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第34話〜鬼小町・長野綾子〜

「あと必要なのは何だ?」

「うーん…。思い付かないわね」

「洋服は必要じゃないのかしら〜?」

「あ、そうだ。じゃあユニクルに行きましょ」



こんにちは、慶二です。

今日は火曜日、文化祭の振り替え休日二日目です。そして今、俺は里美、綾子さんと駅前にある超巨大ショッピングモールに買い物をしに来ています。

というのも、修学旅行が来週に迫っていて、俺と里美はその為の買い出しをしなければいけなかったからです。

ちなみに綾子さんは午前中で仕事を終え、正午に合流した。ってな流れです。



「ねえねえ慶二、これ私に似合うかな?」

「里美なら何でも似合うだろうが」

「嬉しいような嬉しくないような…」



里美はハンガーに掛けられていた服を取り、そして俺に問い掛けてきた。

俺はあれでも一応褒めたのだが、里美は露に不満そうな表情を見せた。



「でも行くのは沖縄だぞ。それだと暑いんじゃないのか?」

「それもそうね。それにしても沖縄ってどのくらい暑いのかな?」

「十月とは言え、あの沖縄だしな…。それなりに暑いんじゃないのか?」



俺達の修学旅行は北海道と沖縄、この二つの場所から班毎に任意で決める方式です。

班は基本的に四から七人。俺の班は兼次、沙織里、里美、四分蔵、忠海の六人。もちろん七美達も固まって班を作りました。

班と言っても、機能するのはバス座席と二日目、四日目の班別行動のみです。それに班別行動の時も、七美達と行動する事になるでしょうし。



「楽しみだな〜」

「よかったわねさっちゃん♪」



里美は今にも跳びはねそうなくらいウキウキしている。こういう時はかわいらしいんだけどな。



「慶二は買わないの? あんた今日、自分の為に何も買っていないじゃない」

「欲は無く、丈夫な体を持ってるから平気さっ!」



綾子さんに無駄金を使わせる訳にはいかないからな。俺もそろそろバイトを考えなきゃな。



「慶ちゃん、遠慮しなくてもいいのよ」

「いえ、買ってもらった方が後悔しますから。それに今持ってる服で充分ですしね」



どうしてお金を使わせちゃったんだろう。より、あの時買ってもらえばな。の後悔の方がマシだからな。



「慶ちゃ〜ん。遠慮しちゃだめ〜」


むぎゅ〜


か、俺の顔に綾子さんのダブルメロンが…。



「お母さんは医者なのよ。だからお金の事は心配しないでいいの」



いっしゃぁー!?



「…プハァ! 綾子さんって医者だったんですか?」

「あらっ、ばれちゃった〜」



俺は綾子さんの胸から顔を離し、一回空気を肺に入れてから問い掛けた。

医者っていったら嫌なイメージしかないんだが…。


『呼んだか?』


出たなヤブ医者!この期に乗じて登場か!


『最近作者はどうやって私を使うか、試行錯誤してたんだよ』


綾子さんを医者にしたのはそれが目的か!?


『いや違う。綾子は元々医者の設定だったから、今回たまたまだ』


あ、そうなの。ならいいよ、許してあげる。



「だからお金の事は気にしなくていいのよ♪」

「…」



「いえ、やっぱり遠慮しておきます」

「あら、どうして?」

「いくらお金があるとは言え、絶対に後悔しますからね。けじめってやつです」

「慶ちゃん…」

「俺は綾子さんの気持ちだけで充分ですか−−」

−−むぎゅ〜


「もうわたしは慶ちゃんにメロメロよ〜♪」



ダブルメロンプレス!DMP!DMP!DMP!DM…。

もうだめ…。息が…。



「お母さん、慶二窒息死しちゃうよ」

「あらまあ〜♪」



バタンキュ〜





……




「次は何を買おうかな」

「お茶碗とかかな」

「どうしてよ?」

「里美の胸を大きく見せ−−」

−−ゴチーン!


「殴るわよ!」



里美の殴については以前紹介した。よって、今のは殴った事にならない。辛うじてセーフだ。



「そうそう。さっちゃん、昨日下着が欲しいって言ってたわよね〜」

「あ、忘れてた」



下着っ!?



「あの、その間俺は何処に行けば?」

「あら、慶ちゃんは来ないのかしら?」

「駄目よお母さん、慶二はお子様だから」



んだとこの野郎!



「誰がお前の下着姿を見て興奮するかっての! 第一見たくねーし」

「何ですって! 私だって一応学校のマドンナで通っているのよ。皆私の下着姿を見たがるに決まってるじゃない!」

「俺は見たくないな。綾子さんとは言わん、せめて雪江さんぐらいの胸になってから出直せ」

「胸の事を言ったわね!」

「ああ言ったさ。だからどうした! この洗濯板!」

「それを言っちゃあおしまいよ! よし、それなら私の下着姿を見なさい!」

「ああいいさ、見てやるよ!」

「なら下着売り場まで来な…さ……」

「しまった…」



俺達はこの時になって気付いた。通行人の視線に…。



「キャー」



里美は恥ずかしさの余り、叫びながら走りどこかへ行ってしまった。



「まさか公衆の面前でなぁ、慶二♪」

「前田さんと里美さんはそこまで進んでいたんですね♪」

「……」

「俺達も負けないからな♪」

「はい、兼次さん。どこまでもお供します」

「ああ。俺もだ」

「兼次さん♪」

「さおりん♪」



今変な人に絡まれたが、とりあえずこれからどうすっかな…。

いつの間にか綾子さんもいなくなってるし。



「何だこいつら、どうしてこんな所に集まってやがるんだ」

「うわっ…。来たよ…」

「ってあれは慶二様。慶二様ー!」



このタイミングで来たかっ! 鬼小島玲奈!


むぎゅ〜


「ちょっと、離れてくださいよ」

「嫌ですっ♪ だって、慶二様は私の王子様だもん♪」

「ちょっ…!」



俺はなんとか玲奈さんの体を離した。しかし、見た目とのギャップが凄い。



「慶二様は何をしてたんですか?」

「修学旅行の準備ですよ。来週にあるんで」

「ああ。もうそんな時期なんですね〜」

「そうなんですよ。それじゃあまた今度」



言って俺は逃げようとしたのだが、玲奈さんに腕を掴まれた。

俺はそれを振り払おうとするが、玲奈さんの力が強い為振り払えない。



「離れてくださいよ」

「嫌ですっ♪」



顔が綺麗だからといって負けちゃいけない。俺の手を掴んでいるのは変人だ変人だ変人だ。よし、自己洗脳完了。



「それではまた今度」



しかし玲奈さんは離れない。



「あの、玲奈さん…?」

「玲奈って呼んで下さいませ。敬語もお止めになって」

「いや、年上の人を呼び捨てにはできません、敬語も同じく。付き合ってるなら未だしも」

「何を言ってるんですか? 私達は許婚でしょ?」

「いつ決まったんです?」

「だって…。一昨日キスしたじゃないですかっ♪ キャー。こんな恥ずかしい事言わせないで下さいよー」



プチ既成事実ってやつか。



「いや、あれは無理矢理…」

「いえ、無理矢理なんかじゃありません。私も嬉しかったですから」

「そうだったんですか。ならよかっ…って無理矢理キスしたのは玲奈さんでしょ!? あたかも俺がやったみたいに言わせないで下さいよ!」




この人を相手にすると非常に疲れる事が分かった。まあ薄々気付いてはいたが。



「ウフッ♪」

「どうして笑ってるんです?」

「だって…」


むぎゅ〜


「やっと運命の王子様に出会えたんですもの♪」



言って玲奈さんは俺に抱き着いてきた。

必死に抵抗してもよかったのだが、なにしろこの玲奈さんという人、非常に可愛いのだ。

何が可愛いかって、玲奈さんは見た目とのギャップの差が違い過ぎる。見た目はヤンキー、短すぎるスカートに、金ぴかに光る髪の毛。化粧はあまり濃くないが、ヤンキーの雰囲気は出ている。そんなヤンキーが俺を王子様とかどうとか言うもんだから、俺としてはたまらない。



「どうして玲奈さんはそんなにぐれてるんですか? 普通にしてればアイドルになれるのに」

「…」



理由は言いたくないのだろうか。



「親が…」

「親が?」



「アタ…私のプリンを食べたから…」



くっだらねー!



「冗談ですよ。本当はあれです、社会に反抗したかったからとか、そんな理由です。慶二様が止めろと言うなら今すぐにでもこんな格好は止めます♪」

「いや、それも嘘ですよね? まあとにかく、そんな姿を止めろなんて言いませんから」

「……」



と、そこで俺は言わなければいけない事を一つ思い出した。



「あと、俺には女房選択の余地がありますから、許婚ってのは…」

「そうですか、それじゃあ慶二様に相応しい女性になれるよう頑張ります!」



いや、相応しいどころか俺には勿体ないような…。

ん、デジャヴだ。



「それで慶二様はどんな女性を求めているんですか?」

「俺がどんな女性を求めているか…?」

「はい、今後の参考にしようと。私、そのような女性になるよう精進しますから」



うーん…。いざ言われるとなると困るな…。

あっ。そういえばこの事は以前、涼子に言ったじゃんかよ。



「頑張る人かな。スポーツでも美術でも音楽でも。とにかく何か好きな事に対して頑張る女性は美しくて、好きだよ」

「なるほどなるほど…」



玲奈さんは律義にメモを取っていた。



「分かりました。それじゃあ私は帰りま−−」

「−−あ、慶ちゃ〜ん」



玲奈さんが帰ろうとしたその時、どこかに行っていた綾子さんがやってきた。



「あ、綾子さん。どこに行ってたんですか?」

「実はトイレに行ってたのよ〜。それでこちらの方はどちら様かしら?」

「あ、この女性は三年生の鬼小島玲奈さんです」

「あら、慶ちゃんと同じ学校の方だったんですね。慶ちゃんがお世話になっています〜」

「あ、あなたは…」



俺は綾子さんに玲奈さんを紹介し、綾子さんは社交的な挨拶をする。

しかし玲奈さんの様子がおかしい。



「あんたの名前は何だい? もう一度言ってくれないか?」

「私は伊勢綾子よ〜。よろしくね〜」

「やっぱりあなたは…」



玲奈さんは綾子さんに指を指し、そしてこう言った。



「鬼小町、長野綾子!?」



長野? 伊勢になる前の偽苗字か?



「玲奈さん、その鬼小町って…?」

「鬼のように強く、小野小町のように美しい事から付いたあだ名です」

「鬼のように強く? もしかして綾子さんが昔ヤンキーだったっていう…」

「そうです。突然あっちの世界から消えた伝説のヤンキーです。結婚したと聞きましたが…」

「そういう時期もあったわね〜」

「まさかこんな場所で会えるなんて…」

「どうして玲奈さんがその事を知ってるんですか?」

「この町の、いや、全国の。ヤンキーなら絶対に知っています」



凄っ!



「私の苗字もそれからはしょったんですから…」



鬼小町、鬼小島。あ、本当だ。

…って、はしょった!?



「玲奈さん、はしょったって…?」

「あっ…」



玲奈さんは、しまった。といった顔をしている。



「玲奈ちゃんは子孫だったのね〜」

「あれ? じゃあ二人も子孫だったんですか?」

「そう、わたしは上杉謙信の子孫よ〜」

「あの軍神の子孫ですか!? なら頷けますね」



玲奈さんはいつの間にか綾子さんに敬語を使っていた。



「なら、慶二様は…。前田利益の…?」

「そうです。慶次の子孫ですよ」

「キャー♪」


むぎゅ〜


まただよ…。



「慶二様も子孫だったんですねー! 私感激ですー♪」

「はぁ…」



と、そこで綾子さんを見ると、眉毛をピクピクさせていた。

綾子さんは怒っているのだろうか。これまた珍しい。



「それで、玲奈ちゃんは誰の子孫なのかしら?」



綾子さんは玲奈さんを俺から引きはがし、問い掛けた。未だに眉毛をピクピクさせている。



「申し遅れました。私は毛利元就の子孫、毛利元秋と言います」



これまた凄い子孫が身近にいたもんだな。

と言うより、この町は凄いよ。今知ってるだけでも、織田に上杉に立花に風魔に島津に今川に明智に直江に大友に徳川に本多に酒井に井伊に榊原に服部、前田と武田、そして毛利か。



「それで長野、いや、伊勢綾子さん。アネさんと呼ばせて下さい」

「え? わたしを?」

「はい!」

「えっと〜」



綾子さんは困っているみたいだ。困る綾子さんってのはそれなりに珍しい。俺は今のうちに、この光景を目に焼き付けておこうと思う。



「姉さんと呼ばせて下さい! お願いします!」

「わかりましたから、頭をお上げになって」



言って玲奈さんが土下座をしたので、綾子さんは致し方なく了承し、頭を上げさせた。

こう考えると、土下座はある意味卑怯な手段かもしれないな。使う相手にもよるが、土下座をされたら了承せざるをえないだろうから。



「ありがとうございます姉さん。それではまた」



そうして玲奈さんは行ってしまった。

なんて言うか、本当に純粋で純情で素直な乙女だったな。



「里美にも見習ってほしいよ」

「本当ね〜」



綾子さんも同じ事を思っていたらしい。



「慶ちゃん、さっちゃんがいなくなっちゃったから、二人っきりで買い物しましょう♪」

「えっ?」



俺が何かを言う前に、綾子さんは俺の左腕にしがみついてきた。



「行きましょ、慶ちゃん♪」






「そうですね。行きましょうか」






俺はそれから綾子さんと、デートみたいな買い物を満喫した。

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