主はリフ、赤いのと外に出てるからよ。あいつらは呼ぶまで入ってこないんだよ。」


「リフ、赤いの・・・それはアリスも楽しそうですね。」


 エトが優しく微笑む、知り合いの人が色々集まっているのかしら?

 シアさんに案内された先はとてもレストランには見えなかった、看板もなければ飾り気もないただの建物だ。


「ここ営業してないの?」


「いや、お客は来ないけどな。いつでも食べに来ていいぜ、アサヒなら大体いるからな。カナデ嬢もいつでも来いよ。」


 名前を呼ばれただけで恥ずかしくなるわ、私は無言で頭を下げる。


 シアさんが開けてくれた扉をくぐると中は立派にレストランだった。

 お客さんはいなくてガラガラだけど。


 カウンターキッチンの中で作業をする二人、どちらも凄い綺麗、黒い髪の若い女の子がエトの言っていた知り合いかしら。こちらに気付いて満面の笑みを見せる。


「エトお姉ちゃん、来てくれたんだ! お兄ちゃん呼んでくる?」


 可愛い子、アリスにエトにシアさんにこの子、他にもこの店の中にいる人たち、何かしら? あいつの周りには美形しかいないの!?

 ところで今お姉ちゃんって言った? エトはさっき私達より年上って言ってた気がするけど聞き間違い?


「アサヒ・・・アリスは外に出てるって聞いたけどここにいるの?」


「んー♪ 外にいるよ。お兄ちゃんはほら、お庭でリフと遊んでる♪」


 アサヒさん? 彼女が指さした先には扉、その先に彼がいるの? 窓が付いているから様子は見えそうだけど。

 ・・・フラフラと吸い寄せられる様にエトが向かって行くわ。


「くくく。」


 シアさんが楽しそうに口に手を当てて笑う、エトを大切に思っているのがその様子だけで感じられた。

 エトの後ろから私も窓を覗く、小さな子供と遊んでいるのかしら?


「なっ!」


 あの子が戦ってる!

 相手は背の高い女性、とんでもなく強いわ!

 アリスだって十分強い筈なのにそれを子供の様に相手している、生身で人はこんなに強くなれるのかと驚く、あの細い腕で軽々あの子を吹き飛ばすってなんなの?


「ふふっ、アリス楽しそう。」


 私が戦いに見入っていると前から笑う声が聞こえた。

 本当に彼の事だと幸せそうに笑うんだな。

 改めて彼の事を見れば確かに楽しそう、必死に真剣でそれなのに楽しそう。彼があんな風に剣を振るう所を見た事は無かった、いつも必死に真剣にだけど感情を隠そうと彼はしていたんだろうな。

 

 ・・・やっぱり龍使徒を辞めて良かったんだな。


「うん。私、帰るね。」


 両手をぐって握ってエトは窓から離れる。


「本当に会っていかないの?」


「幸せそうなアリスを見れただけで充分、私も頑張んないと。カナデは混ざって来てもいいんじゃない?」


 この子はこれ以上頑張ってどうするんだか、神子の頂点・・・か。

 その先にこの子の幸せがあるとはどうも思えないんだけどね。


「私もいいよ、一緒に帰る。」


「エトお姉ちゃんもカナデ・アイリもご飯食べていってよ。すぐ出せるから♪」


 私達はお言葉に甘えてご馳走になる事にした。

 お店の隅で寝ている人と、テーブルで精巧なお城を作ってる人はなんなんだろう。


「アサヒが作ったの? 美味しいわ。」


 エトの言う通り、出された料理はよく出来た物だった、普通にお金を払ってでも食べたくなる。


「よかった♪ 鶏肉のトマト煮込み♪ お兄ちゃんが好きだって言うから今毎日作ってるんだ♪」


「いや、毎日はやめなさいよ。さすがに飽きるでしょ。」


 アサヒさんは幸せいっぱいに言っていたけど、私はついその笑顔を壊すような事を言ってしまった。

 悪気はなかったの、だっていくら美味しくても毎日続くのは違うでしょ?


「そっか♪ それもそうだね、気を付けよう。教えてくれてありがとね♪」


 気分を害した様子もなくニコリと笑う、本当にかわいい人だ。こんな人がアリスの近くにいて平気なの? エトの様子を覗うと真剣な顔でお皿を見ていた。


「アサヒ、あんまり気合入れて料理しないでね。アリスが美味しいものに慣れたら困る。」


「やだよ♪ アサヒはお兄ちゃんの為に美味しいご飯を作るのが嬉しいんだもん♪ お姉ちゃんも頑張って♪」


「そうね、そうするわ。」


 そして、二人は笑い合った。

 まるで陽だまりの中の様な空気がそこにはあった。



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