子供
亜人族は大陸の端に追いやられてはいるものの奴隷や、出稼ぎ人(人?)などとして働く姿は町のあちらこちらで見かけることが出来る。
愛らしいその容姿を武器にして接客業、また身体能力の高さでガードマン、彼らの仕事は多い。
だが、あくまで立場は人間の下である。
奴隷として町に連れてこられた亜人族の子供はよく狙われる。
暴力、恐喝、パシリ…
はっきり言って誘拐には慣れっこだった。
「勇者? あの勇者なの?」「人殺し」
だから亜人族の子供は(自称)正義の味方が助けに来てもたいして喜ばなかった。
「助かった」「お家に帰れるんだよ」
「神様、ありがとう」「やったー!」
一方人間の子供たちは大喜びだ。
亜人族二割の人族八割なので歓喜の声ばかり聞こえている。
「あんた達、ミンチの正しい作り方、教えてあげるわ!」
それはどうかと誰もが思った。
「勇者、お前のせいだ」
「そんなの知ったこっちゃ無いわ」
勇者は聞く耳を持たない。
普通の人間の話を聞かないのだからましてや犯罪者の言葉などに耳を傾けるわけがない。
「いや、お前が魔大陸を吹き飛ばしたせいだ。魔大陸の開発が出来なくなった」
だからこっち(人身売買)で儲けてるんだよ、と後に続ける。
「そりゃ!」
「何もかもo…ぶぎゃぁ!」
腹の立つことを延々としゃべり続ける男の頭を剣の腹でぶん殴る。
おい、頭に衝撃を与えるのは止めろ。
「ふっ!」
そのまま牢屋の鉄格子をスパッと斬ってしまう。
おそらく金属性の魔法で剣を硬化しているのだろう。
「ほら、行きましょう?」
勇者の指指す先、外には大男、黒猫、青年、そして子どもが二人。
「……に、…ぃ」
それを見て猫族の少年が聞き取りづらい小さな声で何かを言った。
「どうしたのかな?」
よく聞こうと目の高さにかがむ勇者。
少年は勇者を睨みつけて叫んだ。
「ふざけんな! お前なんかに助けられたくないっ!」
心の声。
嘘偽りのない、純粋で、凶悪な言葉。
勇者は大きな目を更に見開いた。
一瞬周りが静まり返る。
「人殺し」「お父さんを返せ!」
「死ね」「お前が、お前がやったんだ!」
歓喜の声が怨嗟の声に変わるのに三秒もかからなかった。
さっきまで勇者に助けてもらえると喜んでいた子供たち。
「君たち、あたしは皆を助けに…」
「五月蠅いっ! さっさと失せろよ!」
釈明なんて聞かなかった。
正義を掲げた大衆を前にして、生き残れる者なんているはずもない。
「…ほらな、っげほ、お前の、せい、だ」
とどめにさっき殴り倒した男が切れ切れに勇者を責める。
「あたしは、魔族を殺して、もっと幸せな…」
「私の幸せを、家族を奪ったくせに」
「嘘つき」「死んじゃえ」「人殺し」
そして、
「そんなの、お前が魔族だ!」
その言葉を聞いて、勇者は困難を前に初めて逃げ出した。
***
猫族のトラは見ていた。
“透視”の瞳で勇者達の行動を見続けた。
だから誘拐されたときも勇者が助けに来るだろうと容易に考えられた。
なのに、
「トラ、私達やっぱり売られちゃうのかな?」
「もう少し待って、そしたら助け、来るから」
不安げな犬族の少女や、今にも泣き出しそうな人族の少年たちを放って自分の仲間を助けに行ったのだ。
大衆を、より沢山のひとを守らずに。
魔大陸戦も、兵士よりもっと多くのひとを助けるために魔法を撃ったのだと思って我慢した。
父親が、けして帰ってくることがなくても。
あの瞬間を見てしまっていても。
「…ぁ」
“透視”の視界に勇者がうつる。
後ろに子ども二人がいる。
「…何で」
怒りがこみ上げてくる。
「どうしたの?」
思わず声に出していたようだ。
この子達を心配させてはいけない。
自分は年長者なのだから。
「何でもないよ」
笑顔に、なっていたかな?
眠いのでさっさと次回予告をします。
ずーんってなって慰めたり質問したりする