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第35話〜芸術の秋、俺達の心は冬至〜

「はい、あ〜ん」

「あ〜ん」


モグモグ


「おいしいですか?」

「さおりんが作ってくれた弁当が美味しくない訳ないだろ?」

「やだ、兼次さんたら♪」



のっけから目障りな会話文を執筆していまい申し訳ない。俺としてもこんな時間は、とっとと過ぎ去っていけばいいと思っている。

今までも兼次の自分勝手さに呆れた事はある。しかし今回はその自分勝手さの規模が違う。沙織里がいなきゃ、俺は兼次をボッコボコのギッタギタにしてやる所だ。



「さおりん、ジュース買いに行こうか」

「はい。行きましょう」


ガラガラピシャン!


俺達は丸くなり、話し合いを始める体制になった。そしてまず澪が話しを切り出した。



「いつ殺る?」



澪は親指を突き立て、首を切り落とす仕種をしながら言った。

さすがの澪でも、あれには耐えられなかったのだろう。



「凶器はどうしますの?」

「ボクの槍でもいいよ」

「拙者のクナイも準備完了でござる」

「私の剣でも構わない」



全員がそれぞれに凶器を言う。どうやら兼次殺害計画は衆議院を通過したようだ。

しかし、一人の女がそれに異義を唱えた。その名も−−。



「どうせなら一思いに殺らないで、二人の仲を引き裂きましょうよ。それから精神をじわじわ責めない?」



ナナーミ!

名波でも七海でも那波でもありませんよ。彼女は七美です。小悪魔七美です。



「なるほど…。いい案ですね…」

「私の妹をたぶらかした罪、償ってもらうわよ」

「それじゃあ今日の下校時刻が勝負ですわね」



そうしてこの会議は、兼次と沙織里の仲を引き裂く事で決定した。それは無理矢理引き裂く訳ではなく、沙織里の恋心を失わせるという方向性にした。

その名も、兼次なんかキライキライ、沙織里の恋心を消してしまえ作戦だ。この作戦、果たして成功するのだろうか…。



…。


……。


………。



キーンコーンカーンコーン

こーうげーんヨーグルトー



「さおりん、これからどこに行く?」



帰りのHRが終わるなり、兼次は沙織里の所に駆け付ける。その一方俺達は、昼ご飯時同様に集まり、作戦の最終確認を行う。

そして二人が教室を出た。俺達はその後を追い掛ける。



「なんかボク、探偵になったみたいでワクワクしてきたよ」



教室をでるなり忠海が言った。俺達は探偵と言うより、悪魔、死神に近いだろう。

そんな俺達に気付いていない二人。兼次は右を歩き、沙織里は左を歩いている。そして−−。



「昇降口を出たでござる!」

「よし、ようやく出たわね。作戦Aを開始よ!」



七美が持っているトランシーバーから四分蔵の声が聞こえる。ちなみに四分蔵は七美の隣にいるのだが、使う理由は雰囲気が出るから、らしい。

そして予め練っておいた作戦の開始合図を七美が出す。作戦A、それは兼次と沙織里が昇降口から出た時に実行する作戦だ。


そうして作戦A開始の合図と共に、校門に待機している、顔を隠した占い師ファションの雪江さんが、中庭を歩く二人に近付いて行った。俺、七美、四分蔵、澪、忠海、は昇降口からその様子を見守る。ちなみに詩織里は委員会があるらしく、この場にはいない。



「ヒッヒッヒ…。そこのお二方、少し待ちなさい…」



雪江さんは棒読みだった。あの人はおそらく役者にはなれないだろう。

そして兼次達は手を繋いだまま、右側から近付いた雪江さんを見た。



「私は手相占いをしている人でねぇ…。二人の相性を占ってあげますよ…」



雪江さんは一応お婆さんキャラに成り切る予定なのだが、才能が無いってやつだろうか。

だとしても、もう少しやる気を出して…ねぇ…。



「相性を占ってくれるんだってさ。やってみようぜ」

「はい、やりましょうか」

「いつもなら一回五百万円するのですが、今回は特別に無料で占ってあげましょう…」



そのくだりはいらねぇだろ!!!最初から素直に無料で占ってやれよ!!!



「無料だってよ。ラッキーだったな」

「はい、私てっきり五百万円くらいかかるかと思ってました」

「男性は左手を、女性は右手を見せてください…」



二人は雪江さんに手の平を差し出した。雪江さんは兼次の手相から、虫眼鏡を使って占っている。そして雪江さんは沙織里の手の平を、次に兼次のそれを、そうして交互に手相を見ていく。

と、雪江さんが二人の手の平から視線を離し、分かりました。と言って−−。



「沙織里さん、今すぐこの人と別れないと死ぬわよ…」



まるで太木先生のように、ストレートに言葉を濁さず言った。沙織里と呼んでしまったが、雪江さんのケアレスミスだ。



「どうしてですか? 何か俺に問題があるんですか?」

「はい。貴方は確実に将来浮気します。おまけに貴方はDV。貴方と結婚する女性は不幸のどん底に陥ります…」



うわっ!きっつー!

でもどうせ適当なんだろうけど…。



「え、本当なんですか兼次さん!?」

「はい、この人は確実に将来浮気します。おまけにDV。この人と結婚する女性は不幸のどん底に陥ります…」



暗記しましたよ、って事がバレバレじゃねえか!!!



「ああ。俺は絶対に浮気するさ」

「兼次さんっ!?」






「沙織里との間に出来た子供にな♪」

「兼次さーん♪」



……。



「しかし貴方はDV。おまけに貴方はDV。DVな貴方とDVする人はDVのどん底にDVしますよ…」



DVDVうるさいな…。



「確かに俺は家庭内で暴力を振るうかもしれない」

「兼次さん!?」






「愛という名の、暴力をな♪」

「兼次さーん♪」



……。



「よし、俺達の相性が抜群だと分かったし、行こうか」

「はいっ♪」



この計画って無意味なんじゃねえの?



「七美殿、この計画は無意味なのではござらんか?」

「うーん…」

「とにかく作戦を全て行ってから考えようよ」

「澪の言う通りだよ」

「そうね。それじゃあ二人が校門を出たら作戦B開始よ」



確かにそうかもしれない。やらないで後悔するよりやって後悔しろ、だ。

そうして二人は一歩一歩校門に近付いていく。作戦B開始の瞬間が刻一刻と迫ってきたのだ。



「七美殿、二人が校門から出たでござる」

「了解。それじゃあ作戦B、開始よ! 明日香!」



七美は四分蔵と例の会話をした後、トランシーバーで明日香に作戦開始を伝えた。トランシーバーからは明日香の、了解。という声が聞こえて来た。そして前回の汚名を晴らすべく、作戦Bが開始された。

すると黒ずくめの男が並んで歩いていた二人に近付く。その男は北条院家のボディーガードだそうだ。こんなくだらない事に付き合ってくれるなんて、ボディーガードも暇なんだな。

とににもかくにも、そのボディーガードは二人の前に立った。



「何ですかあなた」

「恐いです兼次さん…」



その男は何も言わず、右手にある物を取り出した。



パイだ。

そしてそのパイを−−。


パーンッ!


兼次の顔にクリーンヒット。兼次にパイを当てた男は、ゲラゲラ笑いながらどこかに行ってしまった。



「これってただの嫌がらせじゃ…」

「何を言ってるでござるか。れっきとした二人の仲引き裂き作戦でござるよ」



七美、澪、忠海、そして変装を解いた雪江さんが、四分蔵の発言に頷く。



「大丈夫ですか兼次さん!」

「ああ。沙織里が無事なら、俺はそれでいいんだよ…」

「兼次さん、今拭き取ってあげますからね!」



沙織里はタオルで兼次の顔に付いたパイを拭き取り、兼次の美しい顔が、こんにちはをする。兼次は沙織里にお礼替わりのキスをし、そうして二人は再び歩き出した。

どうやら今回の作戦も裏目に出た、と言うより今回の作戦は、やはりただの嫌がらせだった。



「次が最後の作戦でござるな」

「気が抜けないわね」



七美隊長と四分蔵副隊長の二人に緊張が走り、それにつられ隊員の間にもそれが走る。

俺は既に諦めているから、正直どうでもいい。結婚でもなんでも勝手にしてくれ。



「作戦C、里美殿と涼子殿次第でござるな」

「ん、それってどういう意味だ?」

「公園に行った時が勝負よ」



よく意味が分からないが、とにかく公園に行けば分かるだろう。



…。


……。


………。



「そろそろ公園ね。里美、涼子、準備はいい?」



七美が作戦開始の前に、二人に確認を取る。トランシーバーからは、大丈夫。と聞こえてきた。いよいよ最終作戦実行の時が近づいて来たのだ。一同に緊張が走る。

そして−−。



「七美殿、二人が公園のベンチに座ったでござる」

「了解。里美、涼子、始めるわよ。最終作戦実行開始!」



七美は四分蔵と例のやりとりをやった後、トランシーバーで二人に作戦開始の合図を出した。



「なあ七美、今回はどんな作戦なんだ?」

「まあ見てなさいって」



そう言われたので俺は見る事にした。公園のベンチでは、兼次と沙織里が手を握り合いながら話している。正直見ているだけでムカムカする光景だ。

そんな忌ま忌ましい光景をぶち壊すべく、二人の女…が………



「おいおいお兄さん、誰の許可を得てこんな所でいちゃついてんのかい?」


マスクにグラサンのヤンキー里美。



「ほら引っ越っし!引っ越っし!さっさと引っ越っし!しばくぞ!」


布団と布団叩きを持った騒音おばさん、涼子。



「兼次さんっ! 恐いです!」

「お前は俺が守ってやるからな…」

「ほう、私とやろうってのかい?」

「抗議するよ抗議!」



そして里美が兼次に殴り掛かる。兼次に里美のパンチを交わせるはずはなく、見事に顔面ヒット。

涼子はただただ布団を叩きながら何かを言っている。



「兼次さん!」

「もうおしまいかい?」

「まだだ! 沙織里は俺が守ってみせる!」

「私の泣き声?悲鳴?」



再び兼次はヤンキー里美に立ち向かう。しかし何度立ち向かっても返り討ちにあってしまう。おまけに雨まで降り出してしまった。

涼子はただただ布団を叩きながら何かを言っている。



「兼次さん無理です!勝てないですよ!」

「そうさ。あんたじゃあ私には勝てないんだよ!」



ピカッ!ドーン!


雨は激しくなり、カミナリまで落ちてきた。夕立と言うやつだ。



「俺は…」

「兼次さん!立ち上がっちゃ駄目よ!」

「その娘の言った通りさ。諦めて負けを認めろ」

「さっさと引っ越っし!」

「俺は…」




ドーン!




「負ける訳にはいかないんだー!!!」

「なにっ!?」



兼次は僅かな力を振り絞り、里美に殴り掛かった。

そして−−。



「ぐわー!」



兼次の魂を込めた拳は見事里美のボディーに炸裂した。

涼子はただただ布団を叩きながら何かを言っている。




「くそっ覚えてやがれよ!」



ヤンキーはそのまま逃げてしまった。

兼次もそれを見て安心したのか、その場に崩れ落ちた。

その兼次を沙織里が抱き抱える。



「兼次さんっ」

「言っただろ?お前は俺が守るって…」

「兼次さんっ!」



沙織里は兼次の唇に自分の唇を重ね合わせた。



「兼次殿ー!拙者は感動したでござるー!」

「兼次!あなたの愛は本物よ!」

「わたし、さっきから涙が〜」

「ボクも涙が止まらないよ〜」

「とてもいいお話です…」



四分蔵、七美、澪、忠海、雪江さんがそれぞれ言って、そうして皆はそのまま兼次の所に駆け寄っていった。



「痛かったでござろう。辛かったでござろう」

「兼次、あなたは男よ!」

「わたしの涙を返して〜」

「ボクは感動したよ〜」

「ホロリ…」



「いつつつつ…」

「あ、お疲れ里美」



まだ公園の外にいる俺の所に、傘を持った里美がやってきた。

そして俺を傘の中に入れてくれた。



「痛かったか?」

「うん…」

「そっか。俺が後で見てやるよ。お疲れだったな」

「うん。ありがとう慶二」




「わっしょいわっしょい!」

「おいおいお前ら、胴上げはよせよ! 恥ずかしいじゃんかよ!」

「カッコイイですよ兼次さん♪」

「引っ越し!引っ越し!さっさと引っ越し!」



「帰ろう、里美」

「そうしようか」

「そういえば明日香は? 結局合流しなかったけど」

「家の用事があるからって言ってたわよ」

「ふーん」



「慶二、実は傘はこの一本しかないんだけど…」

「一緒に入ればいいじゃん」

「うんっ♪」



そうして俺達は家路についた。






「それにしても俺達は今日、何がしたかったんだろうな?」

「さあ?」

占いで四分蔵になってしまった方。あれはほんの出来心です。申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありませんm(__)m

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