EP493:伊予の物語「黎明の贋作(れいめいのがんさく)」その7~伊予、左大臣の三度の恋愛話を聞く~
ちゃんと確認しなくちゃっ!!
「上皇はその子を本当に私だと思ってるの?」
兄さまは上気した顔に、欲望の滾った目をギラギラと輝かせ、それでもフッと一息つき
「いいや。怪しいもんだな。
例の『浄見』は美人ではあったが、本物とは似ても似つかなかった。
上皇はきっと私がどう出るかを試してたんだ。
だから私が
『おめでとうございます。
浄見さまが晴れて上皇の嬪になったと聞き、内密にとのご意向でしたが、居ても立っても居られず、軽忽にも参上いたしました。
浄見さまのご健勝なお姿を拝見し、積年の憂慮も心の重荷もすっかり取れましてございます。
お二人の前途を祝し、共白髪の末までとなられますようお祈りいたします。』
と仰々しく言ってのけると、上皇は悔しそうに歯ぎしりして睨み付け
『いいんだな?わしに隠していることは無いんだな?後悔しても遅いぞっ!!』
とか言ってた。
浄見が本物なら私が焦るとでも思ったんだろうか?
私には既に伊予という愛する女子がいるというのに?」
う~~~ん。
いつまでその子を本物の浄見扱いするの?
だんだんイライラがつのり、尖った声で
「兄さまは私がホントに偽物の浄見でもいいの?十五歳のときに成り代わった女子でもいいの?過去に共通の思い出が何も無くてもいいの?」
兄さまがゆっくりと、私の上にのしかかり、押し倒すと、両腕をついて体を支え、食い入るように見つめながら
「その方が良かった。
それなら幼女ではなく、ちゃんとした大人の女性を愛することができると自分に胸を張れる。」
貪るように唇を奪い、息ができないくらいに激しく口づけを交わした。
唇が離れると兄さまが
「私の生涯で二度目の恋の相手を知ってる?」
ウットリと夢心地で、ウウンと首を振ってこたえると
「上皇の従者で、名は清丸といった。
一目で心惹かれた。
少年だと思っていたが、幼女を愛するよりはまだ『マシ』だと思った。」
清丸?
確か十一歳の頃、『賭弓の儀』で再会したのよね。
私をかばって矢傷を受けた兄さまを、そばに付きっきりで看病したのに、清丸が男装した私だってことに気づいたのは後になってからなの?
案外鈍い?
それまで三年ぐらい会ってなかったから仕方ない?
兄さまはフフッと笑い
「じゃあ三度目の相手は誰だと思う?」
う~~~ん、三度目の恋?
その頃の兄さまは女遊びが激しかったのよね?
手当たり次第に浮名を流してたのよね?
「それならわかった!・・・丹後さん?でしょ?」
兄さまは見とれそうなぐらい艶っぽくほほ笑み
「三度目の相手は、雷鳴壺の新人女房だよ。
伊予が浄見でなければよかったのにと幾度、願ったことか。
少女の浄見に出会わずにもっと早く伊予と出会いたかった。
そうすれば色々な柵にとらわれず、伊予だけを妻にして愛することができた。
今となっては何を言っても無駄だがな。」
心が震えそうなほど甘い言葉と、全身が溶けてしまいそうなほど情熱的な愛撫に、抗いようもなく惑溺した。
二人で醸す豊穣な愛の果実が、濃密で甘美な芳香を放つ。
その美酒に身も心も酔いしれ、夜明けを告げる黎明の空の下で、醒める事のない酔夢に、心ゆくまで耽ったのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コレクターが奢侈品として収集を始めるまでは、陶器と言えば実用か祭祀用しかなかったんですよね!