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第38話〜修学旅行一日目・後編〜

暗闇。人は暗闇を恐れ、光を求める。それは自然の摂理。もちろん俺も暗闇は好まない。一人ぼっちも好まない。納豆が嫌い。セロリが嫌い。シソの葉が嫌い。人参が嫌い。そして何よりも嫌いなのが、高い所。


うん。そんなことはどうでもいいからさ。



「おいテメエら!何故俺を閉じ込めるんだ!」

「拙者も連れて行くでござる」

「吉川君も連れて来てと言われたのに、君はそれを隠そうとしてるからだ」



俺は部屋の中にある、押し入れに閉じ込められている。ちなみに兼次は沙織里といちゃつきに行った。



「べつに俺としては、四分蔵も吉川も連れていって構わないんだ。正直俺としてもお断りだが、それは黙っておく。しかし、あの人達は絶対に呼ばないでって言ってたから。多分来ても追い出されるぞ」

「出鱈目を言うな!」

「慶二殿、正直に言ってるではないでござるか!」


コンコン


「前田くーん!なかなか来ないから来たんだけどー!いますかー!」



あの声は尼子さんだ。いつまで経っても俺が来ないから、わざわざ出向いてくれたんだろう。



「入りますよー!」


ガチャッ


どうやら尼子さんは室内に入ってきたようだった。足音を聞く限り尼子さん以外にも数人の人達がいる。



「服部くん、吉川くん。前田くん知らない?」

「前田?いったい誰の事でござるか?」

「残念だけどそんな名前は聞いた事無いよ」



くそったれ共がぁぁぁ!!!



「え、ちょっとどうして前田君の存在を抹消しようとしてんの!?」

「いや、拙者達元々前田君なんて人は存じ上げていないでござる」

「小さい頃同じクラスにいたような気がするな」



そりゃ前田なんてクラスに一人はいるだろうよ!!!



「いや、さっきまで一緒にいたんでしょ!?」

「うん、まあそんな事はどうでもいいでござるよ」

「それより僕と遊ばないかい、ハニー達」

「前田君がいないなら私達帰るわ。前田君が帰って来たら、尼子が来たって伝えといてね。それじゃあ」


バタンッ






「…前田殿の責任でござる」

「ああ。前田君が悪い。そうさ、そうに決まってる!」

「あの…そろそろ部屋に行かないと悪いからさ…。出してくれないかな…?」



この二人は人間のクズだが、俺の方にも多少の罪悪感がある為、控え目に頼むことにした。


「絶対に出さないでござるよ!」

「今日一日はドラえもんになってるがいい!ハハハハハ!」



俺の心の中にあった罪悪感は全て消え去った。そしてその罪悪感は殺意へと変貌する。



「おいテメエら。焼き殺されてえか?それとも土に埋もれてえか?選べ」

「焼き殺す?何を馬鹿な事言ってるんだよ」

「吉川殿、駄目でござる!それ以上慶二殿を怒らせてはいけないでござる!!!」


ドッカーン!


慶二は襖を勢いよく蹴飛ばした。そして出てきた慶二は炎を身に纏っている。そう、彼は何の躊躇いもなく前田慶次の能力を発動したのだ。



「まさかお前は…」

「そう、俺は子孫だ。って事は吉川。お前も子孫だったのか?あぁ?」

「ひぃぃ!」



吉川は慶二の言葉に竦み上がる。どうやら実力差は火を見るより明らのようだ。

しかし吉川は手を光らせ、武器を出す。どうやら吉川の武器は鉄砲のようだった。



「く、くそ!僕は雑賀孫市の子孫、雑賀孫一!負ける訳にはいかない!」

「吉川殿、駄目でござる!レベルが違い過ぎるでござる!」

「ほう、鉄砲か」



慶二は既に吉川の後ろに回り込んでいた。吉川はあまりの衝撃に慶二を見る事ができない。



「大人しく謝るなら−−」

「−−すいませんでした!!!」

「申し訳ないでござる!!!」



土下座すんの早っ!

ちなみに俺は怒った振りをしただけだ。こんな事でいちいちキレたりする人間じゃないからな。



「それじゃあ俺は行ってくるわ。じゃあなー」



俺は自分でも浮かれてるな、って分かるくらい浮かれていた。それも無理はない、なんせ俺はこれから禁断の園へ赴くのだから。



…。


……。


………。



暗闇。人は暗闇を恐れ、光を求める。それは自然の摂理。もちろん俺も暗闇は好まない。一人ぼっちも好まない。納豆が嫌い。セロリが嫌い。シソの葉が嫌い。人参が嫌い。そして何よりも嫌いなのが、高い所。


うん。そんなことはどうでもいいからさ。



「どうして沖縄まで来たんですか!」

「そんなの慶二様に会いたいからに決まってますよ♪」



俺は禁断の園へ行く前にジュースを買おうと、一階ロビーにある自販機に向かった。だが、それが間違いだったのかもしれない。金を入れようとした瞬間、後ろから玲奈さんに抱き着かれてしまったのだ。

俺は仕方なく、玲奈さんと一階ロビーにある休憩所の椅子に座った。



「わざわざ学校休んで、私服でここまで来たんですか?」

「はい、慶二様に会いたくて♪」



ナンクルナイサ精神が旺盛だな。仕方ない、今日あの部屋に行くのは諦めよう。事情を説明しに行かなきゃな。



「あの、少しだけここで待っててくれます?」

「嫌です。一緒に行きます!」

「少しだけですから。そのジュースを飲んでくれても構いませんから」

「分かりました」

「それじゃあ」




慶二様は行ってしまいました。あの後ろ姿も凛々しくて素敵です。

あ、皆さんはじめまして。鬼小島玲奈、毛利元就の子孫です。一応ヤンキーをやってまーす。テヘッ。



「何こっちをジロジロ見てんだよこの糞坊主が!」

「す、すいませんっ!」



ったく、可愛くねぇガキだな。


…あ、すいません。いつもの癖でついやっちゃうんですよ…ね…。

それにしても慶二様が残してくれたこのジュース、慶二様は一回口を付けてるんです。飲んでもいいって言われたけど…どうしましょうか…。

あ〜もうドキドキするよ〜。



「慶二様は飲んでもいいって言って下さったんだし…。でも恥ずかしい…」



いや、これは慶二様からの遠回しな愛の告白だったりして。



「ンフフッ♪慶二様とはリッチな生活を…。いや、貧しいながらも愛のある生活をしたいな〜なん…何こっちをジロジロ見てんだこの糞ガキが!」

「す、すいません!」



まったく可愛くねぇガキだ。


あ、すいません。癖です。

とにもかくにも、このペットボトルに口を付ければ結婚は目前。結婚は目前。結婚は目前。よーし、飲むぞー!

そーっと手を近付け…よし、ペットボトルを掴んだ。そのまま口に持ってきて…。



「慶二様の…」



口を−−。

「−−お待たせしました!」



俺が玲奈さんを呼んだ瞬間、彼女はペットボトルに歯をぶつけた。いきなり話し掛けたのがまずかったのかな。



「大丈夫ですか玲奈さん」

「慶二様〜用事にはもうちょっと時間を掛けて下さいよ〜」

「え、だって玲奈さんをそんな長い時間待たせる訳にはいかないし…」

「いいんです!もっと時間をかけて下さい!」



玲奈さんは頬を膨らましながら怒り、そっぽを向いてしまった。俺は玲奈さんに怒られるような事をした覚えはないんだけど。

しかし、怒ってる玲奈さんは可愛く、これもこれでいいか。なんて思ったり。



「まっ、せっかく来てくれたんだし−−」

「−−お、玲奈じゃねーか」



俺が会話を始めようとした瞬間、お嬢が俺達の所にやってきた。お嬢はそのまま俺達の近くにある椅子に座った。白衣姿じゃないお嬢を見るのはレストランのあの企画の時以来だ。



「あれ、里奈っちじゃん。どうしてここにいんの?」

「あのな。それはアタシの台詞だっての。どうしてお前がここにいる。理由は?」

「慶二様に会う為ですよ。ねー、慶二様ー」

「うわっ!性格が変わった!?」



玲奈さんは俺の方を見ながら言う。そんな玲奈さんの性格変化にはお嬢も驚きを隠せないようで、目を真ん丸に見開いている。



「慶二、お前玲奈に何かしたのか?」

「何もしてないです」

「いや、何もしてないのに、これはおかしいぞ」

「ですよね。実はかくかくしかじかで…」



かくかくしかじか。この言葉を使うだけでありとあらゆる粗筋を説明できる、伝説の言葉だ。



「いや、かくかくしかじか。じゃ分からんよ」



ですよねー。


てな事で俺は一から説明をした。お嬢は終始難しい顔をして聞いていた。



「という事です」



しかしお嬢は納得しない様子で、再び玲奈さんを見る。



「慶二が好きなのか?」

「当たり前だっての。世界中の何よりも好きだからな」

「そう…」



そしてお嬢は俺の髪の毛をくしゃくしゃしながら、俺の髪の毛を人差し指に巻き付けながら、もじもじしながら、くしゃみをしてから言った。



「お前は…いい男性を…選んだんじゃない…かなと思うよ…」

「やっぱり里奈っちもそう思う!?」

「はあ…。そうですか…」

「ああ。じゃあな…」






お嬢はそれだけを言い残して行ってしまった。



「俺なんかたいした事無い人間なのに…」

「いえ、里奈っちの目は本物です。今まで何人もの恋の相談を受けたそうですが、言った事は必ず当たるって事で有名なんです…」

「そうなんですか…?」

「はい。そんな里奈っちが選んだんですから、慶二さんは自信を持っていいと思います…」

「はぁ…」



「それで慶二さん、返事はまだですか…?」

「ああ…。はい…」

「そうですか…」



お嬢に選ばれたんだから自信を持ってもいい、か。そう言われてもイマイチ自分に自信が持てないんだよな…。


「…私思うんです」

「何をですか…?」


「私は慶二様と知り合ってから数日しか経っていませんが」



「慶二様ってどこか自分に自信が無いって言うのか…人生を楽しんでいないって言うか…。どうなんですか慶二様…?」

「そんな事無いですよ。俺は充分に楽しんでますからね」



玲奈さんの言った事は本当だ。俺にはその原因も分かる。



「私は今までそうでした…」

「玲奈さんが?」

「はい。正直言って自分の人生なんてどうでもよかったんです」



「でも慶二様に会って…。最初は王子様だからと言って、ただ意味も無く慕っていました。でも慶二様は、本当の意味で私の王子様でした。私に生きる目的を与えてくれました」



止めてくれ…。俺はそんな人間じゃない…。



「好きです慶二様。心からお慕いしています…」

「……」



「それではまた明日…」



言って部屋に戻ろうとする玲奈さんの後ろ姿は、どこか寂しそうに見えて仕方なかった…。



…。


……。


………。



「ふぁ〜あ〜。眠いから俺部屋に帰っていい?」

「駄目ですわよ。それにまだ九時じゃないですの」

「慶二!勝ち逃げは許さないからね!」

「そうだよ〜慶二くんばっかり大富豪じゃん」

「その代わり明日香は大貧民だけどね。いい気味だわ〜」



俺は里美達の部屋で、明日香、里美、澪、詩織里とトランプをしている。



「リアル貧民に言われたくないですわ」

「言ったわね!」

「オーッホッホッホ!何度でも言ってあげますわ!リアル貧民リアル貧民リアル貧民!」

「もう許さないわ!表に出なさい!」



何でこの二人はこんなに仲が悪いの?さっきから喧嘩ばっかりしてるんだけど。



「ちょっとトイレに行ってくるわ」



俺は急に尿意を催したので、そう言って立ち上がった。しかし、里美も一緒に立ち上がった。



「一人でトイレに行くのは恐いでしょ?」

「いや、全く…」

「だから私が仕方なく付いてってあげるわよ」



どうして?



「ほらほら行くわよ」

「分かったよ…」



俺達は二人揃って部屋を出る。そうして二人でトイレに向かったのだが、里美は女子トイレの入口に立ったままで、トイレに入らなかったようだった。

どうやら本当に付いて来ただけだったみたいだ。



「なあ里美、トイレは?」

「え、私は慶二が恐がるだろうな、って思ったから付いて来ただけよ」

「いや、だから俺は恐くなんか−−」

「−−け、慶二!」



恐くなんかない。こう言おうとしたのだが、下を向いている里美から発せられた大声に遮られてしまった。



「ちちちちちちょっちちちおおっおお話を」


「ちょっとお話をしないかって?分かったよ。恥ずかしがり屋さん」

「は、恥ずかしがり屋なんかじゃないわよ!今のはあ、あれよ!わ、私の舌が言う事を聞かなかったから…!」

「はいはい。それで話って何さ」



里美は真っ赤だった顔を、元の可愛い顔に戻してからこう言った。



「とりあえず場所を変えましょ」



俺は、そうだな。と言って、里美と外に向かう事にする。外はそこそこ暑く、じっとしている分には汗を掻かないが、少しでも運動したら汗がだらだら出てくる。そのような気温だった。

そして俺達二人は入口前にあるベンチに腰掛けた。



「で、話しって何だ?」

「……」



ちょっと聞き方が下手くそだと思った。相手は何か大事な話しをするのだろうから、今の聞き方は無いよな。



「里美、可愛いな」

「なななななっ!」

「ハハハ。慌て過ぎだっての」

「もうっ!これから人が話そうとしてるのにっ!」

「悪かった悪かった。で、その真面目な話って?」



里美にはこういった緊張ほぐしが必要だ。里美はこういう空気に慣れていなさそうだからな。

そして里美は再び、真っ赤だった顔を元の可愛い顔に戻してから言った。



「話している所を聞いちゃったの」

「そうか…。だとしたらとりあえず、後で玲奈さんに謝っときなよ」

「うん。それはもちろんなんだけど…」



だとしたら、里美が言いたい事は何となく分かる。



「慶二は自分の為に…」



生きていないって本当なの?ってか。



「…生きていないって、本当なの?」



ビンゴ。我ながらたいした頭脳だ。

って普通に分かるか。



「実は私もそう感じているの…」



そうか…。



「人の為になら何かをするけど、当の自分は何もして貰わなかったり…」


「この前の買い物だってそう。どこか私達と距離を置いてる。もちろん私達だけじゃなくて、七美や明日香達にも、慶二はどこか距離を置いてるでしょ」

「いや、そんな事は無いが…」

「それは嘘よ。慶二は嘘をつく時、左手の親指の爪を触るって分かってるの」



こいつ、そんな事よく知ってるな。今後の参考にさせてもらうよ。



「慶二、何があなたをそうさせるの?」

「いや、だから里美の思い過ごしだっての」


「私にも言えない事なの?」

「……」



馬鹿っ、ここでの沈黙は肯定になっちゃうだろうが。



「だから何の事だよ。何も−−」



俺はその先の言葉が出てこなかった。里美が目に涙を浮かべながら、俺を真剣に見ていたからだ。



「私にも言えない事なの…?」



女の涙は卑怯だよな。だが俺は負けない。頑張れ慶二。



「里美、なにも泣くことはないだろ。俺にはべつに隠し事なんか無い−−」

「嘘をつくのは止めて…」


「嘘じゃないっての」

「嘘よ。本当は慶二、嘘をつく時は瞬きが多くなるの」



かぁ〜。まんまとやられた。

里美はさすが軍神の子孫ってところか?



「そうか。里美も成長したな…」

「はぐらかさないで慶二。あなたに何があったの?」



俺に何があった、か。



「罪を犯した。しかも取り返しがつかないような…」

「罪…?」

「そう。罪」

「どんな罪なの…?」




「人殺しだ…」



「嘘っ!?」

「分かったら帰るぞ。もう俺は寝たいから」



言って俺は逃げるように立ち上がったのだが−−。



「慶二はいつになったらその罪から解放されるの?」






「多分、一生無理だ」



「……」

「じゃあ俺は寝−−」

「待って…」

「里美…頼むからこれ以上俺に関わらないでくれ…」

「どうしてそんな事を言うのよ!」


「嬉しいんだけどさ。その嬉しさが辛いんだよ…」

「どうしてよ…。どうしてそんなに捻くれてるのよ…」

「ごめんな里美…」


「謝っても許さないんだから!絶対に許さない!」

「そうしてくれ。俺を憎んでくれても構わない…。だからさ…」


「前にも言ったでしょ!慶二が死ぬなら私も−−」

「−−止めてくれ!!!」



時が止まった。



「俺は今を楽しんでいるから。それで充分なんだ」

「今が終わったら…?」

「昔は上杉に恩義を返す為、次は信永を倒す為、今は皆がいるお陰で生きている。今が終わったら…」

「……」


「俺に生きる目的ができるとするなら、その人が生きていた時かな。そこでやっと俺は罪の意識から解放される」

「……」


「ま、そーゆこと。それじゃあまた明日な」

「ねえ、慶二…」


「ん?」


「生きる目的が無いって言ってたわよね?」

「……」


「そうしたら私も生きる目的が無くなるんだけど…」

「はぁ?どうしてだよ」


「言ったでしょ。慶二が死ぬなら私も死ぬって」

「言った。でも、こんな人間の為にそこまでする理由が分からないんだ…」

「……」



すまん里美…。俺は本当にこんな事言いたくない…。



「お前は可愛いし性格もいい。玉の輿だって思いのままだ。だからこれ以上俺に関わって不幸にならないでくれ…」



里美の反応は無い。



「じゃあ俺は部屋に戻るから。里美も男子共に襲われる前に部屋に帰りなよ」



言って俺は再びホテル内に入ろうとしたのだが、後ろからの大声が時を再び止めた。



「無理よ!!!慶二以外は考えられない!!!」



えっ?



「わ、私は慶二以外にけ、けけけ結婚したい人はいないの!!!」



はぇ?




「私は慶二がす、すす好き好き好き!!!大好き!!!」

「うそっ!?」


「ほ、本当よ!!!そ、そのくらい気付いてよね!!!」

「いや、里美みたいな可愛い人は俺なんかを相手にはしないんじゃないかって…」

「ち、違うわよ!!!私はけけけ、け慶二しか見てないんだから!!!」



ち、違うわよ?



「だけど里美…。俺と付き合っても辛いだけだ。止めとけ」

「慶二と付き合えない方が辛いわよ!」



お、デレモードに入ったか。



「いやいや、俺って脇めっさ臭いし…」

「その匂いも大好きなの!」


「俺キスとか下手くそだし」

「そ、それならわわわ私で練習すればいいじゃない!」


「俺ってサドなんだよな」

「わわわわ私はMだからだだだ大丈夫よ!」


「俺って−−」

「−−もう止めてよー!」



里美の顔は真っ赤だった。可愛らしい奴だ。本当に俺には勿体ないよ。



「慶二が背負う罪は私も背負ってあげる…。いや、私にも背負わせて」

「…今なら間に合う。止めておけ」


「止めない。絶対に止めない」

「どうして!俺と一緒にいても不幸になるだけだ!俺はいつ自分が壊れるか分からないんだぞ」


「関係ない。壊れても慶二の側にいる」

「駄目だ。お前はお前の人生で幸せになるんだ。俺に関わるな」


「何回言ったら分かるのよ!慶二がいない人生なんて考えられないって言ってるの!」

「どうして!俺はそんな里美が言うような人間じゃない!ただの人殺しだぞ!」

「もしあんたが人殺しだとしても、そんな事は関係ない!」

「関係ある!人殺しは幸せになっちゃいけないんだ!」


「あんたさっきから人殺し人殺しうるさいのよ!いったい何があんたを人殺しにさせたの!言ってみなさいよ!」



とりあえず俺達は頭を冷やした。そして俺は一度肺の空気を入れ換えてから言う。



「俺は女の子を殺したんだよ」

「女の子を?」


「ああ。俺は昔病院で一人の女の子と出会った。その子は元々体、どこかは分からないんだが弱いらしく、外にも出れない状態だったんだ。俺はその子を連れ出して一緒に遊んだって訳」


「暫くそんなことを続けてていたんだが、ある日同じように病院に行ったら彼女はいなかった。俺は彼女を探し回ったが、彼女はいない。そして俺は看護士さんに彼女の居場所を聞いたんだ。そしたら…」


「手術中で生死の間を彷徨っている。原因は、最近動きすぎたからだってな。俺は彼女の両親に、死ねって言われて殴られたよ…」


「……」


「ってな話さ。俺は人殺し。それ以外の何者でもないんだよ」

「その子は今は…?」

「分からない。殴られた後病院を追い出されたから…」

「そう…」


「俺に償う術はない。命を、その子が持つ無限の可能性を奪ったんだからな…」



そんな時、里美の香りが俺の鼻を刺激する。そしてその香りと共に里美の柔らかい感触が背中を襲った。



「辛いのに、言ってくれてありがとう。私は本当に嬉しい」



里美はそして。と話しを続ける。



「その罪、私にも背負わせて。お願い」



俺は驚きと恥ずかしさで頭がいっぱいだった。



「私は慶二とこれからも一緒にいたいの。その為ならいくら不幸になっても構わない…」

「でも里美…」


「慶二の気持ちはどうなの。一人がいいの?それは違うでしょ? だって慶二は皆といる時、あんなに楽しそうな顔してるじゃない。澪がドジったり、明日香が四分蔵をいじめたり、涼子が忠海にからかわれたり、七美と詩織里が喧嘩したり。その時に浮かべた慶二の笑顔、とても嘘とは思えないの」


「私の言ってる事が間違っているなら、そう言って」

「いや、多分里美の言った通りだ。俺は皆といる時、その事を忘れられる」

「そう。それなら後は慶二次第よ」

「俺次第?」


「みんなは慶二の生きる力になっているんでしょ?それを手放すか手放さないかは慶二次第って事よ」

「でも俺は幸せになっちゃいけないだろ…」

「誰がそんな事聞いてるのよ。あなた自身はどうしたいかって聞いてるのよ」



そんな事は聞くまでもない。



「手放したくない」

「ならそれでいいじゃない」

「でも俺は…」



と、腹に絡み付いている里美の手が離れたと思った瞬間−−。


ゴチーン!


「だからそれは関係ないの!」

「だからって頭まで殴ることはないだろ!」


「それにあんたは分からないの?」

「何にだ?」


「その子の親は恨んでるかもしれないけど、少なくともその女の子は恨んじゃいないわよ」

「……」


「それにまだ生きてるかもしれないんでしょ?ならその可能性を信じましょうよ。私も信じるから」



俺はホテルに向けていた体を里美の方向に向けた。



「…ありがとう里美。本当に嬉しいよ」


「ううん。慶二がそんな顔をしてくれるなら私は他に何もいらないから」

「こんな顔?」


「さっきまでより自然な感じがする」



そっか…。



「それは里美のお陰だよ。ありがとう」

「ううん。わ、私も…慶二に…。ウエーン!」

「おいおい泣くなよ」



里美はまるで噴水のように目から涙を流して、いや、噴出していた。



「俺が泣かせたみたいに勘違いされるから、泣くなっての」

「だってだってー!やっと慶二の役に立てたんだもーん!ウワーン!」

「う…。やっと俺の役に立てたから泣いてるのか?」

「うんうんー!私は本当に嬉しいのー!エーン!」

「里美…グスッ…」



大声で泣きながら抱き合うって、他の人が見たらどんな反応をするのだろうか…。



…。


……。


………。



「それで話しって…もしかしてあの返事の事?」



ここはホテル一階のロビー。俺と七美がそこにいた。



「ああ、そうだ」



すまん七美…。



「そっか、慶二もやっと自分の気持ちに気付いたんだね?」

「えっ?まだ何も言ってないぞ?」

「言われなくても分かるって。慶二は何かある度に里美里美言ってたからね♪」

「そんなに俺は里美里美言ってたのか?」

「うん。だから私の告白だって、言ってしまえば結果は分かりきってたのよ♪」



俺には何とも言えない…。



「とにかく俺は里美と結婚…じゃねえや。一緒にいる事にしたから、ごめん」

「うん。お幸せにね♪」

「ああ、ありがとう。それじゃあまた明日な」

「バイバーイ♪」



断られちゃった。分かりきってたと言っても、悲しいな…。



「私の力が必要ですわね」

「明日香!?」


「私達も実質フラれたって事だからな」

「涼子も…」


「慶二く〜ん…」

「澪、泣きすぎ」


「七美も泣いたっていいんですのよ」

「そんな、だって結果は分かりきってたんだし」

「そういう問題ではない。七美が悲しいか悲しくないかの問題だ」

「うっ……」


「七美だって本当に好きだったんでしょ?だから今まで散々告白されても断ってきたんでしょ?」


「アハハハ…皆ありがとう…」


「七美…私も…初めての恋でしたのよ…。グスンッ…」

「慶二は…私の事を最高の女性と…言ってくれた…。グスッ…」

「慶二く〜ん!エンエーン!」

「里美が羨ましいな…」




そうして波乱の修学旅行一日目が幕を閉じた。

コメディーっぽくないのも、たまにはいいですよね?

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