第5話〜買いすぎに注意〜
「まったくあんたも不必要な物ばっかり買おうとして…」
「そうか?」
「まったく…。お金を出すのは私達なのよ!」
本日予定していた、荷物整理も買い物も無事に終わった。
そして俺も綾子さんも昼ご飯を食べていなかったので、米沢駅の近くにあるレストランに来ている。
「ほらほらさっちゃん、落ち着きなさい」
「だってお母さん!」
「お金のことなら気にしなくても大丈夫だから、ね?」
「うん…」
それにしても昔からこの流れは変わっていない。
里美が暴走、それを宥める綾子さん。一つのコントだよな。
「じゃあ決まったかしら〜」
「決まったよ」
「決まりました」
と、そこで綾子さんがボタンを押し、店員を呼び出した。
しかし、俺はやってきた店員さんを見て、驚いた。
「いらっしゃいませ! ご注文は?」
かなり美人だ。里美にも負けず劣らずの可愛さ、何よりも元気がありそうな人だった。
「じゃあわたしは、ペペカルナポルゼンチーナもしかして敏行? スパゲッティにしようかしら」
綾子さんが口にしたメニューは、なんかすっげぇ名前だった。
だが俺も負けるか!
「じゃあ俺は海鮮とトンカツサンドの炒め風どっちかといえばコーチ中華ドリア…」
「あれ! 七美!?」
「ん? 里美じゃない♪」
「えー! 七美ってここで働いてたんだ」
「知らなかったの!?」
俺の渾身のメニューは掻き消された。まあ仕方ない。
とにかく、七美と呼ばれたこの可愛い店員は、どうやら里美の友達らしい。
「七美…。ちゃんね? いつも里美がお世話になっています」
「いえいえこちらこそ! いつも里美がお世話になってます!」
「何バカなこと言ってんのよ!」
里美が七美にツッコんだ。
「それで…。この人は里美のお姉さんなの?」
「違うよ。お母さんだよ」
「まあ♪ 嬉しいわ〜」
「ぬぇっぺそすー!!!!!!!!」
だよな。それが普通の反応だと思う。実際どう見ても20才前半のお姉さんだし。
「だよね♪ それに君の言った通り、20才前後のお姉さんにしか見えないよ」
七美さん…。だったか? やっぱりあんたもそう思うか。なんてったって十六歳違いの親子だからな。
「そうなの? あと私のことは七美って呼んでちょうだい♪」
わかった。よろしくな七美。
「こちらこそよろしくね♪」
……ん?
「そんで里美、この男の人は誰なの?」
会話をしていた気がしたが、多分気のせいだろう…。
「ああこの変態ね」
「何だよその言い方は!」
「うっさいわね! 少し黙っていなさい!」
なんて理不尽なんだ! しかしこの世の中には上下関係というものが存在する。俺は里美に勝てない。よって従うまでだ。
権力に屈する男! 前田慶二!!!
「こいつの名前は前田慶二よ。昔ここに住んでいて、昨日ここに戻ってきたの」
「前田慶二…?」
「どうしたの七美?」
七美の顔が曇った。しかしすぐに表情を戻すと、俺の顔をじろじろ見ながら言う。
「もしかして米沢にいた?」
「ああ。小学3年までな」
「やっぱり! あなた!」
「七美…。そんなことより今バイト中なんでしょ?」
「あー! そうだったー♪」
なんかドタバタ騒がしい人だ。
「じゃあ私は鬼のようなバウムクーヘンで」
おいおいお前はバカか。ファミレスにバウムクーヘンなんかあるわけが−−。
「かしこまり♪」
ファミレス侮りがたしっ!
そして七美は注文を繰り返さずに、キーンと言いながら厨房へと向かった。
「…お前の友達は騒がしいな」
「七海はね。でも友達思いのとってもいい子よ」
「へぇ〜。仲いいんだ?」
「うん。私と同じクラスなのよ」
「そっか」
ん? そういえば綾子さん、さっきから七美の行った方ばかり見ているな…。
「今の子は…」
「綾子さんどうしました?」
「…あら? わたしを心配してくれるの? 慶ちゃんやさし〜♪」
言って綾子さんはまた抱き着いてきた。よって罠カード(バーサーカー里美)発動!
ドッカーン!!!!
はぁ…。やっとまた会えた。どんなに探しても見つからなかったあの人に会えるなんて、今でもドキドキしてる…。
それに会えただけならまだしも、前田慶二。多分、前田慶次の子孫ね…。
「同じ高校に入ってくるのかな? だったらいいけどなー」
そして結局何も頼んでいなかった慶二はもう一度注文をする羽目になった…
…。
……。
………。
「ただいまー」
「ただいま〜♪」
「おじゃ…。ただいま!」
時間が時間だったので、ファミレスでの食事は夕ご飯となってしまった。しかし量が多かったので、お腹はパンパンだ。
「部活後に買い物するのにはさすがにつかれたわ…」
「一日中付き合わせちゃってすいません綾子さん」
「あら〜。慶ちゃんの為ならいくらでも疲れてあげちゃうわよ〜♪」
「里美も部活で疲れたのに付き合わせたりして悪かったな」
「べ…。べつに2人っきりにすると、お母さんに何をするか分からないから監視しただけよ!」
あーはいはい。まったく、素直じゃない。
ん、そういえばやらなきゃいけない事があったんだったな。
「そんじゃ、昨日はサボっちゃったけど、今日はトレーニングをしないとな」
「あれ? 慶二、トレーニングなんてしてるの」
「ん、ああ。じいちゃんに無理矢理やらされてただけだが」
「あら〜。大変ね〜」
「ふーん、じゃあせいぜい頑張りなさいよ」
「はいはい。そんじゃあ着替えていこっかな」
このトレーニングだが、走った後に剣道の素振りをするだけだが距離も回数もありえない。そもそもどうして体力を付けるトレーニングをやらされているのか。というと、じいちゃんいわく、俺の力は体力を沢山消費するから、らしい。
なんて説明している間に着替終わった。なので玄関に向かうことにする。
「それじゃあいってきまーす」
「「いってらっしゃーい」」
…。
……。
………。
「さすがに42,195キロはきついな…」
と、いいつつ2時間半であと1キロという所まできているカッコイイ俺。なんてことを考えながら走っていたからだろうか…。
「「アイターッ!!!」」
人とぶつかってしまった。俺はそのまま後ろに倒れて、尻餅をつく。
「大丈夫ですか?」
俺は地面にぶつかった人にそう聞いてみた。
「ああ、俺は大丈夫だ。お前は大丈夫なのか?」
普通なら女の子とぶつかるはずなのだが、声質からすると男とぶつかってしまったらしい。それにしてもこの男…。どこかで見たことあるような…。
「ん?お前は…」
どうやら向こうも同じことを思ったらしく、俺の顔をまじまじと見てきた。
「もしかして慶二か?」
「そうだが、お前は一体…?」
「兼次だ! かねつぐ!」
「あー! 兼次か!!!」
「久しぶりだな」
なんて言っているこの男は島兼次。俺がこの町にいた時、仲が良かったやつだ。
ちなみにこいつは戦国武将、直江兼続の子孫で本名は直江兼次。だが、とある理由で本名は隠している。というか基本的にほとんどの子孫は名前を隠している。その理由は追い追いわかる。
この言い回しさーんかーいめー!!!
「しかしまたなんで帰って来たんだ?」
「じいちゃんのもとで力を制御できるようになったしな。それにあいつがちょっとな…」
「あいつって…。まさか本多か? 徳川軍団なのか? で、どうした…?」
すごいな。当たりだ…。
「まあいいや…。この前あいつが来てこういう話をしたんだ」
…。
……。
………。
「やいやい慶二ぃ!!!米沢に来やがれ! だよ」
「いきなり何だよ? それに米沢って何処なんだ?」
「え? だってそれは…。あれだよ、前田慶次ゆかりの地だよ…」
「あぁそうか…」
「それに慶二の生まれ故郷でしょ! そんな大事なことを忘れちゃダメだよ!」
「ハハハ! 冗談だ、悪い悪い。だけど、なんでまた?」
「あそこには子孫が沢山いるみたいだからだよ」
「ん? というのも?」
「例のあいつが米沢に来ちゃうんだよぉ」
「何だと? 何故わかる?」
「どうしてかはわからないけど、苗字を隠していてもやつに狙われた子孫がでてきているらしいよ。中には自分が子孫だとは知らずに襲われた子孫もいたらしいよ」
「で、何でお前がその情報を…?」
「服部だよ服部四分蔵。四分蔵の情報力を舐めてもらっちゃこまるね! えっへん」
「つまりあいつの組織が子孫を見つける機械を発明。もしくはそれに近い物を作り上げたってことか?」
「え? え? なに? どういうこと?」
「てめぇの頭はすっからかんか!!!」
「ふぁ! ぐりぐりはやめてぇ!」
…。
……。
………。
「こんな感じだ」
とりあえず一通り話し終わった。が、兼次は頭を抱えながら−−。
「ということは徳川のやつらも来るのか…?」
「残念ながら…」
「最悪だ…」
本当に残念そうにしている。
「まあということだから、子孫探しを手伝ってくれないか?」
「…ああ、わかったよ! 俺に任せろ!」
「サンキュー兼次!」
久しぶりに会ったのにこの感じ。やっぱり兼次は相棒だ。
「それでお前のじいちゃんはどうしたんだ?」
「一応、向こうで剣道場を経営しているから来れない。それで俺が入学する高校なんだが…」
「どうせお前の入る学校は米沢高校なんだろ? 俺もそこだ」
「よくわかったな…」
「まあな! そんじゃあ明日学校でな!」
「おう!」
あいつは相変わらず頭がいい。さすが兼続の子孫だ。
「いけね、トレーニング中だった! 帰ろうっと」
しかし慶二は気付かなかった…。今の会話を陰で聞いていた人物に…。
「全て聞いたぞ…ククク…フフハハハハ!アーッハッハッハ!」
「さて明日も病院勤めか…」
「お前だったのかヤブ医者!!!」