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信永編第14話〜織田信永〜

そろそろバトルファンタジーは終わりです。コメディーを期待して下さっている読者の皆さん(いないよとか言わないで〜)、本当にお待たせしました。

「澪も呼ばれたんですか?」

「いえ、正確には私だけです…」


ここは港。兼次と里美は学校を出た時に澪達とたまたま会って合流した。


「七美はどうしてわたし達を呼んだんだろうね?」

「それはわからないわね」

「とにかく油断は禁物だ」


そして四人は第一倉庫の前に立った。





……




「もうおしまいか?」

「まだじゃい!」

「奴は重力を使えるのか…?」

「やはり信長の能力でしょうか…」


そしてここは倉庫内。

三人は伸長と戦い、外康は入口付近で戦いを見守っていた。


「いくぞい!」

「危険だよ直正!」


しかし直正は高政の忠告を無視して剣を構えた。


「燃え上がれ!」


直正がそう叫ぶと彼が持っている剣が炎になり、燃え上がった。

そしてそのまま伸長に切り掛かったが…


「無駄だ」


伸長の体から黒い玉が放たれて、直正の目の前に浮かび上がる。

すると直正は地面にはいつくばる恰好になってしまった。


「直正!」


高政は矢を伸長目掛けて放つ。

伸長は矢を交わしたが、それによって直正は解放された。


「大丈夫ですか直正?」

「ああ、大丈夫じゃい」


そうして三人は一つの場所に固まった。


「重力は反則じゃのう…」

「でも有次なら攻撃できるでしょ?」

「そうだが、お前も…」

「僕の弓は落とされちゃうよ」

「何をこそこそ話している?」


伸長は一歩一歩三人に近付いていく。


「貫け!」


有次が叫ぶと、持っていた剣が伸長に向かって伸びていった。


「うおっ!」

「今だ!高政!」


伸長は剣を交わしたが、すかさず高政が弓で狙う。


「光!!!」


しかし伸長がそう叫ぶと奥から矢が飛んできた。そして高政が放った矢に当たり、伸長の危機を救った。


「もう一人いたのかい!?」

「高政の矢を止めた?」

「なかなかできる人みたいだよ」


そして光と呼ばれたその人が姿を現した。


「お前はたしか…!」

「七美さん!?」


三人が見た先には弓を持った七美がいた。そして彼女は歩いて伸長に近付いていく。


「大丈夫、信永ちゃん?」

「光、今まで何をしてた?」

「うーん…。ちょっとね♪」


高政達三人は驚いた顔をしていた。

と、不意に倉庫の扉が開く音がして、兼次達が倉庫の中に入ってきた。


「あれ?外康さんも七美に呼ばれたんですか?」

「呼ばれてないわよ…」

「そうで…。あの中学生くらいの人は誰です?」


兼次は会話途中で伸長の存在に気付き、外康に問い掛けた。


「あれが信永よ」

「あれが!?」


兼次、里美、雪江の三人が驚いていた。澪は話が分からないようだ。


「とりあえず澪はここにいてください…」

「え?どうし…」


澪は直正達の奥、伸長の隣にいる七美を見た。


「ねえ、あれ七美じゃない?」

「本当だわ」

「弓を持って信永に話し掛けてますね…」

「どうやらいい方の予感が当たったな…」

「兼次、それってどういう…」

「とにかく行こう」

「いってらっしゃ〜い」


澪は外康の側にいることにした。

そして三人は倉庫の中へと入っていく。


「あ、そうだ。七美に何故ここに呼んだかという質問はしないでくれ」

「え、どうして…?」

「いいからそうしてくれ」

「わかったわ」

「わかりました…」


そして三人は直正達の側にたどり着いた。


「おい七美、そいつの隣にいるのは誰だ!」

「兼次…?」

「いいから黙っていてくれ」


兼次は歩みを止めると同時に七美に向かって叫んだ。

里美には七美達に聞こえないような声で囁く。


「この人?織田信永だよ♪」

「そいつが織田信永なのか?」

「うん、そうだよ♪」

「ならどうしてお前は側にいる?」

「私は信永の部下だから♪」

「嘘っ!?」

「ということは七美も子孫か?」

「うん、明智光秀の子孫だよ♪」

「そうか」

「おい、光!」

「どしたの信永ちゃん?」


兼次との会話に伸長が割り込んできた。


「どうして敵がこんなに集まってきてるんだ?」

「そんなの知らないわよ♪」


兼次はとりあえず一息ついた。


「話しは終わったか?」

「ああ。戦いを再開しようか?」


伸長は待ちきれない様子で兼次らに問い掛ける。


「ならわしらが相手じゃい!いくぞ高政、有次!」

「おう!」

「わかったよ!」


そうして四人は戦闘を再開した。


「七美さんからは異様な雰囲気を感じ取ってましたが…」

「まさか子孫だったなんてね」

「そういうあなた達だってそうじゃない♪」

「それは…。昔から知ってたな?」

「うん、私にはこの機械があったからね♪」


七美は制服のポケットからペンライトを取り出した。


「それは私の家にあった…」

「それが子孫を発見する機械か…」

「そっ♪」


そして兼次の手が光って札が出た。


「とりあえず俺があいつの隙を作る」


そう言って兼次は伸長達の場所へ向かっていった。


「兼次…?」

「さすが兼次だね♪」

「そうですね…」

「とにかく里美と雪江さんは私と戦うの?」


七美は弓を握る左手の力を強くした。


「嫌よ。どうして戦わなきゃいけないの?」

「…」

「なら仕方ないね♪」


七美は弓を構えた。

そして右手が光って矢が現れる。


「里美さん…。戦うしかないようです…」

「どうしてよ!」

「…」

「いくわよ♪」

「里美さんっ…!」


七美は言うと、里美に対して矢を放った。しかし里美は避けようとせず、ただ立ちつくす。

雪江が助けていなかったら間違いなく当たっていただろう。


「里美さん大丈夫ですか…?」

「ありがとう雪江さん…」

「さすがは立花ね♪」

「里美さん…。戦わなければ…」

「…」


里美は立ち上がった。


「無理よ。七美とは戦えない」

「里美さん…!」

「そうだよね。里美はそういう人だからね♪」

「そうよ」


七美は無言で弓を構えた。





……




「止血したとはいえボロボロだぞ」

「大丈夫なの、慶二?」

「ああ、大丈夫だ。しっかし七美も何の用だろ…」

「夜のデートとかじゃないのかな?」

「夜のデート…」


俺達はすでに港に着いていて、今は倉庫に向かう途中だ。

しかし体の節々が痛い。


「どうだろうな…。よくメールはするんだけど、呼ばれたのは初めてだ」

「へぇ〜。慶二って七美とメールをよくするんだ〜」

「それは本当か!?」


涼子がすごい勢いで俺に問い掛けてきた。


「あ、ああ…」

「そうか…。メールか…」

「涼子どうしたの?顔色悪いよ」

「いや、なんでもない」


なんて会話をしている間に第一倉庫に着いてしまった。


「あれ、澪に外康さん」

「あら慶二ちゃん」

「三人も来たんだ?」


扉には澪と外康さんがいた。俺達が呼ぶまで気付いてくれていなかったようだ。

と、そこで忠海が中の様子を見た。


「あれ、誰か戦ってない?」


忠海がそう言ったので俺も中を覗いた。


「相手は誰だ?初めて見るぞ」

「雪りん達は信永って言ってたよ?」

「いや、そんなはずは…。とにかく涼子はここにいてくれ」

「…わかった」


とりあえず俺達は奥の様子をよく見ることにしたのだが…


「ねえ慶二、あれって」

「里美!」


七美が里美に対して弓を構えている光景が目に入ったので俺は叫んだ。


「里美を射るのか!?」


そして七美は矢を放つ。

しかし七美は、里美の方に構えていた弓を俺の知らない男へと変えた。当然矢は里美には飛ばず、俺の知らない男に当たった。


「光…。何をする…」

「寝てなさい♪」


男は矢が当たるとすぐに寝てしまった。矢に睡眠薬でもあったのだろうか?


「ごめんね里美♪」

「七美…?」


七美は舌を出してウィンクをしながら里美に謝った。


「でもこれで大丈夫だね♪」

「なかなかの腕だったな」


兼次が七美を褒めている。

とりあえず俺はこの状況を知りたかったが…。


「兼次…。もしかしてこうなることが分かってたの?」

「七美が何故俺達を呼んだか考えてみろ」

「え…」

「もしも俺達をおとしめる為なら何らかの罠があるはず。しかし罠はなかった」

「だったら呼んだ理由は私達に信永を倒す手伝いをさせるため…」

「雪江さんも気付いていたの!?」

「普通に考えればわかるでしょ♪」


そして里美の頭が悪いことは充分に分かった。

まあとりあえず…


「これはどういうことだ?」


俺はとにかく状況を知りたかった。


「七美は明智光秀の子孫。そして信永を倒すためにわざとやつの味方になって俺達をここに呼んだ。弓の能力は睡眠。以上だ」

「よくわかった」


さすが兼次。三秒で全てがわかった。

しかし一つだけ違うな…。


「そいつは信永じゃないぞ」

「嘘っ!?」


七美が物凄い勢いで驚いていた。


「そいつは…。若すぎだ」

「慶二、お前は信永を見たことがあるのか?」

「見たことは…」急に俺の携帯が鳴り出した。


「もしもし、明日香か。いったい何の用だ?」



まずい!!!


「わかった!すぐに行く!」

「慶二どうした!」


俺はとりあえず携帯をポケットにしまった。


「丘に行くぞ忠海!!!」

「へ?いきなりどしたの?」

「皆はそいつを見ててくれ!!!」


俺はそこに寝ている知らない男を指差して言った。


「前田さん?」

「どうしたんじゃい?」

「様子がおかしいが」


高政直正さん有次さんは不思議そうにしている。

しかし説明している暇はない。


「忠海!丘まで飛んでくれ!」

「わかった!」

「ちょっと何処に行くのよ!」


里美が忠海につかまっている俺を掴んで問い掛けてきた。


「里美は家に帰ってろ」

「どうしてよ、緊急事態なんでしょ?だったら私も…」

「頼むから帰っててくれ…」

「え…」

「忠海!ひとっ飛びだ!」

「オッケー!」


里美の手から解放された俺は忠海に頼んだ。


「じゃあまた後でな」


全員黙ったままだった。


「あっ慶二くんと忠海が浮いてる!」

「慶二ちゃん…」

「どこに行くんだ?」

「ちょっとな。じゃあな!」


入口付近で三人に話し掛けられた。

そして俺を乗せた忠海はスピードを上げて丘に向かった。





……




慶二達は行ってしまった。


「あいつが信永じゃない…?せっかく今まで苦労してきたのに…」

「しかしあの人が信永でないとすると…」

「慶二は知っていたようだな」


こればかりは考えても分からないな。


「それよりさっきの慶二のは緊急事態じゃないの?」


たしかにそうだ。だから俺も行きたいんだが…


「兼次、慶二を追わないの?」


慶二は里美が丘に行かないようにしてほしいんだろうな。


「里美、帰るんだ」

「え…?」

「慶二なら大丈夫だって、少ししたら帰ってくるよ♪」

「そうですね…」

「え…?」


七美も雪江さんも気付いてくれてたか。


「そうだ。あれだけ慶二が来るなと言ったのには理由があるはずだ」

「…」


里美もそろそろ帰ってくれるかな…。


「嫌よ!私は慶二の所に行く!」


里美の意外な発言に俺達三人は沈黙した。


「また私が慶二に迷惑をかけてるのはわかってる。でも…」


しかし、あれ程慶二が里美に対して来るなと言ったんだ…。


「駄目だ里美…」

「絶対に行く!」



こりゃ駄目そうだ、すまん慶二。


「そんなに行きたいか?」

「うん」

「じゃあ行った以上は絶対に後悔するなよ」

「わかってる」


ここまで行きたいなら仕方がないか…。


「雪江さんと七美は?」

「最初から行くつもりでした…」

「私も♪」

「そうか…」


よかったな慶二。

それで澪と涼子は…。


「行くよー!」

「行くに決まっている」


だよな〜。


「それじゃあ行きますか」

「「「「おー!」」」」

「頑張りましょう…」





……




「綾子さん!」

「四分蔵!」


俺達は丘に着いた。

そこにはボロボロのティッシュと化した四分蔵と、奴に首を掴まれながら持ち上げられてる綾子さんがいた。


「綾子さんを離せ!」


俺は戟を出して綾子さんを掴んでいる手に斬り掛かった。

奴は俺が近付くや否やすぐに手を離して、綾子さんを解放した。


「ゲホッゲホッ!」

「大丈夫ですか綾子さん?」

「ありがとう慶ちゃん」


そして俺は綾子さんの首を掴んでいた男を睨みつけた。


「女性の首を掴むなんて最低ですね敏雄さん」

「…」


慶二は戦闘モードに入る。


「いや、織田信永と呼んだ方がいいか?」

「フフッ…。どっちでもいいよ」


そこに立っていたのは慶二から前田慶次の力を奪った張本人、伊勢敏雄だった。




「久しぶりだね慶二君」

「俺は二度と会いたくなかったがな」

「だろうね」


敏雄は慶二の悪口にも全く動じなかった。


「慶二…。この人は?」

「織田信永だ」

「え、信永はさっき眠らせたじゃん」

「あれは知らん。本当の信永はこいつだ。俺から前田慶次の能力を奪ったな」

「嘘…!?」

「本当だよお嬢さん」

「…」


忠海は警戒心を込めた眼差しを敏雄に向けた。


「じゃあ敏雄っていうのは…?」

「もう一つの名前だ…」

「もう一つの名前って?」

「伊勢敏雄だ」

「伊勢…?それって隣の家の…」


慶二は答えられない。


「わたしの元夫で里美の父親よ。もはや父なんて呼べない男だけど…」


慶二の代わりに綾子が答えた。


「里美のお父さん!?」

「本当だよ。私は里美の父だ」

「じゃあ里美は織田の子孫なの!?」

「織田と上杉の間に生まれた特殊継承の子だ」

「綾子さん上杉だったの!?うひゃー!」


忠海は頭が混乱し始めた。


「とにかく全てキミの仕業なんだね」


混乱した忠海は簡単に考えることにした。


「全て…。まあ、全てかな?」

「やっぱり!」


そして敏雄は時計を見る。


「…まだ時間はあるな。他に聞きたいことはあるかい?」

「お前と無駄話をしている暇はない…」


慶二は戟を構える。


「まあまあ。聞きたいことが沢山あるんじゃないのか?」

「…」

「折角教えてあげようとしてるんだからさ」


慶二は戟を構えるのをやめた。


「あいつは…。あんたの息子かなんかか?」

「僕の能力を分け与えた言わば試作品ってところかな」

「分け与えた試作品?」

「能力をコピーして他人に分け与えることができる機械を発明してね」

「他人から能力を奪う装置の次は他人に力を分け与える装置か?」

「だけど失敗だ。やはり純粋な子孫じゃないと能力が劣化する」

「劣化ねぇ…」

「まあ彼が信永と認識されてくれたお蔭で、結果的に時間稼ぎになった。と言うより暇潰しになったと言った方が正しいかな」

「…なんの為にそんなことを?そもそもどうしてこの町に来た?子孫狩りが目的なんかじゃないだろ」


慶二は話の核心に触れた。


「なかなかいい質問だ。どうしてそう思ったんだい?」

「あんたの目的は地球だ。子孫狩りなんて無意味だろ」

「確かにそうだね。全く意味が無い」

「ならどうして子孫狩りなんて嘘をついた」

「カモフラージュさ。現に君以外は子孫狩りに何も不信感を抱かなかった。私の部下でさえね」

「やはり部下には子孫狩りとしか言ってなかったのか」

「敵を騙すならってやつさ。君達の戦いを見てたけど、いい暇潰しになったよ」


慶二は苦い顔をする。


「それにしてもなかなかいい勘をしてるね。驚きだよ」

「そんなことはどうでもいい。何故カモフラージュする必要があったんだ」

「そんなの本当の目的を悟られないようにする為さ。カモフラージュとはそういうものだろう?」

「本当の目的?」

「そう。子孫狩りでもこの町の征服でもない目的…」

「それは何だ?」


敏雄は慶二をしっかりと見つめて言った。


「この町に残してきた物を取りに来ること…」

「残した物…?」


敏雄は笑いながら綾子の方を見た。それにつられて慶二も綾子を見る。


「里美だよ」


慶二は再び視点を敏雄に戻した。

「里美…?」

「彼女をただの人間だと思ってはいけない」

「お前、何を言っているんだ…?」

「里美がただの人間じゃない?」


慶二と忠海は敏雄が言っている言葉の意味が分からなかった。


「僕は彼女に昔、あることをしたんだ」

「あることだと?」

「やめて…」


綾子は声にならないような声で懇願をしていた。


「人体改造って言ったらいいのかな?多分それが最も近いね」

「改造だと!?」

「もうやめて!!!」


綾子は敏雄に向かって思いきり叫んだ。


「どうした綾子?君らしくないな」

「里美を…。さっちゃんを元に戻して!」


綾子は必死に叫んだ。


「それは断る。私も今まで10年間待ったんだからね」

「やめて…」


綾子は崩れ落ちるかのように座った。


「さて、話の途中だったね」


慶二は敏雄に憤りを感じていたが、憤りよりも驚きが大きかったため、何も言えなかった。


「里美に施したのは能力強化だ。織田の能力強化は無理だった、私でも使いこなすのに苦労した程の能力だからね」

「強化したのは上杉か…?」

「今から調度十年前、夜の10時にやったんだったかな?」

「時間はどうでもいい!里美に何が起きるんだ!」

「この時間も結構重要なんだけどねぇ…」


慶二はもどかしくて仕方がないような様子で聞く。


「ただ強くなるだけだよ。ただし普通の人間ではなくなるけどね」

「人間じゃなくなる…?」

「殺戮兵器と言ったらいいのかな?」

「殺戮兵器だと…?」

「そう。里美は強大な力が覚醒する。しかしそれだけじゃ終わらない」

「それ以外に何が起こるんだ!?」


敏雄は一回間を置いてから話し出した。


「アインシュタインなど、天才と呼ばれる人は性格が変だったりする。それは人間、何かが突出しているとその分何かが欠落するからなんだ」

「なっ…!」

「つまり里美は…」

「里美は力の代わりに何を失うんだ!言え!!!」

「…物分かりがなかなかいいね。それとも私の例え話がよかったのかな?」

「いいから答えろ!!!」


慶二は敏雄を睨み、敏雄は慶二を見つめる。


「思考能力だよ」

「思考能力!?」

「誰が誰かも分からなくなる。文字通り、ただの殺戮兵器になる」


そして慶二の怒りが爆発した。



「そんなことをしてどうするつもりだ!!!里美はあんたの娘だろうが!!!」

「昔言っただろう?地球を手に入れると。その為の戦力だよ」

「そんなくだらないことの為にか!!!」

「慶二君は思わないのかい?折角天から授かった力なんだ。それを使って地球を手に入れたいとか」

「そんなこと誰が思うか!!!それに里美を巻き込むな!!!」

「里美は私の娘だ。どうしようと勝手だろ?」

「この時になって父親面か!」

「今更父親面ってのは都合がいいって?でも私が父親なのは事実だ」

「…」


慶二は何も言えずに、悔しい表情をする。


「さて、さっきの続きだが…」

「…」

「私に協力する気はないか?」

「断る。俺はあんたの意見に賛同できない」

「そうか…。価値観は人それぞれだから仕方ないね」

「それにしたってあんたは狂ってる…!」

「狂ってるか…。私からしたら正常だけどね…」

「正常?どこがだよ?」

「さっき言っただろう?天才の脳は何かが欠落してると。もしかしたら私はそれかもしれないね」「…」


慶二は反論できなかった。

とりあえず慶二は気持ちを落ち着かせて、冷静に敏雄に問い掛けた。


「里美はいつそうなる?」

「そうなるとは覚醒するって解釈でいいのかな?」

「いつだ?」

「…改造を施してから調度十年後だ」

「今日か!?」

「だからこの時期に町に来たんだ。さっきも時間が重要だと言ったろう?」


そして敏雄は溜息をついて慶二を見た。


「でもできることなら慶二君には来てほしくなかったよ。いろいろと面倒だから」

「面倒…?」

「でも徳川外康のせいで子孫狩りの情報が君に伝わった。残念だ」

「…」


慶二と敏雄の会話は止まった。

そして慶二は隣にいた綾子の方を見た。


「綾子さん、このことは…」

「さっき知ったわ」

「そうですか…」

「それにしても私の娘にそんなことをしてたなんてね」

「…」


綾子は悔しさを噛み締めながら無言で敏雄を睨む。

対する敏雄は涼しげな表情をしている。


「もう一つあんたに聞きたいことがある」

「何だい?」

「あんたを倒せば里美は助かるのか?」

「…里美は今夜10時、僕の命令を聞くだけの殺戮兵器になる」

「質問の答えになってないぞ」

「わからないか、慶二君?」


敏雄は慶二を馬鹿にしたように笑った。


「私がいなくなると里美は暴走する」


その場にいた全員が驚いていた。


「人間は上に立つ人物あるいは物がないと機能しない。法律だったり大統領だったりね」

「…」

「さて、もうすぐ十時だ」

「里美の暴走は止めれないのか…?」

「うーん、そうだね…。私も実の娘が暴走するのはあまりいい気分じゃないな」

「あるのか無いのかどっちだ!!!」

「…少しは自分で考えたらどうだい?」


慶二は戟を取り出す。


「綾子さん、下がっていてくれ」

「ええ…」


綾子は明日香と四分蔵がいる所まで下がった。


「忠海!いくぞ!」

「おっしゃー!」


忠海は気合いを入れると槍を取り出した。


「力ずくで聞き出すってことかな?」

「その通りだ!」

「いっくよー!」


慶二が戟を地面に突き刺さした。


「侵略すること火の如く!」


慶二の足元にあった土が風船のように一気に盛り上がってくる。そして土は風船が破裂するかのようになり、一気に敏雄に襲い掛かった。


「これが武田だな?」


敏雄が手を飛んでくる土の方にかざすと、彼に向かっていったはずの土が上から何かに押さえ付けられたかのように地面に落ちていった。


「何あれ!?」

「多分重力を操る能力だ。さっき綾子さんに当てようとしたのも…」

「違うな。あれは綾子に当てようとしたわけではない」

「わっ!」


忠海が気付いた時、敏雄は目の前にいて剣を忠海目掛けて振るっていた。

しかし、忠海は剣をかろうじて止める。


「よく止めたね。君の名前は?」

「本多…。忠海だよ」

「本多か、なら頷ける。若いのになかなかやるね」


敏雄は一旦忠海から離れ、距離を取った。すかさず忠海が敏雄目掛けて突風を巻き起こす。


「はっ!」


しかし敏雄は人間とは思えない跳躍をしてそれを交わした。


「重力操作か!?」

「ご名答」

「でも着地を狙えば!」


言って忠海は突っ込んでいった。


「甘いな」


敏雄は黒い玉を忠海が突っ込んでくる場所の近くに投げた。

すると敏雄に突っ込んでいったはずの忠海が、急に地面にはいつくばる体勢になった。


「何これ…。動かないよ…」

「忠海!!!」

「狙いどころはいいけど残念だったね。私とはレベルが違うみたいだ」

「キャー!」


敏雄は忠海にさらに重力をかけた。

忠海は悲鳴を出しながらもそれに耐え、苦しそうにしている。


「死ねっ本多!」

「キャー!!!」

「やめろー!!!」


慶二は叫ぶと敏雄に斬り掛かった。慶二が向かって来たので、敏雄は忠海にかけていた重力を解除し、慶二の戟を交わした。


「忠海!大丈夫か!」

「慶二…」


忠海はそのまま気を失った。


「気を失ったか。高校生の少女にあの重力はキツかったかな?」

「…」


慶二は無言で忠海を抱え、綾子達のいる場所に運んでいった。


「四分蔵、外康さんを呼んできてくれ」

「わかったでござる…」

「ボロボロなのにすまないな」

「忠海の為なら構わないでござる」

「そうか…」


四分蔵は港へと向かった。

そして慶二は明日香を見る。


「明日香、忠海を頼んだ」

「わかりましたわ…。あの…」

「ん?」

「里美は…」

「大丈夫だ。俺が絶対になんとかする」

「お願い致しますわ…」


次に慶二は綾子の方を見る。


「綾子さん…」

「ごめんなさい慶ちゃん…。私に力があれば一緒に戦えるんだけど…」


慶二は首を横に振った。


「俺が好きなのはテレビに出ているどんなアイドルよりも美しくて、笑顔が素敵な綾子さんです。綾子さんが戦うところは見たくありません」

「慶ちゃん…」

「明日香と忠海をお願いします」

「ええ…」


慶二は元の場所に戻って、敏雄と対峙した。


「女子供だろうと容赦ないな」

「女子供とは言っても彼女は別だろう」

「別?どうしてだ?」

「彼女は本多忠勝の子孫だ。普通の人とはわけが違う」


慶二は忠海を一回見てから、また敏雄の方を見た。


「あいつ、本当は戦いが大嫌いなんだよ」

「戦闘が嫌い?本多の子孫なのに勿体ないね」

「勿体ない?」

「そうじゃないかい?あんなに強大な力を持ちながら、戦いが嫌いだなんて」

「…あんたはそう思うかもしれない。だが忠海はそうは思っていない」

「そうか…」

「あいつは何かある度に、普通の女の子がよかったとぼやいているんだよ」

「…」

「忠海が過去に何があったのかは分からないし、自分から聞く気もない…」


会話が止まる。


「それで…。話は終わりかな?」

「あと一つ」


慶二は敏雄を睨みつけた。


「生まれて初めてキレたよ…」

「…それは困るねえ」


敏雄が黒い玉を慶二に飛ばして戦闘は再開した。


「疾きこと風の如し!」


慶二は武田の"風"で交わすと同時に敏雄に斬り掛かった。しかし…


「遅いね。その程度かな?」


慶二の戟は軽く交わされ、代わりに敏雄の拳が慶二の顔面に当たった。

慶二は吹っ飛ばされたが、すぐに受け身をとった。


「くそっ!まだだ!」


そして再び"風"で敏雄との距離を詰めようとしたが、先程までそこにいた敏雄の姿がない。


「こっちだよ」


敏雄は慶二の右にいた。そしてそのまま慶二の顔面を蹴り、慶二を数メートル吹っ飛ばした。


「さすがに利上との戦闘の後はキツかったかな?」

「はあ…。はあ…」


慶二は手を膝につき、地面を見ながらなんとか立ち上がる。


「武田の能力について教えてやるよ…」

「武田の能力?風林火山だろう?」

「…」

「なにを教えることがあるんだい?」


慶二は膝にあった手を離して、視点を地面から敏雄に移した。


「たしかに風林火山だが…。少し違う」

「違う…?」

「ああ。それぞれにもう一つ上が存在したんだ」

「上が存在した…?」

「じいちゃんの口癖さ。奥の手は最後まで取っておけってな」


慶二の目付きが変わった。


「疾風迅雷、風神の如し!」


次の瞬間には慶二の戟が敏雄の目の前にあった。


「っ…!」


敏雄は首を傾けて避けた。しかし顔には切り傷ができ、そこから出血し始めた。


「今の動きは…」



冷静だった敏雄もこれには驚きを隠せないようだった。

さらに慶二は戟を地面に突き刺した。


「怒涛の大地烈火の如く!」


すると地震が起き、あちこちから噴火するかのように土が吹き出してきた。

そしてそれらの土が敏雄目掛けて一斉に襲い掛かる。


「何だこの量はっ…!」


敏雄は避けることができずに土にのまれていった。

明日香は、敏雄が土にのまれたのを見ると安堵の表情を浮かべた。


「勝ったんですの?」綾子は敏雄が埋もれている場所を見ながら首を横に振った。


「まだよ…」



ドーン!!!



急に敏雄の上に盛り上がっていた土が吹き飛んだ。


「きたか…」


慶二の見つめる先には全身にに炎を纏っている敏雄が立っていた。


「さすが慶二君だ。今まで戦ってきた相手とはレベルが違う」

「…」


慶二は敏雄が放つ気合いに気圧されていた。



「君から貰った能力を使う時が来たよ…」





……




「痛っ!」


丘に向かう途中、里美が急に心臓を押さえながら座り込んでしまった。


「里美、大丈夫か?」

「うん…」

「どうしたの里美?」


兼次と七美が心配して声をかけたが、里美はすぐに立ち上がった。


「何でもないの。ちょっと心臓がドキドキしちゃっただけだから」

「大丈夫ですか里美さん…?」

「無理しないでよ〜」

「今はもう大丈夫だから。ありがとうね」

「あまり無理はしない方がいい」

「だから大丈夫だってば涼子。ほら!」


言って里美はジャンプをする。


「そうか、とにかく気をつけろよ里美」

「わかったわ」


再び里美以外の全員は走りだした。


「私の体、どうしちゃったんだろう…」


里美は自分の手を見つめる。


「風邪かな…?」

「おーい里美ー!早く来いよー!」

「ごめん兼次!」




里美は再び丘に向かって走りだした…。

戦闘メインではなく会話がメインなので、戦闘にあまり字数をかけていません。お許し下さい。

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