大円団…?
「あなたは私に酷いことしたけれど、私はあなたになにもしてないと思うんだけど…」
首をひねりながらススン姫はステラにそう言った。
そんなススンにステラは噛んで含めるように話し始めた。
「あの植物園で…君は私にプロポーズをした。
それがどれほど嬉しかったか。
生まれて初めて恋のときめきを知った。
長い間求めていると気づかずに求め続けていたものをやっと手に入れた気がした。
私の心はあの植物園を抜け空高く舞い上がっていた。
けど…次の瞬間君は僕が君の愛しい人の身代わりに過ぎないことを告げ、私の心を地面に叩きつけたのだ」
「や!ちょっと待って!!私はあなたをリュートの身代わりだなんて言った覚えはないわ!」と思わず姫が叫ぶ。
「いや、君はあの時言った。言ったも同然だ。
うっとりと私の後ろに透けて見える君の愛しい人を見つめて。
…私はこの二ヶ月間、君に会いたい気持ちを押さえるのに必死だった。
なにをしていても君のことが頭から離れることはなかった。
君への思いをなんとか押さえることができていたのは、あの時君に踏みつけられた心の痛みや悲しさが君を好きでいることの愚かしさを絶えず訴え続けていたからだ」
そう言われて初めてススン姫は植物園での会話の最後の方を思い出した。
ステラと口づけを交わしたところまでははっきり覚えていたのだけれど、それ以降は頭がぼおっとしていて漠然としか覚えてなかった。
確かにリュートのことを口にしたかも…
だけど、それはステラがリュートに似ているから好きということではなく、大好きだったリュートよりも何倍もあなたは素敵よって言おう思ってのことだったのに…
あら、やだ。
余計なことを言った私がいけなかったの?
でも…
「だったらその場でそう言って怒ってくれれば良かったのに…
そうしたら私は自分の思いを最後まで口にすることができた。
私もこの二ヶ月ずっと間苦しんできたのよ?」
ん?
でも…そんなに怒っていたのになぜ急に私を許す気になったのかしら?
さっき結婚したいから親に会わせろって言ってたわよね?確か。
「あの…ステラ?
あなたどうして私を許す気になったの?」
おずおずとススンはステラに尋ねる。
ステラに対して超怒っていたのだけれど、ここに来て少し私も悪かったかもとススンは思い始めていた。
「君が55キロ太ったから」
「…は?」
「君が55キロ太ったから」
「…は?」
打ち間違いではない。二人とも同じ言葉を繰り返したのだ。
「君はリュートに失恋して45キロ痩せて、私が去った悲しさで55キロ太ったのだよね?」
「はあ…まあそういうことになるかしら…」
「10キロ分、君がリュートより私の方が好きだとわかったから。
私の方が今の君にとって大事だとわかったから。
もし私がリュートの身代わりであったなら私が帰ってしまった悲しさで変わる体重はリュートに失恋した時と同じ45キロのはずだ」
え…
だからさっきから55キロ55キロって呟いていたのね?
はあ…
なるほど。
この人数字で私の辛い気持ちを計ったのね?
私がリュートに失恋した時よりステラ王子に捨てられた悲しさで変化した体重の方が多かったので、リュートの身代わりとしてではなく本当に私が王子のことを好きなんだと理解したんだ…
ふ、人の心なんて数字では推し量れないものなのになあ…
さっき急に表情が変わったステラを思い出してススンはおかしくなった。
この人って地味に賢そうなのに意外に単純なところがあるのねぇ…
でも、そんなところがなんだか可愛い。
うん、あの日私に黙って帰ってしまったことに超ムカついていたけれど…私もこの人のことを許してあげよう。
「あはは、ステラ。
だけど私スレンダーな美女からプポルの言うところの怒ったフグみたいに変身しちゃったけどそれでもいいの?お嫁にもらってくれるの?」
そう尋ねたススンにステラは言った。
「君はハルンメルの大広間で初めて会った時から一ミリも変わっていない。
バカがつくほどの正直者だ。
今回のプポルのことだって自分たちの立場を守るために嘘をつき通すという選択肢もあっただろうに…」
それに対して「そんなもんないわ」とススンが食い気味に言ったのでステラは笑ってしまった。
ほら、少しも変わっていない、と思って。
「私、今回の件を両親にいろいろ説明しなきゃならないわ…
ねえステラ、両親に事の経緯をどうやって説明するかを一緒に考えてくれる?」
そう頼んだススン姫に対して「もちろんだ、けどその前に…」と言ってステラは両手を広げた。
それを見てススン姫は思いっきりステラの胸に飛び込みたい衝動に駆られたけれど、そんなことしたら絶対この人倒れちゃうと思ってそぅっとステラに身を寄せた。
そんなススンを強く抱きしめステラは頬ずりをした。
自分の頬をススン姫に押し付けると、彼女のふっくらした頬はすごい弾力で押し返してくる。
その感覚を心地よく感じながらステラは思った。
丸々としたススン姫も可愛らしいけれど、第16王子城に連れて帰ったら、痩せてしまうだろうな。
この体型を維持できるほどの食事は提供できないだろうからと。
ならば今思いっきりこの頬の感触を楽しんでおこうと思うステラであった。
「ちょ、ちょっとプポル!」というユリカの呼びかけをプポルはツーンとして無視した。
絶対許さないんだからと思って。
「プポル、そ〜ぉと後ろを振り返って見なさいよ」と言われて「なに」と不機嫌に答える。
「や、裁判の件は一回忘れて。
今別の事件が起こってるわ。
そおっと、そおっとよ、そおっと振り返って」
そう促されてプポルは渋々振り返る。
「うげっ!」っとへんな声を出したブボルをユリカは叱った。
「静かにっ!」
振り返ったプポルが目にしたのは執務机のところで繰り広げられてるススン姫とステラ王子のラブシーンだった。
ひゃ〜絵にならない。とプポルは思った。
だって相手がまん丸いんだもの!
ってかなにがどうなってあんなことになってるんだ?
少し落ち着いたら根掘り葉堀り事情をきかなくっちゃっ!ハフハフ!
「なんか、よくわからないけどめでたしめでたしって感じね?
って事で二人を引き合わせた私の功績を称えて、わたしが嘘ついたことは許して?」とユリカは手をすり合わせた。
「それはそれ、これはこれ。
わたしは許しませんよ。言うにことかいて強制わいせつって!
私の親の耳にでも入ったらどうしてくれるんです?
こういうのは面白おかしく尾ひれがついて広がっちゃうもんなんですよ?
そんなことになったらもうお婿に行けませんよ!私」
「あら、それは私も同じよお〜
こっちではすでに大事になってるわ、もうユリカはお嫁にいけないわねって同僚たちには影で言われてるし、親も泣いてるわ。
まっ、姫が一生面倒見てくれるだろうから別にいいけど、へへっ」
そう言った強がった言葉とは裏腹にちょっとしょんぼりしたユリカをプポルは改めて見た。
この人はすでに自分がしたことの報いを受けてるんだ…と思って。
そして次にもう一度後ろを振り返ってステラたちを見た。
絵的にはなんか様にならないけどステラはとてつもなく幸せそうなオーラを醸し出している。
まあなあ…
確かにユリカの嘘のせいで二人は再会できたんだけど…
それにユリカが嫁に行けなくなるのだって自業自得なんだけど…
この人のススン姫を思う気持ちは理解できなくもない。
私たちって気は合わないけど、ご主人様大好きっ子って言う共通点はあるなあ。
なんだか…なあ…
はあ〜
気まずい。
いつまで怒ってるのかしら、この男。
ちゃんと謝ったのに。
意外にねちっこいわね。あ〜やだやだ。
と、ユリカは黙り込んでうつむいたプポルを見て思ったのだが、この時プポルはユリカの持ったカップのカモミールティーを甘くすることに神経を注いでいたのだった。
『スプーン一杯分の魔法』おわり
「ちょっと!この終わり方じゃあまるで私がユリカに気があるみたいじゃないですかっ!
私はただちょっぴりユリカがかわいそうになっちゃったから、少し励ましてやろうと思ってお茶を甘くしただけですからねっ。
あくまでも人道的観点に立ってのことなんだからっ!
そこんとこ誤解の無いようにお願いしますよっ!」byプポル
ですって(笑)
最後までお読みいただきありがとうございました。