戦国武術会編第1話〜武田vs上杉〜
この戦国武術会。子孫達が戦う話は、連載開始当初から考えていました。
企画物では無く、ちゃんとストーリーに乗らせるつもりです。
こういったやつは企画倒れになりやすいので、更新が遅れるかもしれません。ご容赦を。
「いただきまーす」
時は遡り、文化祭より少し前の事。
俺達はいつも通り、十人で固まりながら昼食を取っていた。
「それで、澪と明日香は武器を出せるようになったのか?」
涼子が澪に聞く。
十人全員、お互いが子孫だと分かっているからこそ、涼子は聞いたのだろう。
「まだだよ〜」
「今特訓している所ですわ」
「そうでござる。明日香殿は、拙者と二人で愛のとっく−−」
「お黙りなさーい!!!」
バチコーン!!!
明日香打ったー!!! 場外ホームランですっ!!!
「澪は今、私と特訓しています…」
「うん。わたし雪りんと頑張ってるよ」
「そうか。頑張れよ澪」
言って俺は澪の頭を撫でた。
「うんっ!」
そこで俺は、澪が返事をしたと同時に、多方向から殺気を感じた。
その中でも特に、里美から放たれている殺気は桁が違った。
「大友も今川も、そんなには強く思われていないですわね」
「ああ。特に今川は、噛ませ犬みたいに思われがちだよな」
と、自虐をするかのように言った明日香に対し、兼次が言った。
「大友も家臣ばかり評価されて、本人はあまり評価されてないわね」
「そうだね〜。九州三強の一人なんだけどね〜」
里美の意見に、忠海が同意をする。
「ねぇみんな」
そして今まで一言も喋っていなかった人物が口を開いた。
そして彼女は、誰もが思うような当たり前の事。しかし、俺達にとっては最重要な疑問を口にした。
「戦国最強って誰だろうね?」
七美の放ったこの一言から全ては始まった。
〜戦国武術会編〜
「そんなのボクに決まってるよ! 本多忠勝だよ!」
「いーや違う。最強は直江兼続だ」
「立花道雪です…」
「最強は前田さんですよ!」
「当然、雑賀孫市さ」
「上杉謙信に決まってんでしょ!」
「伊達政宗よ!」
「服部半蔵で決まりでござるよ!」
「今川義元ですわ!」
「アンタらは馬鹿かい!? 毛利元就に決まってんじゃないか!」
「最強は井伊直政じゃい!」
「あなた達は補習が必要ね。最強は島左近という常識も分からないんですから」
「北条氏康…」
「いや、島津義弘だ!」
「風魔小太郎だよ!」
「酒井忠次だっつーの!」
「長宗我部元親だったらいいですね…」
「賑やかね〜」
「私が余計な事を言ったばっかりに…」
この状況を見た綾子さんが言った。そして七美は反省しているようだ。
因みに上から忠海、兼次、雪江さん、高政、吉川、里美、詩織里、四分蔵、明日香、玲奈さん、直正さん、成美さん、梨香先生、涼子、お嬢、有次さん、沙織里。
非常に多い。
読者の皆様方には、誰がどの子孫かというのを今、確認して欲しい。
そして俺達子孫が何故ここまで一様に集まったのか。
それは七美が質問を投げ掛けた日の夜、外康さんの家での事だった。
…。
……。
………。
「最強はボクだよ!」
「いや、拙者でござる」
「最強はワシじゃい!」
「最強は俺だ」
「最強は前田さんです!」
「慶二ちゃん。これはどうしたのかしら?」
この様子を見た外康さんは、俺に問い掛ける。
俺は昼休み、そして万部であった事を話した。
「つまり、誰が最強かを言い争ってるのね?」
「はい。昼休みからずっとあんな感じです」
「そう…。それなら…」
と、外康さんは何かを持ってこようとするのかどうか、二階へ上がって行った。
そして一、二分した後、外康さんは手に紙を持って二階から下りてくる。
「これこれ」
言ってその紙を俺に見せた。
「なになに…」
戦国武術会開催のお知らせ。
開催日時、一月予定
参加資格、戦国武将の子孫である事以外は問わない。
子孫四〜五人で、一つのチームを組む。四人のチームは五人のチームと戦う場合、誰かが二回戦うなど、多少不利になるので、注意。
形式はトーナメント。
試合方法は問わない。それについては対戦チーム同士で決める。
そして優勝チームには好きな物を差し上げます。
「これは…?」
「あら、知らなかったのね? これは…。アタシ…が主催する、子孫同士の交流を目的とした、武術会よ」
「へぇ〜」
「今回は、信永のせいで対立するようになった子孫同士が、仲良くなれればなー。って大会ね♪」
「こんな大会があったんですね」
と、そこで俺の後ろに人の気配を感じた。
「よしっ、決着はそこで付けるよ!」
「望む所じゃい!」
「前田さんが最強だという事を教えてあげますよ!」
どうやらこの紙を皆に見られてしまったようだった。
…。
……。
………。
こうなったら奴らは止まらない。結局俺と七美以外は参加する事に賛成をして、結局参加する事になってしまったのだった。
そんなこんなで俺達は武術会が行われる島、誠島へと向かう為の専用豪華客船に乗っている。
船内には他の参加者もちらほらと見掛ける。その中には、あの柴田負家の姿もあった。
そして彼は俺にこう言った。
『前田慶二。あの時は済まなかった。もし俺達と当たったらよろしくな』
と、俺は負家のこの言葉をとても嬉しく感じた。
なんて、俺がほのぼのしていた、そんな時だった。
「お館様ぁぁぁ!!!」
「うぉわぁぁぁ!!!」
心臓が一瞬止まったぞコノヤロー!!!
ってこの声は…。
「お久しぶりですお館様ぁぁぁ!!!」
「うぉっ! 昌影じゃん! 一年ぶりだな!」
と、大声で俺の名前を呼んだのは、山県昌景の子孫、山県昌影だった。
「私だけではありませんっ!!! 内藤も馬場も高坂も、真田、山本も来ています!!!」
「幸菜姉ちゃんも来てるのか!?」
「はいぃぃぃ!!! 上杉、直江と会えるのをっ! 楽しみにしていましたよぉぉぉ!!!」
「分かったから、テンション高いんだってば」
「もぉぉぉし訳っ! ありまっせぇぇぇんっ!!!」
ちなみにこいつは、晴信と勝頼時代の武田四天王。信虎と晴信の二代になると、板垣、飯富など、違った四天王の名前が上がる。
「あれはお館様っ!?」
「……」
「あっ、お兄ちゃんだ〜」
と、山県に続いて、内藤、馬場、高坂がやってきた。
「皆久しぶりだな〜!」
「お久しぶりですお館様っ。私、お館様に会えるのをどんなに待ち望んだことか…」
と、この女性は馬場信春の子孫、馬場小春。ばばこはる、だ。
性格は至って真面目。俺の為に色々と尽くしてくれるのだが、ドジばかりしてしまうおっちょこちょいな面もある。
確か…もうすぐ二十歳になる大学生だったと思う。
「久方…」
この無口な男は内藤昌豊の子孫、内藤和豊。ないとうかずとよ、だ。
無口な事以外、特に言う事は無い。
「会いたかったよお兄ちゃーん!」
と、この無邪気な女の子は高坂昌信の子孫で、高坂昌。こうさかあきら、だ。
とても無邪気で、もうすぐ中学を卒業する、中学三年生。妹好きにはたまらない女の子だ。
「お館様ぁぁぁ!!! 俺の紹介はまだですかぁぁぁ!!!」
「さっきしただろうが!!!」
「もぉぉぉし訳っ! ありまっせぇぇぇんっ!!!」
「お前は謝り方もうるさいんだよ!」
「もぉぉぉし訳っ! ありまっせぇぇぇんっ!!!」
駄目だ。こいつに何を言っても逆効果だ。
まぁ一応、詳しい紹介をしておく。
このうるさい男は山県昌景の子孫、山県昌影。やまがたまさかげと読む。
人の話を全く聞かず、我が道突き進む男だ。とにかくうるさい。
「お館様、一年会わない間に見違えましたね」
「……同感」
「カッコよくなったよっ!」
「さすがお館様だぁぁぁ!!!」
「あぁもう、お前は黙れよ!!!」
「慶二、この人達は誰?」
俺達が再会の喜びを味わっている、そんな時、里美が俺の所にやってきた。
「こいつらは武田四天王の子孫だよ」
「へぇ〜。そうなんだ」
里美は納得し、四人の方を向いた。
「はじめまして。伊勢里美、上杉謙信の子孫です」
「あんたが伊勢里美かー!!! 話は幸菜から聞いてるぞー!!!」
「もうお前は喋るな!!!」
「もぉぉぉし訳っ! ありまっせぇぇぇんっ!!!」
あぁ面倒臭い!
俺は昌影を黙らせてから、里美を見た。
「とにかく紹介するよ。このうるさいのが山県昌影。俺達の一つ下だ」
「よろしくぅっ!!!」
「よ、よろしく…」
昌影のテンションに、里美もタジタジの様だった。
「それでこの人が馬場小春さん。大学生だ」
「上杉め、お館様に何かやってみなさい。私が貴女を潰しますから」
「すいません……」
小春さんの意味不明な発言に、里美もタジタジの様だ。
「この人が内藤和豊。同い年だ」
「……」
「よ、よろしく…」
顔を真っ赤にしていた和豊に、里美はタジタジだった。
「そんでこの子が高坂昌。中学三年生だ」
「お兄ちゃんに近寄らないでねっ!」
「……」
俺は一通り紹介をし終えた。と、そこで里美が俺に耳打ちをする。
「何よこの人達は…!」
「武田四天王の子孫だが…」
「そんな事知ってるわよ! 私が聞きたいのは−−」
「待て里美!」
俺は近くから殺気を感じ、里美の口元に手をかざして黙らせた。
そして俺の勘は当たったらしく−−。
「おいそこのお前! 里美から離れろ!」
「やっぱり里美もいたんだ」
「まあまあ定充。落ち着きなよ」
俺に殺気を放っていたのは、里美から離れろと言った、一番最初の男だった。
三人共俺と同年代のように見える。
そして俺達二人の前で止まった。
てっきり里美目当てで絡んで来たのかと思っていた俺は、三人の内の、真ん中に居た女の子を見た途端、拍子抜け。ではなく、仰天してしまった。
「アキちゃん!?」
「やっほー慶二君っ」
「彼女の本名は柿崎景明。北条低広、宇佐美定充、俺と同じ上杉家重臣の子孫だ」
と、いきなり兼次が来て、説明をしてくれた。
宇佐美定充は、宇佐美定満の子孫。そして北条低広は、北条高広の子孫だ。この二人の名前は以前兼次に聞いた事が有る。
しかし、問題なのは柿崎景明がアキちゃんだという事。
呼んでも否定しなかったし、アキちゃんはやはり子孫なのだろう。
「アキちゃんは本来、里美の側で護衛をする役目なんだがな。本人に護衛をやる気は全く無い」
「慶二君たら、開いた口も塞がらないくらい驚いているわね」
まさにアキちゃんの言った通り。俺はかなり驚いている。
そしてそんな時−−。
「お館様ぁぁぁ!!!」
「大丈夫ですかお館様!?」
「逃…」
「お兄ちゃん大丈夫?」
「お前らは武田か!? まさかこの男、信玄の子孫だったのか!?」
「宇佐美、とりあえず落ち着きなよ」
面倒な事に昌影を始め、小春さんらが来てしまった。
それに反応をする宇佐美と止める北条。
ついに出会った武田と上杉…。
と言っても、昌影と宇佐美の、似た者同士が睨み合いを始めただけだった。
しかし、今は睨み合いをしているだけだが、このまま戦闘を始められたりしら、たまったもんじゃない。
俺は面倒な事になる前に、この場から退避することにした。
「そんじゃ俺はトイレに行ってくる」
実際、俺は先程から尿意を催していた。だから逃げる為の言い訳という事でも無かった。
そしてそれだけを言って、トイレに行こうとした俺なのだが、小春さんに、待ってください。と言われたので、立ち止まる。
「それなら私がお供させて頂きます」
「ちょっとあんた! 何言ってんのよ!」
俺が何かを言う前に、里美が小春さんに突っ掛かる。
「上杉はお黙りなさい。私はお館様に言っているんですから」
「黙っていられるもんですか! 慶二のトイレに付いて行っていいのは私だけよ!」
どうしてそうなる?
「ならお館様に、どっちに付いて来て欲しいか、決めて貰いましょう」
「いいわよ。私が負ける訳が無いけどね」
どうしてそうなる?
「お館様! お決めになって下さい!」
いや、一人で行くって選択肢は無いの?
無いか…。
俺は覚悟を決めて二人を交互に凝視した。
顔の可愛さ、里美。
身長、小春さん。
胸…。
「行きましょうか、小春さん」
「はいっ。喜んでお供させて頂きますわっ♪」
「ちょっと慶二!」
「お前は積もる話があるんだろ? あいつらと」
「う、うん…。それは…」
里美はそれから何も言わなかった。
そして俺達はトイレに向かうべく、甲板から船内へと入った。
今回俺達が乗っているこの船は、いわゆる豪華客船とよばれる船だ。今日、俺達参加者はこの船で一泊をする。
さすがに豪華客船と呼ばれる部類の船だけあって、高級感が漂う。
とにかく俺達高校生が乗るような船じゃない事は確かだ。いったい参加料も取らないこの大会で、どうやったらこんなに豪華な船に乗れるのか。それは分からない。
「で、話があるんですよね?」
「さすがお館様。お察しがよろしいんですのねっ」
「えへへ〜。それ程でも〜。…で、その話とは?」
小春さんはニコニコ顔から、真面目な顔へと切り替えて言った。
「簡単に言えば、気を抜かないで下さい。こういう事です」
「気を抜かないで? どういう事です?」
「はい。この大会には何か裏がある。と、缶助が言っていました」
「確かに、この豪華さはちょっとおかしいですよね」
「はい。只今缶助と幸菜が調査中です。詳しい事が分かり次第連絡が来るので…」
外康さん主催って言ってたから、何も気にする事は無いだろう。
しかし、もし外康さんにも予想出来ない事態が起こる可能性も有る…。
「分かりました、一応警戒はしておきます。小春さん、わざわざすいません」
「いえっ、お館様の役に立てるなら本望ですわっ♪」
そして俺はトイレに入って行った。
大会開催は明日。
戦国武術会。いったいどんな子孫達が参加してくるのだろうか…。
宇佐美定充は以前、宇佐美動光と書いていましたが、改名をしました。と共に、名前が出た話を修正しました。
改名理由はたいした理由ではないので省略します。
申し訳ありませんm(__)m