王の呼び声
会員制ラウンジの成功からさらに数週間が経過した。ロスの活動は10層にとどまらず、20層、30層へと拡大していた。各層に設置された休憩所は冒険者たちの命綱となり、ダンジョン全体の死亡率は驚くべき速さで低下していた。
「30層の宿泊施設、今月で利用者が五百人を超えました」
「20層のラウンジも、ほぼ満席の状態が続いています」
「魔石の収入は前月比で三割増です」
リリアが次々と報告を読み上げる。ロスはそれを聞きながら、新たな設計図を描いていた。彼の手は忙しなく動き、ペン先が紙の上を滑る。
「……40層の温泉リゾートは来月着工予定だ。それと、50層以深の調査もそろそろ始めたい」
「50層? あそこは瘴気がひどいって聞いてますよ」
「だからこそ、調査が必要だ。将来的には、あそこにも拠点を作りたい」
リリアは驚いたように目を見開いたが、すぐに苦笑した。
「……あなたは、本当に止まることを知らないんですね」
ロスは答えず、ただ微笑んだ。
その時だった。ギルドの入口が静まり返り、重厚な足音が響いた。振り返ると、そこには見慣れない男たちが立っていた。彼らは白い礼服に身を包み、胸には王都ギルド本部の紋章を掲げている。
「……ロス・グレイヴァー殿はどちらですか?」
先頭の男が声を張る。その口調は厳かで、威厳に満ちていた。
「私です。何か用ですか?」
「王都ギルド本部より、勅命を伝えに参りました」
男は一通の書状を差し出した。封蝋には王族の紋章が押されている。ロスはそれを開き、中身を読んだ。
『地下50層にて、希少資源「オリハルコン」の大鉱脈が発見された。しかし、環境は強力な瘴気に覆われており、人間の活動は極めて困難である。貴殿の建築技術を以て、同地に採掘拠点を建設されたし。国王直々の命である。』
ロスはその文面を二度、三度と読み返した。そして、深く息を吸った。
「……50層に都市を建設しろ、と?」
「その通りです。王は貴殿の能力を高く評価しております。この任務を引き受けてください」
周囲の冒険者たちがざわついた。50層の瘴気は有名で、これまで多くの挑戦者が命を落としてきた場所だ。そこに都市を作るなど、常識では考えられない。
だが、ロスは違った。
「……面白い。引き受ける」
彼はそう言って、書状をポケットにしまった。その目には、新たな挑戦への興奮が宿っていた。
「ただし、条件がある」
「条件とは?」
「自由に動けること。ギルドの干渉は一切受けない。それと、必要な資材と人員は全てギルドで用意してもらう。これが無理なら、話はなかったことにしてくれ」
使者は一瞬沈黙したが、すぐに頷いた。
「……王は、貴殿の采配を全面的に信頼すると仰せです。その条件、お受けいたしましょう」
ロスは口元を緩ませた。
「よし、それならやろう。ダンジョンの最深部に、新たな都市を創り上げる」
その瞬間、ロスの人生は再び大きく動き始めた。彼の戦いは、もはや単なる穴埋めではなかった。それは、ダンジョンそのものを変革する壮大なプロジェクトへと変わろうとしていた。




