神光剣
アンディの講義で話だけ聞いたことがある。
魔法の級は一つ上がると数十倍の威力になると。例えるならマグニチュードみたいなものだ。
だから初級だとロウソクの火でも中級だとサッカーボールほどの火球に、上級だと周りを焼き尽くす劫火に、聖級だと山火事レベルになると教えられた。
神級魔法。
魔法の頂点にして極地。
山火事の数十倍ならどうなるか。
考えただけで恐ろしい。
そんな神級魔法が練られていく。
光はさらに膨れ上がる。
「負けたな」
魔王が誰に言うでもなく呟く。
「まさか教会軍まで巻き込むつもりとはな」
光はさらに大きくなる。
モリオンが俺の肩をそっとつかむ。
「モリオン、カトレヤを頼む」
え?
魔王は蝙蝠の羽を広げると窓から外にでる。
ホバリングしながら空中に魔法を描く。
巨大な盾の魔法。
でも、そんなのでは気休めにもならないだろう。
「…アズライト様、私も手伝うわ」
異常を察して部屋から出てきたアイリスが加わる。
でも、無駄だろう。
それと同時に東棟から音がする。
アンディの塔の周りに魔法が描かれる。
あれはそういう用途もあったらしい。
でも、無駄。
「カトレヤを連れて飛びなさい、モリオン」
振り返ってアイリスが言った。
胸にはモリオンの鱗でつくったお守りが揺れている。魔王の胸にも。
「ご主人様、行くよ」
飛んでも逃げきれるとは思えない。
それでもモリオンは竜の姿に戻り、俺をくわえて羽ばたく。
窓から出て、空に向かう。
そこから下が見えた。
皆、戦いをやめていた。
呆然と巨大な光を見つめている。
光が放たれるのをただ見ている。
それしか、出来なかった。
圧倒的な破壊を前にして、何も。
光が全て、なぎはらった。
俺の部屋も、訓練した庭も、アンディの塔も、ラドルフも、教会軍も、魔族軍も。
魔王とアイリスも。
なのに、俺とモリオンはいつの間にか人型になっていたアンの防御によって守られていて。
「お父さんっ! お母さんっ!」
初めて、二人をそう呼んだ。
ちょっと急すぎたかもしれません。
しかもいつも頑張ってつけるオチが有りません。それなりにシリアスなので。
次回予告
ガーンとなったりする