第41話〜修学旅行四日目〜
「全員動くな!!!」
銃を持った男が叫ぶと、飛行機に乗っている乗客が悲鳴をあげる。乗客と言ってもここいら一帯は俺達学生しかいないのだが。
「あの人は誰?」
「ハイジャックでござる」
俺の右隣りに座っている忠海の質問に、その右隣りにいる四分蔵が答えた。
そう。四分蔵が言った通り、俺達が乗っている、沖縄から仙台に向かっているこの飛行機は、ハイジャックされてしまったのだ。今俺達の近くにいる犯人は、覆面を付けていて顔が分からない。そしてこいつらは単独犯ではないだろう、おそらく仲間が別の場所にいると考えられる。
俺の額に冷や汗が滴り落ちる。この死と隣り合わせの緊張感の中で俺は−−。
「トイレ〜」
澪ォォォー!!!!!
「動くなって言ってるだろうが!!!」
「はぅ…このままじゃ漏れちゃうのに…」
だとしても言い方って物があるだろうが!!!
「まあいいだろう。トイレに行ってこい」
「ありがと〜犯人さん♪」
「終わったら手をちゃんと洗うんだぞ」
「は〜い」
そして左隣りにいた澪は、トイレに行った。
犯人はいいやつだな…。
「慶二、ボクそっちに行っていい?」
忠海が澪の座っていた席を指差して言った。
「動くなって言われてるだろ…。下手に動いたら撃たれるぞ」
「うん…。でももう耐えられないんだよ…」
そうか。犯人は忠海の席側の通路にいる。忠海はそんな状況が耐えられなかったのだろうな。
「四分蔵の臭いに…」
「拙者ー!?」
そして忠海は立ち上がった。
「おい!動くなって言ってるだろ!!!」
言って犯人は忠海と四分蔵の近くに寄って来る。
「どうして席を立った!」
犯人は銃を忠海に構えながら問い掛けた。
「だってこの人が臭いんだもん」
「臭いだと?そんな嘘を……臭っ!くっさー!何これくっさー!!!」
「失礼でござる!!!」
犯人の鼻を攻撃!
「何?嬢ちゃんはこれと知り合いなの?」
「ううん。知らない人だよ」
「なるほどな。おい臭太郎!」
命名、臭太郎
「お前は地球に悪影響だ!今すぐに殺してやる!立て!」
地球に優しいハイジャックさんなんですね。
四分蔵は自分の右隣りある通路の上に立ち上がった。そして犯人は銃を構える。しかし四分蔵は、ククク。と笑みを浮かべた。
「何故笑っている!」
「拙者を殺すなら戦車が三台必要でござる」
少なっ!ホラ吹いてそれかっ!
「あっそう。じゃあ死ね」
「ちょっとちょっと!戦車が三台必要だと言ったではござらんか!」
「ああそう。じゃあ死ね」
「くっ!能力を使いたくはなかったが致し方ないでござるっ!」
そうか臭太郎にはあれがあった。そう、影移動の能力が。
「消えたっ!?」
四分蔵は影を移動し、犯人の後ろに回り込んだ。
よし、今がチャンスだ。頑張れ臭太郎!
しかし−−。
ガァーン!!!
「あ、すまない臭太郎」
木刀素振りをしていた涼子の木刀にヒット!そのままダウーン!
「とりあえず地球は救われたね、慶二」
「そうだな、忠海」
犯人も四分蔵の戦闘不能に一安心だが、次に対処しなければいけない問題が一つ残ってしまっていた。
「おい、嬢ちゃん。その木刀をしまえ!」
「断る。私は今修行をしているんだ。邪魔をするな」
「邪魔をするなだと!?舐めてるのか!?」
「……」
犯人は説得を諦めた。まあ素振りをしている分に、害は無いと判断したんだろう。そして犯人は辺りを見回した後何かを見つけ、その方によって行った。
「おい、嬢ちゃん」
「私の事?」
「化粧は後にしろ!今の状況を分かってやってんのか!?」
どうやら七美はこの状況で化粧直しをしていたらしい。
「細かい事は気にしないのっ♪」
「細かい事ってお前−−」
−−ピリリリリ〜♪
携帯の着信音が鳴った。
「もしもし、お父様ですの?」
明日香だ。早速犯人は明日香の元へと向かう。
「機内では携帯電話の電源を切れ!!!」
そっち!?
この状況を…とか言うのかと思ったんだけど。
「ええ。慶二さんならいますわよ。ええ、ええ、そうですわね。それじゃあ車は時間通りに空港まで。それでは」
ピッ
「電源を切れ!」
「うるさいですわね!どうして私が、犯罪者にどうのこうの言われなければなりませんの!」
「馬鹿野郎!犯罪者とかの問題じゃねえ!飛行機に問題が生じるかもしれないんだぞ!」
「だからどうしてそれを犯罪者に言われなければなりませんのよ!私は貴方みたいな、下等人の言う事は聞きませんわ!」
「だ、だって…」
「だってもヘチマもありませんわ!たかだか犯罪者のくせして、私に忠告などおととい来やがれですわ!」
「…エーン!ママー!」
明日香がハイジャック犯を泣かした。しかし文字通り、明日香は男泣かせだな。
それにしても、あの人達はこの状況で…。
「テメエ!今アタイの足を踏んだだろ!」
「踏んでいないわよ!変な言い掛かりつけないでくれるかしら!」
玲奈さんと里美。
「オラァ!」
「いったーい!やったわね!」
「二人とも、やめなさいよ」
そしてそれを止めようとする詩織里。詩織里はこの狂犬二人に挟まれているので、大変そうだな。
「えいっ!」
「いったー!やったなぺちゃんこ女!」
「だから止めなさいって言ってるのよ!」
「「うるさい!眼鏡女!」」
「言ったわねー!!!」
あちゃー。ついに詩織里まで怒りが爆発しちゃったよ…。ハイジャックされてなきゃ今すぐにでも止めたいんだが…。
「テメエら静かにしやがれ!!!」
とそんな時、明日香に泣かされたハイジャック犯の代わりに、別のハイジャック犯が来た。この人は先程までの人と違って本格的にやばいようだ。
そんな状況下、澪がトイレから出て来た。
「ふぃ〜すっきり…し……」
澪もその男を見るなり言葉を失う。
「さっさと座りやがれ!!!」
「ご、ごめんなさいっ!」
澪は急いで俺の左隣りに座る。ちなみに忠海は四分蔵がいなくなったので、席を移動していない。
それにしても、このハイジャック犯は先程までの人とは違う。今まで幾つもの死線をくぐり抜けてきた、言わば本物の犯罪者だ。俺には分かる。こいつはやばい。少しでも下手に行動すれば殺される。
忠海や明日香達もそれが分かったらしく、先程までの余裕は微塵も感じられない。涼子は素振りを止め、里美達も喧嘩を中断し、黙り込んでいる。
たしかにそれが賢明な判断だろう。何故なら、それ程までにこの男は危険なのだからだ。再びその場に緊張が走る。
しかし−−。
「さおりん、明日どこに行く?」
「兼次さんと一緒ならどこでもいいです♪」
「それじゃあ困るんだよ。ちゃんと場所を言ってくれなきゃ」
「それじゃあ…」
「兼次さんの心に♪」
「うれしいよさおりん♪」
「兼次さん♪」
チュッ
いっそのこと撃たれろぉぉぉ!!!!!
「おい、テメエら…」
ほらほらぁ!ハイジャック犯が近付いて行ったじゃないか!
「さおりん」
「何ですか兼次さん」
「おい、テメエら」
「最近俺、目がおかしいんだ…」
「兼次さん、大丈夫ですか!?眼科に行った方が…」
「おいテメエら、聞いてんのか」
「いや、眼科じゃあ絶対に治らない。これは不治の病だ…」
「兼次さん!それってどんな症状なんですか!?」
「おい!!!」
「それは…」
「言ってください兼次さん!私が絶対に治してみせますから」
「テメエら!!!」
「分かった。これを聞いてショックを受けないでくれ」
「はい…」
「おい!!!」
「実は俺…」
「最近、さおりん以外見えないんだ…」
「兼次さーん♪」
ハァ?
「恋眼って言う病気かな…」
「兼次さん♪」
もう撃たれちまえよあいつ。
「聞いてるのかテメエら!!!」
ハイジャック犯さん。そいつ、一思いにやっちゃって下さい。
「何だお前!さおりんに惚れたのか!」
「私は兼次さん以外興味ありませんから、お断りします!」
一思いに、パーン。って。
「ふ…ふ……」
しかし、ハイジャック犯の様子がおかしい。
「フラれたー!!!」
フラれたー!?
…。
……。
………。
「ただいまー」
「ただいま!」
「お帰りなさいさっちゃん、慶ちゃん♪」
ぎゅむ〜
いやぁ…。綾子さん、たまりませんなぁ…。
「お母さん、一昨日言ったでしょ。慶二に抱き着かないで」
「あらあら〜。そうだったわね〜♪」
俺は綾子さんの天国固めから開放される。逆十字固め、四の字固め、そして天国固めだ。
「はい、お土産よ」
そうして帰って来た俺達は、まずお土産を綾子さんに渡した。
「楽しかったかしら〜?」
「もう大変だったわよ。飛行機はハイジャックされるし」
「でもよかったわ〜。結局自首したんでしょ〜? なんでも、ハイジャック犯のリーダーの心が折れたとか〜」
そう、あの後俺達は普通に仙台空港へと辿り着けたのだ。どうやら沙織里にフラれたあの男がリーダーだったらしい。
「とにかく、お風呂が沸いてるから入ってきたらどうかしら〜」
「慶二、先に入っていいわよ。私部屋でやる事があるから」
「分かった」
俺は着替えとバスタオルを用意して、風呂場へと向かった。
「さっちゃん、よかったわね♪」
「うん。ごめんねお母さん…」
「何がかしら?」
「だってお母さんも…慶二の事…」
「フフッ♪」
「どうしたの?」
「わたしは慶ちゃんの事が大好きよ〜。でもそれは、結婚したりお付き合いしたいっていう、好き。じゃないの」
「え…?」
「さっちゃんには難しかったかしら〜?」
「そんな事分かる訳ないじゃない!」
「フフフッ♪」
「もうっ!笑わないでよっ!」
「慶ちゃんと仲良くね♪」
「うん!」
そうして慶二達の、最初で最後の修学旅行が幕を閉じた。
有次『俺と』
直正『わしの』
二人『元ネタ武将はどんな人?のコーナー!!!』
有次『第二回目のゲストはクールビューティー、雪江さんだ』
雪江『よろしくお願いします…』
直正『そして今回の武将は、奥羽の独眼竜。伊達政宗じゃい』
有次『彼は米沢、米沢城で生まれた。1571年、疱瘡(天然痘)に罹り右目を失明するんだ。それ以降、母親の最上義姫に姿が醜いと疎まれ、弟の伊達小次郎だけが母の愛情を注がれたと言われているんだ』
直正『しかしその母から毒を盛られた時、政宗は、母に罪はない。と母を弁護したと伝わっているんじゃ』
雪江『母親は眼に異常の無い弟を当主に立てる為、眼が無い政宗を排除しようとしたんですね…』
有次『しかし政宗は1584年、18歳という若さで家督を相続する。父の輝宗は41歳の働き盛りでもあり、政宗は当初、年少を理由に辞退を申し出たんだが、政宗の武将としての素質を見抜いていた輝宗の決意は固く、家督を相続することとなったんだ』
直正『その輝宗の目は正しく、政宗は1589年に奥州南部の大部分を支配下に置いたんじゃ』
雪江『凄まじい早さですね…』
有次『そして政宗は当初、秀吉に対抗する姿勢を見せていたのだが結局、秀吉の兵動員数に圧倒された政宗は臣従を誓い、本領を安堵されるんだ』
直正『その豊臣秀吉死後。1600年に家康が会津上杉景勝に謀反容疑をかけ、上杉討伐を行うと、政宗はそれに従軍して、白石城を陥落させたんじゃい』
有次『同年9月、関ヶ原の戦いになると、家康ら東軍に属した政宗は、上杉氏の将・直江兼続率いる軍が最上氏居城山形城を攻撃すると、伊達政景を名代として最上に援軍を派遣した。これは長谷堂城の戦いだな。その戦いで、最初の方は劣勢になるものの、関が原で西軍が大敗を喫したという情報が、直江兼続のもとにもたらされたので、上杉軍は撤退し、その戦いで勝利するんだ』
直正『その後政宗は、3代将軍徳川家光の頃まで仕え、1636年江戸で死亡。享年70だったんじゃい』
雪江『なるほど…』
有次『本当はもっと色々なことがあったんだがな。今回は、はしょって説明させてもらった』
直正『まあ、今回わしらからは特に無いのう。強いて言うなら、伊達政宗を描いた大河ドラマ、独眼竜政宗。これはNHK大河ドラマとしては史上最高の平均視聴率39.7%を獲得したんじゃい』
雪江『本当に人気な武将なんですね』
直正『と、言うわけでまた次回じゃい』
有次『今回のゲストはクールビューティー雪江さんでした』
三人『さようなら』