穴の中には
穴を広げながら進むこと十分。
小部屋にでた。
中には小さな机と椅子、それとレコードプレイヤー的な何かが鎮座している。
なんだこれ。
よく分からないが怪我なんてすぐ治ってしまうのをいいことにいじってみることにする。
見れば見るほどレコードプレイヤーなのだが針だけがどこにもない。意味ないじゃん。
「このボタンは…」
代わりに謎の赤いボタン発見。
それ、完璧に押せって言ってるよな。
もう何でもいいや、押してしまえ。
カチリという音が響いてから思った。
地上の連中に相談すれば良かったんじゃね?
***
「…遅いわね、モリオンくん後追って穴ってのに入りなさい」
「随分と理不尽だね」
「それが世の中ってもんよ。だから穴に入りなさい」
忘れてたくせに、と言ってしまったら抽選もせずにもれなく骨まで響く強烈な打撃が届くに違いない。
「ちょっと! 持ち上げないで、押さないで!」
「えいっ! …って、あれ?」
勇者が抵抗するモリオンを井戸に突き落とそうとしたとき目の前が歪んだ。
「何ですか、これ?」
「知らない」
カルロスやノーラもそうらしい。
目を擦ってよく見ようとすると元に戻った。
そう、元に戻ったのだ。
目の前に広がるのは青々としている草原。
さっきまでモリオンを落とそうとしていたところには子供なら通れそうな穴。
草に隠れていて見えにくいが確かに穴があった。
「…幻覚、ですか、今までの」
「ホットケーキ」
「それも実は幻覚で食べてたのは泥団子だったりして」
「でもぼくの顔に塗られてたクリームは無くなったよ?」
はっきり言って意味が分からなかった。
「ご主人様が戻ってくるの待とう?」
***
ボタンを押したら音声が流れてきた。
蓄音機だったのか?
『始めまして、じゃの? 妾はお主が来るのを待っておった。小さな魔王様?』
はい?
あんた誰だ?
『妾は所謂、上級魔族じゃ。詳しい事は会ってから話そう。火山に来い』
火山にいる上級魔族。
自称神様の言っていたことと同じだ。
『妾は発明家でのぅ…これも自信作じゃ。無論、この村を維持している映像も。未来視の宝玉も発明したのじゃぞ? だから、こんな周到に準備をして歓迎出来たわけじゃ』
え、映像だと?
村が本当は無かったということか。
勇者たちの記憶はあっていたようだ。
そしてもう一つ気になるのが未来視の宝玉とやらだ。
『未来視の宝玉を火山の作業場で生み出してからちょくちょく使ってみたのじゃ。まさか魔王種が生き残っておったとは、それも妾たち、魔族の仇敵と行動してるとはおもわなかったのぅ』
それって自信作どころじゃないんじゃ…
自称神様だって俺の未来は見にくいんだろう?
『宝玉に映った未来でお主は死んだのじゃ。それから先は黒く染まり、読めなかった』
それは、邪神が復活出来なかった世界なのだろうか。
『そして思ったのじゃ、変えられるやも知れぬと。宝玉の未来ではお主が死んだ。じゃが生き残ったら? 妾たちは人という種族の群れにいつか狩られる。なれば一時でも生き長らえるお主が生きている未来に尽くそう、と。
その為にいささか強引ながら奴らと分断させて貰った』
…それなら穴だけで良かったんじゃ?
『発明品の性能も測りたかったしのぅ』
それが本音か。
『あぁ、それと言い忘れておったのじゃ。これの起動ボタンを押した時点で映像は消えるようになっておる。奴らには誤魔化して置いてくれ』
それっきり音声が途切れた。
どうしろってんだよ。
今日は入学式でした。
なんで雨なんでしょう?
次回予告
火山に向けて出発