第36話〜忠海の桃太郎〜
「ねぇ慶二、ボク将来は幼稚園の先生になりたいんだ」
「へぇ〜」
こんにちは、慶二です。
今日は修学旅行直前。忠海と二人きりの部活動です。前回は俳句でしたが、今回は何でしょうか。
「でもちょっとつまずいちゃって…」
「ん、何につまづいたんだ?」
「うん、実はオリジナル昔話を考えたんだよ。それで外康達に聞かせたんだけど、もう一度考え直した方がいいって…」
「なるほど。とりあえず、その内容を言ってくれよ」
「うん。じゃあまずは忠海オリジナルハイパートルネードバナナハリケーン桃太郎からだよ」
「あのさ、必殺技じゃないんだから、ハリケーンとかいらないだろ。あとバナナはダサい」
「うん、ごめん」
ようするに桃太郎ね。これはオリジナル要素を取り入れ易いんじゃないかな。
「むかーしむかし。そう、それは縄文土器が…」
「古いよ!!!」
「うん、ごめん」
「どうして縄文時代を選んだ!?」
「勢いで…」
「勢いは止めろ!!!とにかく縄文時代からタイムトリップしてくれ」
「分かった。縄文時代からタイムストリップすればいいんだね?」
「そう、タイムトリップをしてくれ」
「うん、頑張ってタイムストリップするから」
「おう、頑張ってタイムトリップをしてくれ」
「いくよ、タイムトリッ…ストリップ!」
やっぱりわざとだったんだな。
「むかーしむかし、そう、それは天皇がいた頃…」
「広い!!!何時代か分からねーんだよ!!!」
「平安時代だよ」
「あ、うん…そうなんだ。…じゃなくて、忠海がそう言わないと分からないじゃん。平成かもしれないし、飛鳥時代かもしれないし」
「うん、ごめん」
「とにかく、その平安時代って事で続けてくれ」
「分かったよ」
「むかーしむかし、ある所に藤原道長が…」
「登場人物がおかしいんだよ!!!この話は桃太郎だろうが!!!」
「うん、ごめん」
「登場人物はお爺さんお婆さんでいいから!」
「分かった」
「むかーしむかし。お爺さんとお婆さんと息子夫婦と孫と、従兄弟、曾祖父、曾祖母、痴漢、ひったくりが…」
「大家族すぎだよ!!!しかも犯罪者がいるじゃねえか!!!」
「うん、ごめん」
「この家庭環境だったら、桃太郎必要ないじゃん!息子や従兄弟とかが鬼を退治しに行けばいいじゃん!」
「息子も従兄弟も引きこもりのニートだから…」
「そんな設定いらねえよ!あと、どうしておじいちゃんの曾祖父が生きてんの!?」
「そっか、孫にとってはひいひいおじいちゃんになっちゃうね」
「その通り。とりあえず登場人物はお爺さんお婆さんの二人にしろ」
「痴漢ひったくりは?」
「どうせ聞くなら息子夫婦はって聞けよ!痴漢ひったくりは一番最初に消せ!」
「うん、分かった」
「むかーしむかし、とある木造一階建ての家にお爺さんとお婆さんがいました。お爺さんは富士山で芝刈りに、お婆さんは信濃川で洗濯をしに…」
「どうしてそこ!!!」
「日本一だから…」
「そんなのどうでもいいよ!近所の山と川にしろ!固有名詞はいらん!」
「分かったよ」
「まあいい。桃太郎が旅立つ所から続けてくれ」
「分かった」
「ばっちゃん、オラが鬼を退治するでやんす。マロは頑張ってくるでおじゃるから、見ていてほしいでござる。無事に帰ってきたあかつきには、わてと結婚してくれだっちゃ」
「口調を統一しろよ!!!しかも不倫する気!?」
「いや、お爺さんはもういないよ」
「ああ、そう…。とにかく、お婆さんとの恋愛要素はいらないから!」
「分かった」
「これを持ってお行き。お婆さんはそう言って、桃太郎に愛を渡しまし…」
「だから恋愛要素はいらねえっての!!!団子を渡せ団子を!!!」
「うん、ごめん」
「よし、団子を渡した後から続けてくれ」
「団子じゃなくて愛をくれよお婆ちゃん。と、桃太郎は言います。しかしお婆さんは首を横に振り、分かりましたよと…」
「恋愛要素しつこいんだよ!!!それにどうして婆さんは首を横に振った!?フェイントか!?」
「うん、ごめん」
「もうお婆さんとの会話はいいから!さっさと団子を持って旅立てよ!」
「分かった」
「桃太郎は犬と猿とお婆さんを従えて…」
「恋愛要素はいらねえって言ってんだろうがぁぁぁ!!!」
「うん、ごめん」
「お婆さんは家に置いてきなさい!」
「分かった」
「桃太郎は犬猿を従えました」
そうそう。それが桃太郎だ。
「桃太郎さん、お腰に付けた吉備団子を下さいな。キジが言います。しかし桃太郎は、これは吉備団子じゃないよ、お婆ちゃんだよと…」
「ババアを腰に付けんなぁぁぁ!!!
「いや、お婆さんって団子みたいな体形だからさ」
「物には限度があるでしょ!!!限度が!!!キジも気付けよぉぉぉ!!!」
「うん、ごめん」
「もういいから鬼ヶ島に行け!犬猿キジとな!」
「分かった」
「桃太郎はようやく鬼ヶ島が見える岸へと到着しました。しかし鬼ヶ島へ渡る為には船が必要です。そこで桃太郎達は困ってしまいました。しかしキジが、桃太郎さん桃太郎さん。ここに船があります。と…」
お、船はキジが見つけたのか。
「…言いました。桃太郎達は大喜びし、キジのいる場所に近付いて行きます。そして桃太郎は湖に浮かぶ船を見た後、キジにこう言いました」
よくやったぞキジ。とかかな?
「これは船じゃないよ、お婆ちゃんだよ…」
「何やってんだババアァァァ!!!」
「え、少しでも桃太郎の力になりたくて…」
「だったら本物の船を用意しろ!!!努力の方向性が違うんだよ!!!」
「うん、ごめん」
「とにかく鬼と戦え!」
「分かった」
「桃太郎は切り傷を受けながらもなんとか鬼を退治しました」
あら、もう終わっちゃったの?
「桃太郎の服は切り裂けてしまい、上半身を隠す布はありません。おっと、桃太郎の上半身をよく見てみると…」
筋肉質とか?
「オヘソにほくろが…」
「ぶっ殺すぞ!!!」