魔王の華
「ハナ様!!」
華は後ろから呼ばれ、相手を予測しながら振り返った。
「イザーク、どうかしたの?」
そこには、イザークが息を切らしながら華の下へと走り寄ってくる。
そんな彼の姿は、初めてだ。
「ハナ様!
ギルと、ギルと・・・こ、婚姻を交わすのですか・・・!!」
華は、イザークのその言葉に何故それを知っていると聞きそうになった。
それが決まったのはつい昨日の事なのに。
しかし犯人は考えなくともわかった。
「イザーク、本当の事だと言っているでしょう」
イザークの後ろから、ゆったりとした歩みでギルがやって来る。
その後ろにはアルバ、ロロ、ガルグもいた。
「いいえ!!ハナ様の口から聞くまでは信じませんよ・・・!!」
「え、っと・・・するよ?」
その瞬間、イザークは崩れ落ちた。
「ちょ、イザーク?」
「・・・早すぎます・・・」
「え?」
「もっと牛歩の感じで進んでくださらないと!!
せっかくギルで遊べると思っておりましたのに!!」
イザークの言葉に、ロロ達はあちゃあ、と額に手をやった。
ギルは、額に青筋を浮かべている。
「そんな理由?」
華は乾いた笑うを浮かべるほかない。
「そんなではありませんよハナ様!!
あのギルが!
氷鉄と呼ばれ、なんっも面白みのない男が!!
恋に浮かれて沈んでを見る事は非常に面白い事です!!」
その瞬間、イザークはギルによって張り倒されていた。
「イザーク・・・お前とはよく話し合う必要が、ありそうですねぇ・・・」
そしてようやく、イザークはまずい事を口走ったと気づいた。
すでに遅いのだが。
「きょ、今日は遠慮しておきますよ、ギル・・・」
そして脱兎のごとく逃げ出した。
「あーあ」
「本当に、イザークも喜んでるならそういえばいいのに」
ガルグとアルバが後を追いかけるように歩き出す。
「ハナ様、イザークもですが皆心配していたのですよ」
ロロはふんわりと微笑むと、二人の後追うように歩き出す。
「・・・はぁ」
4人の姿が見えなくなった後、ギルは深くため息をついた。
「・・・大丈夫、ギル?」
「・・・心配されているのはわかっているのですが・・・
もっと他にやりようがあったのではないかと思いますね」
そう言いながらも、その表情は嬉しそうだ。
ギルだって本当は分かっているのだ。
しかし、長年一緒にいると照れくさいものもある。
「というか、もうみんなに言ったのね」
そう言えばと華は言った。
「当たり前です、少しでもけん制しておかねば・・・」
華はギルのその言葉にくすぐったいような感覚を覚えた。
「なら、一つ私からお願いしようかしら」
ギルは、華のその言葉に目を輝かせた。
華は基本的に謙虚だ。
そして自らの望みを口にすることが少ない。
それをギルに言ってくるのだ。
ギルは自分が特別だと言う幸福感を得た。
「なんでしょう、ハナ様」
「結婚する相手に、様付けはやめてほしいな」
華は正直様付けが苦手だった。
会社とかであればまだしも、いつもつけられていると恐縮してしまいそうになる。
それに、好きな人にそのような呼ばれ方をされると距離がある様に感じてしまうのだ。
「え、いい、のですか・・・?」
恐る恐る聞いてくるギルに、華は頷いた。
華の首肯に、ギルは蕩けんばかりに微笑むと華を抱きしめた。
「・・・ハナ、私だけの、ハナ」
「!!!!」
「本当はずっと呼びたかった、これであなたは私のもので、私はあなたのものだ」
ギルからは敬語すらも抜け落ちている。
そして滴るような色気が、華を襲う。
「ハナ、私だけを見て
私だけを心から想って
目移りなんてさせない」
華は気付いてしまった。
こいつ、やばいと。
「あぁ、私だけのハナだ・・・」
ギルはうっとりとした表情で華の頭に顔を摺り寄せる。
時折聞こえる音は、唇を髪に落としているのだろうか。
すぅと、息を吸い込むその姿は、変態そのものだ。
しかし、それでもいいと華は思った。
これだけ愛してくれるのであれば、きっとここでこれからも生きていける。
少なくとも、独りにはならない。
もう帰れないのなら、この世界で生きていく覚悟をしなければならない。
独りでは無理でも、愛する人とならきっと生きていける。
「好きよ、ギル」
「私は愛しているよ、ハナ」
そして魔王の華は美しく咲き誇った。
拙い文を今までお読みいただき有難うございます




