EP496:伊予の物語「辱熱夜の媚薬(じょくねつよのびやく)」その3~伊予、焦りすぎて別次元に達する~
何してるのっっ??!!
「ばっ、・・・」
バカなのっっ??!!
って言おうとした瞬間、腿の内側を滑るように手のひらが動き、愛おしそうに撫でながら、下腹部の敏感な部分に指を潜り込ませた。
びっくりしてると、手が探るように前後に動き、そこに到達し、その敏感な悦楽の源泉を律動的に指で刺激し始めた。
すぐに全身を貫く快感に襲われ、無意識に背が反り、兄さまがもたらす快感の波に突き動かされるように、息を吐くたびにお腹から下腹部がピクッと痙攣する。
「ピチャピチャ」
音を立てられると、こんなにも正直に体が反応していることを思い知らされて、恥ずかしくなる。
私の淫らな姿態を味わい、享楽し、弄ぶように、自在に動かす兄さまの指に合わせて、知らぬ間に腰を前後に揺らし、押し上げられ漏れだすような声が鼻に抜ける。
突き上げる快感と同時に声が漏れ、同時に下腹部がピクッと痙攣する。
兄さまが塞いでた手を、私の口から離すと、
「・・ぅんっ・・っふっ・・んっ・・っふっ・・んっ・・・」
体の振動に合わせて出る、思ったより大きい自分の声に、はっと我に返った。
影男さんが几帳一枚を隔てたところにいる!
もしかして声を聞かれてる?
淫らな喘ぎ声を聞かれた?
他人の存在を忘れて、獣みたいに快楽に溺れてたことにゾッとするほど嫌悪感に襲われた。
恥ずかしすぎていたたまれなくなり、冷水を浴びたように、頭の芯まで冷静になった。
呆然として、ジッと身動きできずにいると、兄さまが低い硬い声で、几帳の向こうへ向かって
「影男、覗いてみればいい。
伊予のアノときの顔を見せてやる。」
「・・・はぁ?
ダメッ!
絶対にイヤッ!!」
って言ったのに、兄さまの愛撫が激しさを増し、快感が強くなる。
我慢しようとしても、腰や、下腹部が、快感の波に勝手に突き動かされてしまう。
衿から手を挿し込まれ、素肌の胸を、周りから先端に向かって円を描くように愛撫される。
胸の先端と下腹部を同じ速さで刺激され、抑えきれない官能の興奮が、全身を震わせながら這い上がった。
それでも、声が出ないように、できるだけ感じていないように、平坦な感情を装っていたのに、ふとした視線の先に、几帳の隙間からこちらを見つめる影男さんと目が合った。
驚いたような、ギラついたような、真剣な眼差し。
私と目が合うと、見てはいけないものを見た時のように、怖気づいたように、視線を落とし、目を逸らした。
ザワッ!とした胸騒ぎと、
チクッ!と胸を刺す痛み。
罪悪感。
好きだと言ってくれる人に対して、私は、酷いことをしてる。
目の前で、他の男性に、いいように扱われ、はしたない姿態を見せている。
あられもない姿を見せている。
最低な行為で、影男さんを、傷つけてる。
申し訳なさでいっぱいになり、何も感じなくなった。
耳元で兄さまが
「どう?
影男に見られるのは?
こんなに恥ずかしい格好を見られて、どう思う?」
囁かれると、惨めさでどうしようもなくなり、全身を切り裂かれたかのような痛みを感じた。
虐げられた屈辱と、兄さまに完全に支配されているという敗北感と絶望が、極限に達し、反動で悔しさと怒りが湧き上がる・・・と思ったのに、そうはならなかった。
そのかわりに頭の奥から「もっと」という声が聞こえた。
「もっと」?
何を「もっと」?
自問する。
「もっと、どうしたいの?」
自分への問い。
答えは
「もっと見てほしい」
だった。
影男さんに、見てほしい。
淫らに、はしたなく、剥きだしにしている、嬌態を、
艶やかに、潤った、もぎたての果実のような、
蜜が滴り、精気が溢れ、溌剌と満ちた、私の肉体を、
「もっと見て、感じて」
そして、私を求めてほしい。
狂おしいほどの、欲望で。
欲情して、貪るように、激しく愛してほしい。
ひとりの男性を、あなたを、虜にしたい。
私の全てに、夢中になって、執着して、永遠に求め続けてほしい。
そう感じてる、と気づいた瞬間、どうしようもなく、興奮した。
男性の欲望を掻き立てたくなった。
雄を誘惑する、盛りの付いた女狐のような、
一度狙い定めた獲物を、逃さないと決めた猟師のような、
真剣な本能で。
煽情的に、被虐的に、はかなげに、悦楽の刺激に反応し、快楽に没頭し、歓楽に耽溺した。
快感の強度が跳ね上がり、下腹部が突っ張るように強張る。
最高到達点に上り詰めると
「か、影男、・・・・さんっ」
思わず呼びかけ、その姿を探した。
私と、兄さまと、影男さん、の三人で、共有したかった。
最高の、絶頂の、その瞬間を。
親密な私たちだけの頂きに達し、雲の上から見おろす絶景を。
高まった緊張の硬い山が崩れ落ちるように溶け、全身に緩みが広がり、力が抜けてぐったりと兄さまにもたれかかった。
影男さんの姿は見えず、とっくに私の房を立ち去っていた。
狂乱の宴は終わり、乱雑な、いつもの、日常空間だけが残った。
兄さまと二人で、添い寝しながら、どれだけ考えても分からない、あの狂騒の意味を尋ねる。
「なぜ、あんなことが平気でできたのかしら?
私っていつの間にか、すっかり淫乱な女子になってしまったの?」
不安でたまらず、兄さまに尋ねると、ボンヤリした表情、今にも眠ってしまいそうな声で
「夏の夜、月、酒、麝香、禁断の恋、どれも全て、人間の本能を呼びさまし、欲望を掻き立てる『媚薬』なのかもしれないな」
と呟いた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
親密さ、承認、尊敬、共感、同情、嫉妬、執着、背徳感、絶望感、敗北感、優越感、被虐感、嗜虐感、他に媚薬となる感情は何があるんでしょうかね?!
まだまだありそうですよねっ?!