夫婦喧嘩
結局、プレゼントの材料はモリオンの鱗を使うことになった。
二枚の鱗を同じ形に削り、揃いの御守りに仕上げ、二人の部屋に置いてきた。
その後、アンディにあの洞窟について聞きに行った。
「そうか、あの洞窟に行ったのか。あれは儂が生まれた頃にはもうあったの。確か今は魔王の訓練所として使われておったはず……」
マジか。
当たってた。
後、気になったのだが不死族って生まれるとか生きるとか有るのか?
まあ、いっか。
「魔王は“絶対服従”で大抵の魔物は配下に付けられるからの、ああいう場所は重宝するのだろう」
確かに。
魔王はそもそも魔物と戦う必要がない。
やったとして他の魔王との戦いくらいだろう。
ましてやその魔王が自分を除き、全滅した訳だから余計に戦わなくなる。
腕が鈍らないように戦いはしたい。
「あれは魔大陸が出来たときからあったというのが最も有力な説だが……それはそうと、お客に飲み物を出すべきだの、このジュースを……」
黒かった。
嫌な臭いもする。
…………全力で逃げた。
***
「…前々から思ってたんだけど、ぼくたちあの人に恨まれるようなことした?」
「…そういう問題じゃ無いと思う」
アンディを巻いた頃にはもう日が暮れていて夕食のいい匂いが漂っていた。
今日はやたら疲れた。
モリオンと食堂に向かう。
「ね、ご主人様、早く」
モリオンは元気だった。
それ、一割でいいから分けてください。
そんなこんなで食堂に着くともうアイリスが待っていた。魔王の姿は無い。
待つことにした。
「………遅いわね」
待って十分、アイリスはぼそりと呟いた。
結婚記念日に遅れてくるとは魔王も困ったひとだな。
「遅いね、ご主人様?」
待って十五分、モリオンも早く食べたくてうずうずしている。
あとアイリスの周りの空気が濁っていくのが怖い。
「………遅い」
待って二十分、俺も呟いた。
いくらなんでも遅すぎる。
何をやっているんだ?
と思ったら、かなり焦った魔王が食堂に入ってきた。
「すまない、仕事がお……」
「仕事と私、どっちが大事なの!?」
こういうの、本当にあるんだ……
それと、子供の前だぞ?
「どうしても外せない仕事だったんだ」
「仕事をとるっていうの?」
アイリスが怖い。
魔物を総括する偉大なる魔王が押されている。
「…だが、アイリス、聞いてくれ」
「馬鹿っ!」
アイリスは走り去った。
物凄く居心地が悪い。
早く仲直りしてほしい。
でも俺は、
魔王夫妻があの自称神様より高度なことで夫婦喧嘩をしていることに少し安堵した。
次回予告
二人のために主人公が頑張ります