↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

アレン視点:当たり前だった未来

アレン視点です。後悔さらせー

最初は、本当にただの友人だった。

ミレーヌはルシアと違った。

気軽だった。

何でも話せた。

小さな失敗でも笑い飛ばしてくれる。

一緒にいて楽だった。

だから会うようになった。

昼休み。

放課後。

休日のお茶会。

気付けば一緒にいる時間がどんどん増えていた。

その分、ルシアに会う時間が減った。

周囲から何度も注意された。

母からも。

父からも。

だがアレンには理解できなかった。

何が悪いのだろうと。

友人と過ごしているだけではないか、と。

そう思っていた。

ある日のことだった。

学園の裏庭でミレーヌが泣いていた。

「皆、酷いんです」

涙をこぼしながら言う。

「私のせいでアレン様まで悪く言われて」

震える肩。

アレンは放っておけなかった。

「お願いです」

服の袖を掴まれる。

「今日だけ」

その声はひどく弱々しかった。

「今日だけ、そばにいてください」

震える声だった。

「一度だけでいいんです。お願いです」

アレンは迷った。

本当に迷った。

だが。

拒むことができなかった。

たった一度だけ。

そのつもりだった。

だが。

一度越えた線は驚くほど簡単だった。

二度目。

三度目。

四度目。

罪悪感は薄れていく。

どうせルシアは遠くにいる。

知られることはない。

そんな甘い考えもあった。

気付いていなかった。

エヴァンズ家が動いていたことに。

調査員がいたことに。

証拠を集めていたことに。


◇◇◇


ルシアが留学して三年目の春。

父に呼び出された。

執務室だった。

机の上には書類が並んでいる。

その内容を見た瞬間、血の気が引いた。

「言い訳はあるか」

父の声は冷たかった。

証拠は揃っていた。

宿泊記録。

目撃証言。

贈答品。

積み上げられた証拠に言い逃れはできなかった。

婚約は正式に解消された。

エヴァンズ侯爵家は慰謝料を請求しなかった。

だが婚約契約の違反に対する賠償は別だった。

アレン個人が保有していた資産。

将来のために蓄えられていた財産。

その全てが失われた。


◇◇◇


その日。

初めて焦った。

初めて恐くなった。

初めて理解した。

ルシアを失ったのだと。

その夜。

アレンは手紙を書いた。

長い手紙だった。

謝罪を書いた。

後悔を書いた。

弁解を書いた。

途中で何度も便箋を破り捨てた。

それでも最後まで書いた。

許してほしかった。

話がしたかった。

せめて一度だけでも。


◇◇◇


数日後。

送り返されてきた。

未開封のまま。

封蝋すら割られていない。

アレンはしばらくそれを見つめていた。

読まれなかった。

それが何より苦しかった。

だが、それでもどこかで思っていた。

ルシアなら。

時間が経てば。

いつか話を聞いてくれるのではないか。


◇◇◇


そんな甘い考えが砕かれたのは、その日の夕方だった。

ミレーヌが訪ねてきた。

「アレン様」

「どうした?」

「お話があります」

妙な胸騒ぎがした。

「子供ができました」

頭が真っ白になった。

「……え?」

理解が追いつかない。

ただ呆然と見つめる。

するとミレーヌは言った。

「責任、取ってくださいますよね?」

言葉が出ない。

「婚約はなくなったのでしょう?」

胸が痛む。

「でしたら私と結婚してくださいますよね?」

当然の要求だった。

アレンの頭に浮かんだのはルシアだった。

未開封の手紙。

許してほしい。

会いたい。

やり直したい。

そう書いたばかりだった。

だがその未来は今、完全に閉ざされた。

もう終わりだった。


◇◇◇


やがてミレーヌと結婚した。

だが現実は甘くない。

バーク家には兄がいる。

婿入り先にはなれない。

エヴァンズ侯爵家への婿入りも消えた。

領地も。

地位も。

富も。

未来も。

全て失った。

父は見捨てなかった。

フォード家の別宅を与えた。

仕事も用意した。

給料も出した。

贅沢はできない。

だが生活はできる。


◇◇◇


「ねえ」

ある日の夜。

ミレーヌが言った。

「今度の夜会、本当に行けないの?」

「行けない」

「どうして?」

「招待されていない」

ミレーヌは唇を噛んだ。

「こんな生活になるなんて思わなかった」

そう言ってミレーヌは視線を落とした。

アレンも同じだった。


◇◇◇


夜。

一人で窓の外を見る。

ふとルシアを思い出す。

いつも隣にいた少女。

信じてくれた人。

支えてくれた婚約者。

なぜあの時。

あんな言葉を言ったのだろう。

なぜあんな目を向けたのだろう。


◇◇◇


ルシアが帰国したと聞いた。

気付けば馬車を手配していた。

もしかしたらという期待があったからだ。

手紙は読まれなかった。

それでも直接会えば。

ルシアなら聞いてくれるかもしれない。

許してくれるかもしれない。

少しでもやり直す道が残っているかもしれない。

そう思っていた。

だが。

会えなかった。

「一目だけでも」

必死に頼んだ。

だが執事は静かに頭を下げる。

「申し訳ございません」

「お嬢様はお会いになりません」

それだけだった。

責める資格などない。

傷付けたのは自分だ。

失ったのも自分だ。

帰りの馬車の中。

アレンは窓の外を見ていた。

かつて未来は約束されていた。

侯爵家への婿入り。

豊かな生活。

地位。

そして。

ルシア。

全て手の中にあると思っていた。

だが違った。

自分は失ったのではない。

自分で手放したのだ。

どれほど後悔しても。

どれほど謝りたくても。

どれほど会いたくても。

もう。


彼女は他人だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。