第1話〜利勝の運命〜
季節は夏。子供達は遊ぶのに精一杯な時期、宿題を始めている小学生はまだ僅かだろう。そしてここはとある病院の一室。ひぐらしの鳴き声が辺り一面に鳴り響いていた。
「おい慶二!目を覚ますんだ!」
この人は前田利勝。慶二の父方の祖父だ。そしてこのじいちゃん、どう見ても50代にしか見えない。若く見えるっていいなー。
「何言ってんだ!今にも死にそうなのはじいちゃんの方だろうが!!!」
と、ボケに乗らずに普通につっこんだこのつまらない男。名前は前田慶二、物語の主人公だ。
「あっそっか」
「ジジイ!こんな時まで冗談言うなよ!」
慶二君は利勝の胸倉を掴みながら叫んだ。これは危ない!
「落ち着くんだ慶二君!」
ふぅ…。私が止めなかったらどうなっていたか…。
「すいませんでし…。って今までナレーションしてたのって先生だったのかよ!!!」
「…」
「……いやっ、違うよ」
「なんで嘘つくんだよ!?」
嘘ではない。未来への進軍である。
「おい慶二…」
「ん?なんだじいちゃん?」
「ワシはもう長くはない。そこで最後にお前さんに言っておかなきゃならないことがある…」
「なにバカなことを…」
しかし慶二君はその先の言葉を口にすることができなかった。慶二君は心の中では諦めていたんだろうか…。
私も医者として、できる限りのことは全てやった。しかし医療にも限界というものがある。
「慶二…」
この時慶二君は目から溢れてくる雫を止めることが出来なかった。彼がこんなに泣いたのは、小学生の時以来だ。
何故知っているかって? 私は医者と同時に、この物語の頂点に君臨する神だからさ。
「今のお前なら力の制御は簡単だろう…」
「…」
慶二君は何も言葉にすることが出来なかった。
「だからワシはお前の師として言うことは何もない。だがお前の祖父として一つ、一言だけ言わせてくれ…」
「ああ…」
慶二君はもう目を開けることができない。聞こえるのは利勝さんの呼吸音と、慶二君の泣きびゃっくりだけだ。
「…慶二」
「バーカ」
「ブッー!!!」
思わず私は吹き出してしまった。その通り。利勝さんは既に山を越えていたのだ。
「どっきり大成功じゃな」
「そうですね」
「ちっくしょー!」
次回からが本編になるかな