信永編〜Epilogue〜
これで信永編は終わりです。お疲れ様でした
チュンチュン
「ふぁ〜あ〜」
朝だ。俺は時計を見る。
「まだ六時かよ…」
とにかくやることないし、一階に降りようかな。
そうして俺は階段を降りてリビングの扉を開けた。
「あら慶ちゃん♪今日は早いのね〜」
「本当だ。珍しいね」
「まあ…。なんか目が覚めたからな」
昨日は大変だったのに…。
でも意外とそういう時に限って早く目が覚めたりするんだよね。
「じゃあ早いけど朝ごはんにしましょうか〜」
「そうですね」
俺と里美はテーブルに腰掛けた。
しかし里美が隣にいるぞ。
「なあ里美、どうして隣にいるんだよ」
「うるさいわね!べつにいいでしょ!」
「でもみんな何事もなくてよかったわね〜」
「そうですね。外康さんのお陰です」
流石に全武将中最高の回復役だからな。
しかし…
「どうして俺の手を握っているんだよ」
「う…。うるさいうるさい!べつにいいでしょ!」
何だこいつは。
「ねえ慶二…」
「何だ里美」
里美はもじもじしながら俺を呼んだ。
「何か欲しいものある?」
「何だよ、薮から棒に」
「だって…。また私、助けられたし…」
「ああ、いいよお礼なんて。当たり前のことをしただけだろ」
「それじゃあ私の気が済まないの!」
うおっ!凄まじい気迫っ!
「わかったよ。例えばどんなことをしてくれるんだ?」
「え…。えーっと…。それは…」
まあ聞かれてもなかなか出てこないよな。
「キス…。とか」
「え?」
そう言って里美は俺の頭に手を回して…
「何やって…」
「…」
そして口同士が触れ合っ…。
「里美…?」
「ごめん。気にしないで…」
里美の顔が真っ赤っ赤。おれの心臓ドッキドキ。
「気にするなったって…」
「気にしないでって言ってるの!」
ゴチン!
…
……
「大丈夫慶ちゃん?」
「なんで俺が殴られなきゃ…」
「自業自得よ!」
テッメェ…。それは自業自得の意味を知ってて言ったのか…!
「とにかく、ごちそうさまでした…」
俺は気にしない政策を実行した。そして綾子さんの美味しい朝ごはんを食べ終える。
「慶ちゃ〜ん」
「どうしましたか綾子さん」
綾子さんが席を立とうとした俺を呼び止めた。
そして俺はしっかり座る為に椅子を引いた。
「昨日のお礼がしたいんだけど…。なにかしてほしいことあるかしら〜?」
「キスで」
即決の即答だった。
「あんた…。お母さんになんてことを…」
あちゃー。里美の存在を忘れてたぜ。
「いいわよ〜。ん〜」
綾子さんを見ると、テーブル越しに顔を近づけ、目をつむっている。
「て、天使だ…」
「それがあんたの遺言ね」
「そうです」
里美の手が光って、グローブが現れた。
「それは反則じゃ…」
「くたばれぇ!!!」
「オンギャー!!!」
「慶ちゃ〜ん。まだかしら〜?」
綾子さんはまだ目をつむっていた…。
…
……
「これはたしかにほっとけないわね!」
とりあえず俺は着替え終わって、里美と一緒に朝スパッを見ている。
「ああ、このコロッケにキャベツを乗せない人が増えてる、ってやつか?」
「そんなのほっとけないわよ!」
「お前あの時、べつにいいじゃない。って言ってたじゃんかよ」
「そうだっけ?」
「え…」
言ってたよなぁ…?
記憶が曖昧だから何とも言えない…。
「はぁ…」
「何よ、ため息なんかついちゃって」
「ん、いや…。終わったんだなってさ」
今まで長かったな…。
「今まで長かったわね…」
「俺も調度そう思ってたところだ」
「そう…」
「今回はさすがにやばかったな」
「まさか私の体を改造してたなんてね…」
「それが一番驚きだよな」
そして俺はあることを思い出した。
「俺、忠海の様子を見てくるよ」
「私も行く!」
「じゃあ行くか。綾子さーん!」
俺はすかさず綾子さんを呼んだ。
綾子さんは二階から降りてくる
「何かしら慶ちゃん?コロッケのことならキャベツは絶対に乗せるわよ〜」
「…」
無視が一番だよね…?だよね…?
「忠海の様子を見てきます」
「ついでにそのまま学校に行ってくるわ」
「そう〜。それならお弁当がそこにあるからね〜♪」
「ありがとうございます」
「じゃあいってくるね」
「いってらっしゃ〜い♪」
そうして俺達は綾子さんに見送られ、隣の家に行った。
ピンポーン
「どちらさ…。前田さんに里美さん!」
「おはよう高政」
「おはよう高政君♪」
高政が出迎えてくれた。
本当にかわいいくていい子だな、高政は。
「それでこんな朝から…?」
「私達、忠海ちゃんの様子を見に来たの」
「そうでしたか。とにかく家に上がってください」
「「お邪魔します」」
そして高政に案内されて、俺達はリビングに着いた。
「それで虎と…。あら、慶二ちゃんに里美ちゃんじゃない」
「「おはようございます」」
「あっ!慶二に里美!」
「おっ、お二方は今日も一緒か」
「慶二!昨日はお疲れだったのう!」
「お疲れ様でござった」
直正さんと有次さんはソファーに腰掛けていて、他の三人はカーペットの上に座っていた。
「みんな大丈夫でよかった」
「そうね」
そして俺は忠海を見る。
「大丈夫か忠海?」
「うん!へーきへーき♪」
そうか、よかった。
そして俺は気になることを尋ねた。
「今、何してたんです?」
「昨日の話じゃい。途中から気絶してたからのう」
「それなら私も聞きます!」
「んじゃあ俺も聞いていこうかな」
俺はソファーに、里美と高政はカーペットの上に座った。
「えーっと…。それでどこまで話したかしら?」
「慶二の虎が信永の竜に打ち勝った所からだよ」
「そうだったわね…。それで信永は負けて、倒れたわ。力を使い過ぎて気を失ったのね」
「それでそれで?」
「そこに七美ちゃんが戻ってきたの…」
…
……
「慶二!これはどうしたの!?」
七美はこの状況を見て、驚いていた。
「七美〜」
「澪は無事だったのね♪」
澪が泣きべそをかきながら、七美に抱き着いた。
「七美、あったのか?」
「うん、あったわよ♪でもさすがに持って来れなかったね」
「そうか!」
慶二は急いで兼次の元へ向かった。兼次は外康に治療を受けていた。
「外康さん、兼次は…」
「あちこちの骨が折れてるわ…。でも大丈夫」
「そうですか。よかった…」
言って里美を抱え上げた。
「外康さん、今何時ですか?」
「九時五十分よ」
「よしっ間に合う!」
「え、里美ちゃんは助かるの?」
慶二はすでに七美達の方に向かっていたが、外康に質問をされたので、外康の方に振り向いて言った。
「はい!」
外康は安心して兼次の治療を再開した。
…
……
「慶二、変な所触らなかったでしょうね?」
「お前に触るような場所があるのかよ?綾子さんに言われるのなら分かっ…」
ゴチーン!
「ぶっ殺すわよ?」
「ごめんなさい…」
頭が痛い…
「しかし慶二は七美の嬢ちゃんに何を探させたんだ?」
「気になるのう…」
「里美さんを助ける為の道具とかですか?」
「高政が正解ね。これからは四分蔵に聞いた話よ」
「外康殿は治療していたからでござる」
「なるほどのう」
「それでそれで?」
忠海が外康の方に身を乗り出して問い掛ける。
「あの後、里美ちゃんを抱えた慶二ちゃん、信永を抱えた四分蔵、七美ちゃん、澪ちゃんの四人は丘にある隠し研究所に行ったの…」
「隠し研究所?」
「俺が昔、前田慶次の能力を取られた場所だ」
「そんな場所があったんかい!?」
「それにしても、どうして四分蔵は信永を担いで行ったんですか?」
「それも後々大事になってくるわ」
「それでそれで?」
「それで四人はその研究所に入って行ったの」
…
……
「ふぇ〜。いろんな機械がたっくさんあるよ〜」
「こんな場所知らなかったでござる」
四分蔵と澪は興味津々で辺りを見渡す。
「それで七美、その装置はどこにあるんだ?」
「ああ、こっちよ♪」
三人は七美の後を付いていく。そして一つの部屋にたどり着いた。
「これは何でござるか?」
四分蔵はその部屋にあったカプセルを見て、問い掛ける。
「なんか人が入るような形してるね」
「正解♪」
そして慶二は七美を見た。
七美は部屋にあったパソコンをいじっている。
「使い方も調べてくれたか?」
「もちろん♪これと、これの使用方法を探した、にしてはなかなかのタイムだったでしょ♪」
「ああ、ありがとう」
慶二は七美に微笑みながら言った。
「で、どうすりゃいいんだ?」
「とりあえず里美を中に入れて♪」
「わかった」
慶二は里美をカプセルの中に入れた。
澪は興味と期待で目を輝かせている。
「慶二、こっちに来て♪」
「わかった」
七美は慶二を呼んで、パソコンのディスプレイを見るように促す。
「でもどうして里美の?そんなことしたら里美が…」
「十時になると上杉の能力が暴走して、理性を失うんだ」
「え、そうなの!?」
「そうだ。だから構わない」
慶二は七美を見つめ、七美も慶二を見つめる。
「上杉の能力を無くしてくれ」
…
……
「えぇー!?」
「忠海、驚き過ぎだ」
驚き、大声を出す忠海に有次さんが注意した。
「そうじゃのう!上杉の能力が暴走するなら、上杉の能力を無くせばいいんじゃい」
「さすが前田さんですね!」
「私もそう思うわ」
高政、外康さんに褒められて、背中が痒くなった。
「でも里美は特殊継承だよ?」
「そうでした。それだと里美さんは…」
「死んでしまうな」
「どうにかならんのか外康!」
直正さんが外康さんの胸倉を掴んで揺さぶる。
「それもこれから話すわよー!」
「うっ…。そうか、すまん…」
「直正、話は最後まで聞けよ」
「面目ないのう…」
直正さんが落ち着いた所で外康さんが話しを再開した。
「それでその装置は、能力を無くす装置だったわけよ」
…
……
「里美が死んじゃうんじゃないの?」
「里美が死んじゃう!?」
「慶二殿!?」
澪と四分蔵が驚き、慶二を見る。
「時間がない!早くしてくれ!」
「慶二くん!」
「たしかに暴走するよりはいいでござるが…」
「わかったわ…」
七美はキーボードをカタカタいわせて、そして止まった。
「このENTERキーを押せば里美の能力は無くなるわ…」
「…」
七美は、視点をディスプレイから慶二に移した。
「いいの?」
そして慶二も、視点をそれから七美に移した。
「ああ…」
澪と四分蔵は目をつむった。
「いくわよ…」
七美はENTERキーを押した。
「里美…。死んじゃうの…?」
澪が泣き出した。四分蔵も下を向き、目をつむる。
「終わったわ…」
慶二はカプセルの中から里美を出して、四分蔵を見た。
「四分蔵、そいつを中に入れてくれ」
「わかったでござる」
慶二は七美を見た。
「七美、こいつの能力を全て無くせ」
「うん…」
そして慶二は里美を地面に寝かせ、自分は床に座った。
そして澪が慶二の隣にしゃがむ。
「慶二くん…。里美は…」
「まあ見てなよ」
慶二は澪の肩をポンと叩き、里美の手を握った。
「手が光った?」
里美と慶二の手が光り出した。
「時間は、十時調度か…。結構危なかったな」
慶二が言って、そして光が消えた。
「んっ…」
そこで里美がタイミングよく起き上がった。
「里美ー!!!」
澪が里美に抱き着いて泣き出す。
「澪…。ここは何処…?」
「おはよう里美」
慶二が微笑みながら里美に挨拶をする。
「里美!?」
「里美殿!?」
七美と四分蔵が、里美が起きたことに気付いて、駆け寄ってきた。
「本当によかったよー」
里美は、七美が泣く所を見たのは今回が初めてだった。
…
……
「そうか…。やっと慶二は恩義を返せたんだな」
「よかったですね前田さん、里美さん」
「ああ。これで肩身の狭い思いをしなくて済むよ」
「何言ってんのよ!今までだってそうだったじゃない!」
「ガッハッハ!慶二もこの嬢ちゃんにかかれば形無しじゃのう!」
その場にいた全員が笑い出した。
「あの〜」
忠海が申し訳なさそうに、ゆっくりと手を挙げた。
「どういうこと?だよ…」
全員が驚いた顔をしていた。しかしすぐに、忠海なら納得だなという顔に切り替わった。
「里美に俺が、上杉の能力を与えたんだよ」
忠海はハッとした。
「ああ〜。そうか〜」
「信永は倒すし、恩義は返せたし、めでたしめでたしよね?慶二ちゃん♪」
「はい!」
俺は元気よく返事をした。そして立ち上がって…
「それもみんなのお陰でした!ありがとう!」
俺は深々と頭を下げた。
「とんでもないわよ」
「わしらは何もしとらん」
「そうでござる」
「カッコよかったよ慶二は」
「私は今回も助けられたし」
「ほとんど前田さん一人の力でしたよ」
「慶二、一世一代の大カブきだったな」
「大カブき…?」
へ?
「おお!まさに前田慶次じゃのう!」
「そうでござるな」
大カブきか…。
「とってもいい気分ですね」
みんなが笑顔になってくれる。
「さて、皆学校に行かなきゃいけないんじゃないかしら?」
「うおっ、有次!大学に遅刻するぞ」
「本当だっ!?急ぐぞ直正!」
「合点承知!」
二人は行ってしまった。
ていうか大学生だったんだ…。
「それじゃあ俺達も高校に行こうか。高政も途中まで行くか?」
「いいんですか!?」
高政が目をキラキラさせながら俺を見る。
こいつぁショタに目覚めそうだぜ…。
「じゃあ行くでござる」
四分蔵と里美、高政は玄関に向かった。
「ん、忠海も早くしろよ」
「ちょっとこっちに来て…。だよ」
まだリビングにいる忠海に手招きされて、俺は近付いていく。
「何だよ?」
「もっと…」
忠海はまだ具合がよくないのだろうか…。なんて思ったので、忠海の顔色を…
「チュッ」
なっ!!!
「慶二、カッコよかったから…。だよ…」
「忠海…?」
「じゃあ学校に行こう!」
俺は頬に口を付けられた。
しかし俺の髪の毛が妖気を感じ取る。キタロー!
「慶二ちゃ〜ん♪アタシのキスは〜♪」
外康さんがこっちにキタロー!!!
「結構です!!!」
俺は忠海の手を引いて玄関に向かった。
そこには扉を開けて、外で待っている三人がいた。
「二人とも遅いじゃない!」
「すまん!忠海、早く出るぞ!」
「待ってぇ〜♪慶二ちゃ〜ん♪」
うひゃっ!助けてー、いったんもめーん!
「無理か…」
そんな助けは無かったので、俺は玄関を飛び出した。
「お前ら早く行くぞ!」
「わかりました前田さん!」
「待たせといてそれでござるか?」
「慶二ぃー!待ってよー!」
「生意気なやつね!」
「慶二ちゃ〜ん♪」
「ギャー!」
そうして俺達は学校へと向かった。
信永編・完