EP500:伊予の物語「一心の呂布(いっしんのりょふ)」その1~伊予、火遊びを後悔する~
【あらすじ:親友だった男友達との危ない火遊びを後悔して反省してる私を、終始ご機嫌に優しく気遣ってくれる時平さまの様子が、いつもと違ってなんとなく変!
私の浮気に気づいて許せなくて、もう女子として見てくれないの?
たった一度の過ちに、人生を狂わされそうになり、気が狂いそうなほど後悔するけど、私は今日も前向きに今後のことを考える!】
今回は一話ずつ毎日0:00~公開します!
よろしくお付き合いお願いいたしますっ!!
空を一面灰色の雲が覆い、シトシトと雨が降り続く。
侘しい冬へと季節の移り変わりを予感させる秋霖の訪れだった。
あれ以来、影男さんから『逢いたい』という文が毎日のように届く。
今ではあの夜のことを後悔してる私はいつも、
『もう逢いたくないです』
とそっけない返事をするのだけど、お構いなしみたい。
そもそも、はしたない姿を見せて、影男さんを誘惑したのは私だし、そのせいでああなったワケだし、悪いのは私。
その状況を作ったのは兄さまだけど。
影男さんを人間的に尊敬してるし、好きだから、一歩間違えればそうなっても仕方がなかったけど、あんな風に誰にでも淫らに反応する女子にはなりたくない。
自分のことを兄さまだけを愛しているから、他の男性には何も感じない、貞操観念?のしっかりした女子なんだ!ってずっと思ってたし、浮気心なんてないと思ってた。
なのに、兄さまじゃなくても、愛する夫じゃなくても、淫らに反応するなら、もう、自分のことを信頼できない。
『誰にでも体を許す女子!』って、そんな風に自分を軽蔑したくないから、影男さんには二度と会いたくない。
何よりも怖いのは、兄さまに嫌われること。
『淫らな欲望に流され誰とでも寝る、不純な、汚らわしい女子』
だと思われて、見下されること。
信用してくれなくなること。
もう愛してくれなくなること。
そんな後悔や不安を椛更衣や茶々にも相談できないまま悶々と日々を過ごしてると、宿直の日になり、兄さまが通ってくることになった。
その夜、私の房で、一週間ぶり?ぐらいに見た兄さまの姿は、ひし形に見える三重襷紋様の濃紺の直衣に冠をつけ、指貫(袴)は浅黄緯白藤の丸紋で扇を手にし、白皙の肌には張り艶がなく、眉根を寄せ、疲労がたまったような表情だった。
久しぶりに会えたのが嬉しくて、
「今夜はお泊りになりますか?それなら、お着換えを手伝いますわ!」
高貴で美丈夫な佇まいに、つい気後れして他人行儀になり、気取った物言いをして、そそくさと直衣を脱ぐのを手伝った。
兄さまも嬉しそうにほほ笑みながら私を見つめ、大人しく着替えると、寝所の畳に座り込み
「面白ことがあったんだ!
竹丸がね、また怪しげな商売に手を出したらしい。
何やら
『あなたも当代随一の貴族になれる!究極の出世指南書!』
なるものを、文章を書くのが上手なある貴族に書かせて、それを五位以下でうまく出世の階段を登れない中流下流の貴族に売りつけるんだそうだ。
内容は、帝はもちろん公卿に取り入るノウハウや、世間にウケる!和歌の読み方、楽器の演奏方法、流行りの曲、仲間との情報交換で時勢を読む方法、毎日続けるべき習慣、上司との対話方法、等々色々面白いことが書いてあった。
『かの左大臣も、若いころはしがない無位無官の貴族だったが、この指南書通りに実行し、トントン拍子に出世街道まっしぐら!
この書の通りに実行すれば必ず左大臣のような一流貴族に出世でき、女子にモテて大金持ちになれる!
一の従者として十年以上務めた私が保証します!』
と大ボラを吹いてた。」
思い出してクスクス笑う。
兄さまが上機嫌なのが嬉しくて、つられてほほ笑み、
「『霊験の水』のねずみ講にも手を出してたし、儲かりそうな商売への嗅覚と行動力は、ホントっ!尊敬するっ!!」
そんな感じで会話が弾んで、いざ寝ようという時がきた。
兄さまが寝所に横になり、腕を伸ばしてくれたので、枕の位置を整え、腕に頸を乗せて横になった。
胸にギュッ!と抱きつき、白檀と体臭の混じった兄さまの匂いを吸い込むと、幸せな気持ちになった。
パンと張ったハリのある胸の筋肉の硬い感触や、衣越しに伝わる体温、鼻孔をくすぐる汗の匂いに、快感への期待に胸が高鳴った。
兄さまの胸を愛おしむようにゆっくりと撫で、指で、手のひらで愛撫し、肩や脇腹、見事に割れた腹筋の感触まで、衣越しにたっぷりと味わった。
同時に兄さまの愛撫を期待する、自分の体の敏感な部分の感覚が鋭くなり、兄さまの体に触れた胸やお腹や腿から貪欲な興奮がジンと快感の痺れを引き起こした。
兄さまの指や唇が、敏感な部分に触れるのを想像するだけで、体の芯が潤み、疼き、快感の予感に鼓動が速くなった。
欲望の高まりに我慢できなくなり、人さし指で兄さまの柔らかい少し湿った唇に触れ、誘うように動かし、唇の奥に指先を挿し込んだ。
「ん・・・・?んんっ・・・何?」
兄さまがムニャムニャと眠そうに言うので、自分のしてることが恥ずかしくなり、慌てて手をひっこめ、大人しく眠ることにした。
体調が悪いのかも?
そういう気分にならないこともあるわよね?!
私だってあるし!
ちょっとがっかりしつつも、いつも淫らな事を考えてる下品な女子!と思われたくないので、欲望をなかったことにして、寝息を立て始めた兄さまの胸にしがみついて
『ちゃんと眠ろう!』
と決心した。
(その2へつづく)