EP552:伊予の物語「修築の柵(しゅうちくのしがらみ)」 その1~伊予、尊敬を得る算段を立てる~
【あらすじ:行動力があり、問題解決能力もある、理想の女子になって、最大の恋敵に劣等感を持たずに済む自分になる!ために堤修復工事の視察に同行することにした私は、いつもの『うっかり体質』と『身のこなしの鈍さ』があいまって、取り返しのつかない失敗をしてしまった!
簡単なハズなのに焦れば焦るほど深みにハマるのは、パニックのせい?とも言い切れない。
私は今日も本能がそそのかす甘い言葉に抵抗できない!】
一話ずつ毎日5:00~公開します!
凍てつく夜を忘れさせるかのような、強い陽ざしの冬の午後のこと。
梅壺の梅は、花を咲かせる枝があるかと思えば、蕾のまま、あるいは蕾すら見えず、寒々とした枝のまま冷たい風に揺すぶられている。
咲く枝と咲かない枝の違いは何?
時期がずれてるだけ?
もう少し待てば全ての枝が花咲くの?
それとも、何の因果かその枝だけ枯れてしまったの?
梅の花が咲かない原因は、気温とか肥しとか、外部に問題があるのかもしれないけれど、木の内部に問題があるのかもしれない。
時平さまが私に侮蔑的で冷酷な態度をとったとしても、それはそうする理由があったから。
私を嫌いで馬鹿にしたワケじゃない。
それなら、私がもっと強くなればいいだけ。
侮られたとしても平気な自分になればいい。
臺与に負けてると思うから、臺与ほど時平さまの役に立ってない自覚があるから、自分に自信が持てない。
臺与よりも愛される理由が、どこを探してもみあたらない。
二人の間をつなぐ、一緒にいるためのもっと強い絆が欲しい!
愛情?
男女の情なんて恋が冷めればすぐに切れてしまうかもしれない。
それよりも確固たる絆は
・・・・・尊敬?
無謀かもしれないけど、時平さまに尊敬されるような人になりたい。
臺与に嫉妬しなくてすむぐらい、自信が持てる自分になりたい。
そのためには、どうすればいい?
う~~~~ん。
悩んでも答えが出ず、椛更衣に相談してみると、ハッ!と何か閃みたいにクリッとした丸い目をパッチリ開いて
「じゃ、左大臣の難しい困りごとでも解決してあげれば?
感謝されて『伊予がいないと生きていけない!』って思うかも?」
ふむ!一理あるっ!!
納得!
でも『時平さまの困りごと』って何??
やっぱり一番楽で確実なのは・・・・!
で、時平さまの腹心の、一の従者!竹丸!に文を書いて、聞いてみると返事の文が帰ってきた。
『若殿の最近の困りごとですか?
何か悩んでるみたいで、暗い顔してることは多いですけど、別にこれといって相談されてませんね~~~~!
あっ!でも数日前、堀河に帰った時、北の方・廉子さまとこんな会話がありました。
若殿の着替えを手伝いながら廉子さまが機嫌をうかがうように
「ねぇ、あなた?わたくしの出来の悪い弟の維時王のことを御存じ?」
若殿が上の空で
「ん?ああ、会話したことはないが、どこかの宴で見かけたことはある。」
廉子さまが遠慮がちに
「あの子がね、その、賭博で作った借金がかさんでね、わたくしの次の禄(作者注1)を頂くまで、その、我が家の家計から弟に貸してやってもいいかしら?
わたくしと弟の、次の禄を頂戴したらすぐにお返ししますので・・・・。」
恥ずかしそうに目を伏せる。
若殿は眉一つ動かさずに
「維時王どのは、どこだったか国守の息女を娶ったばかりだときいたが、ということは、いい歳なんだろう?
賭博に現を抜かすとは、父君の式部卿宮もご心配が絶えないな。」
廉子さまは険しい表情で
「ご存じのように維時は無官ですので、王禄の他に大した収入はございません。
ですがあの子も老体の父を煩わせるほどの鉄面皮ではなく、父の前ではしっかりした息子を演じたいのです。
だから妻や姉のわたくしに無心いたしますの。
維時を見放すわけにはいかないので、その、借金の全てを返済できる額を貸してやってもよろしいかしら?」
最後は首を傾げ、上目遣いすると、若殿は無表情のまま頷き
「ああ。
よほどの大金でなければ返す必要はない。
だが、次は貸さないと念を押すように。
賭博に狂った者はあればあるほど使ってしまう。
銭を持たないに越したことはない。」
・・・・・ということがありました。
それと、別の日ですが、朝政から帰った若殿が不満そうに口をとがらせブツブツと
「最近、やたらと山城国守から堤修復工事を願い出る上奏が多い。
もし都周辺の『ため池』の堤の損壊を放置し、大雨が降って堤防が決壊すれば、官田の収穫に影響が出る、とまるで脅すような口ぶりだ。
正論だが、おかしいのは件数が多すぎること。
あれほど多数のため池の堤防が同時に損壊するだろうか?
誰かの企みだとしたら、誰が何のために、ため池の堤修復工事をやりたがるのか?」
と呟いて考え込んでました。
う~~~~ん、思い当たるのはこれぐらいですかねぇ~~~。
そういえば姫との仲は順調なんですか?
会話の中で姫のことになると、気まずそうに顔を曇らせ話を逸らすんですけど?
竹丸』
え?
まぁね~~~~~~。
私が一方的に距離を置きたいって言ったのは確かだけど。
でも私だって兄さまの役に立ちたい!
臺与よりも!
実力をみせなきゃ!
愛玩動物みたいに主の愛情だけを頼りにするワケにはいかない!
本心から尊敬してほしいっ!!
というわけで、まずは『都近郊のため池堤防修復工事件数の増加問題』を解決する!と決心した。
のはいいけど・・・・。
まず何から手を付ければいいのかわからず、ため池の堤防修復といえば土木工事?といえば木工寮?・・・・に知り合いはいないし。
宮中などの修理・造営をつかさどるのは修理職だけど、その職員にも知り合いはいないし。
ため池堤防修復工事を上奏した張本人の山城国守に近い役人の『国司』にも『郡司』の中にも、知り合いはいない。
はぁ~~~~~。
どうすればいいの・・・・?
私の周りの何でも知ってそうな博識な人?といえば・・・・・やっぱりあの人?
というわけで忠平さまに文を書いた。
(その2へつづく)
(*作者注1:女王禄:毎年、春と秋とに、または夏と冬とに、朝廷から衣服の資を名目として皇親以下諸臣に支給された禄である。皇親に支給されたものをとくに王禄と呼ぶ。)




