EP495:伊予の物語「辱熱夜の媚薬(じょくねつよのびやく)」その2~伊予、もっと焦る焦る~
枕元に置きっぱなしにしてた紙を、兄さまが何気なく手に取った。
灯りをたよりに、紙を開いて、文字に視線を走らせると、一瞬で表情がサッと曇った。
ひそめた眉がピクピク痙攣してる気がする。
慌てて手を伸ばし、兄さまの手からその文をクシャクシャに掴んで奪い取り
「あっ!!これはねっ!そのっ!断りの文を書いて、さっき梢に届けてもらったんだけどねっ!!」
焦って言い訳する。
だって、文には
『今日、烏瓜の咲くころに、逢いにいきます。 影男』
って書いてあるし。
引き続き私は、必死で言い訳を続ける。
「でもっ!梢がねっ!影男さんの居場所が分からないからって、断りの返事を届けられなくてね!どうしようかと思ってて・・・・」
実はさっきまで、雷鳴壺の南廂で影男さんを待ってたんだけど、なかなか来なくて諦めて戻ったところに、『今夜は仕事だから来ないハズ!』の兄さまがやってきた。
完っっ全っに不意打ち!
冷や汗ダバダバっっ!!
パニクってる真っ最中っっ!!
ちなみに私は小袖という下着の上に、単衣を一枚重ね着してウロウロしてる。
焦れば焦るほど疚しさで口数が増え、次々とどーでもいい話題を口に出す
「でも烏瓜なんて宮中に無いのにね~~!
どういう意味かしら?
兄さまは見たことある?
私は昔、屋敷を抜け出して裏山で見たことがあるわっ!
ちょっと、普通の花とは違っててね、ええっと、五芒星?星型の細長い花弁の周りに、糸みたいなのがいっぱい放射状に出てて絡まってて、白紗みたいになってて、見方によってはキレイ?なんだけど、気味悪い?とも見える花なのぉ~~!
ヒトデみたいに得体のしれない生き物が触手を伸ばして茎の先にくっついてるみたい!って思えばゾッとするの!
あとっ、人が網に絡まって囚われて『張りつけ』にされてるみたいにも見えるわ!」
矢継ぎ早に話しかけながら、何事もなかったかのように文箱に文をしまおうとすると、背後に気配を感じたと思ったら
グイッ!!
お腹に腕を回して、後ろ向きのまま引き寄せられた。
兄さまの脚の間に引っ張り込まれ、後ろからギュッ!と抱きしめられ
「今夜ここで影男と逢引きする予定だったってこと?
夫がいない隙を狙って、間男を通わせようとしてたってこと?」
耳元で低い声で鋭く囁く。
は??
え??!!
事実だけをつなぎ合わせて判断すれば、そーゆーことになるけどっっ!!
「ち、違っっ!!
影男さんに断りの返事が届けられなくて、だから、来るかもしれなくてっ、でも、梅壺で立ち話して帰す予定だったしっ・・・・う、浮気とかっ、するつもりは全くなくてっ・・・」
ふぅ~~~~~~っ。
大きくため息をつき、チッ!と不機嫌そうに舌打ちした兄さまが、耳に唇を寄せ、途切れ途切れに唇で耳に触れ
「悪い子には、どんなお仕置きがいい?」
熱い息を吹きかけながら囁いた。
吐息が耳をくすぐり、ゾクッと興奮が全身に広がり、ジンと敏感な部分が疼いた。
そのとき、几帳の向こう側の、東廂の方から、掠れた低い声で
「伊予さん?私です
影男です
もう寝ましたか?」
ギクッッ!!!!
として思わずビクッ!と肩を震わせ、
ヤバッ!!!
何とかしなきゃっ!!
また暴力沙汰になるっ!!
おそるおそる顔を動かして振り返り、背後から抱きしめてる兄さまと目を合わせようとすると、こめかみに血管を浮かせて、几帳の向こうを睨み付けてる。
不安のあまり怖気づいたけど、気力を振り絞って、大きめの声で几帳に向かって
「あのっ!影男さん?
その、体調が悪くて、もう寝てしまっていてお話もできないの!
だから・・・」
今夜は帰ってくださる?
って言おうとしたのに、その前に、口を手で覆われ、声がくぐもった。
「ごっ・・んっ・・・がっ・っえっ・・・んーっっ!」
モゴモゴとしか言えず、口を覆う兄さまの手を取り除けようと掴むと、
ゴソッ!
もう片方の手が、荒々しく小袖の裾をたくし上げ、腿の付け根が露になった。
はぁ??!!!
(その3へつづく)