EP486:伊予の物語「禁断の口付(きんだんのくちづけ)」 その4~伊予、禁断の領域へ踏み込む~
すべすべした白皙の肌に、鋭い線を描く顎。
冠からこぼれた後れ毛が、艶やかな額を無造作に縁取る。
いつも完璧な、一分の隙もない、真っ直ぐに背筋を伸ばした、凛とした佇まいの公達が、心の動揺を隠しきれず、乱れた装いそのままに、不安そうに俯いている様子に、胸が
ギュッ!
と締め付けられた。
愛おしさが体の奥から溢れ、切なさが芯を潤した。
この人を愛してる
という確かな気持ちが胸を満たし、不安を取り除いてあげたい、苦しみを取り去ってあげたい、と思った。
もっと正直に言えば、
今すぐ兄さまに触れられたい
と思った。
白くて長い、骨ばっているのに、繊細に動く、しなやかな指で。
真っ直ぐな鼻梁の、先のとがった鼻や、そのすぐ下にある、肉の薄い、しっとりとした唇で。
奧を見透かして、柔らかい部分を刺し貫くような、潤んだ瞳で。
もっと・・・・・
高揚して、耐えられなくなり、兄さまに近づき、直衣の襟紐をほどこうと手をかけた。
気づいた兄さまが、コクリと頷き、衣を脱ぎ始めたので、私も袿、単、袴を手早く脱ぎ捨てた。
先に小袖姿になった私が、兄さまの袴の腰紐を解いていると、焦ったように
「浄見、愛してる」
言いながら、抱きしめ、唇を奪う。
私は口づけられながら、袴の腰紐を解き、袴を下におろした。
口づけをやめ、二人で床に座ると、向かい合ってお互いの小袖の腰紐を解き、衿を開いて、裸体を露にした。
しっとりとした白い肌の下の、クッキリと盛り上がった、胸やお腹の筋肉の美しさに目を奪われた。
同じように、兄さまが私の顔から下へ、ゆっくりと視線をおろし、興奮したように、潤んだ唇を少し開いた。
筆で描いたような、美しい切れ長な目の中の、漆黒に輝く黒曜石のような瞳が、燃え上がり、熱を帯びた視線を私の裸体に滑らせ、それが通り過ぎるたび、肌を焼かれたように、その部分が敏感に震えた。
見られていると思うと、どうしようもなく恥ずかしく、視線に焼き尽くされそうになる前に、肌を覆い隠したくなった。
胸と下腹部を手で隠そうとすると、その手を掴み、グイッ!と持ち上げた。
「あまり見ないで」
「なぜ?」
呟きながら、覆いかぶさろうとするので、横になり、私の上にある兄さまの胸に触れた。
兄さまは私に口づけながら、下腹部の敏感な部分に指を差し込み、沿うようにして動かした。
ピチャピチャ
小さく何度も動かしたり、大きく動かしたり、軽く触れたり、力を込めて刺激したり、その度に
「・・んっ・・っあっ・・・っダメっ・・・っやん・・」
私のあげる快感の喘ぎ声に合わせて、指を動かす速さや力を調節しているようだった。
唇を胸の先端に這わせ、口に含み、吸われると、奥を貫く快感の強度が跳ね上がる。
無意識に身体が痙攣し、制御できないほど、腰をくねらせた。
それだけで、達しそうになった私は
「入って!兄さま、もう・・・っ」
喘ぎながら、懇願すると、荒げた息で兄さまが
「影男は?ここに触れた?浄見はどう?こんなふうになった?」
身悶え、首を横に振り
「違っ!なってないっ!影男・・さんっ・・にはっ、だんだん・・乾いってっ、痛くってっ・・・!やめた・・のっ!」
「嘘じゃない?」
言いながら、責めるように強さと速さを増すので、そこから突き上げる、ゾクゾクとした興奮が全身を駆け抜け、無意識に背が反り、下腹部の強張りが強くなる。
「う・・んっ!嘘じゃないっ!・・・っあっ・・・っあっ」
頂点に上り詰め、耳が聞こえなくなりそうなぐらい全身の緊張が高まった。
あと一突きで、そこが破れ、全てがあふれだしそうな、崩れ落ちそうな予感がしたとき、
兄さまが動きを止め、開いた私の脚の間に、向かい合うように四つ這いに入ったと思ったら、
え?
次の瞬間、私の腿の間の下腹部ちかくに、兄さまの頭があるのが見えた。
ゾクッ!!
敏感な部分から、はじめての感触と、快感が駆け上がり、全身を震わせた。
一瞬、何が起こったのかわからず、ぼぉっとしてると
ピチャピチャ
という音とともに、兄さまの舌が触れたそこから次々と沸き上がる快感の刺激に耐えられず、ビクビクと痙攣し、強張り、頂点に達すると、張り切った膜が破れるように痺れが頭の中に広がった。
全身に弛緩の波が伝わり、体の奥が別の生き物みたいに収縮と弛緩を繰り返すと、その波が徐々に小さくなった。
全てが終わると、
ハッ!
と我に返り、慌てて体を起こして、兄さまの顔をそこから遠ざけた。
「ダメッ!こんなのはイヤっ!絶対、やめてっ!!汚いのにっ!!」
泣きそうになりながら、水瓶から白湯を器に注いで、兄さまの口に押し当て
「早くっ!口を洗って!うがいしてっ!」
兄さまは上気した惚けた表情で、私にすすめられるまま白湯を口に含んだ。
「口をゆすいで、ここに出してっ!」
別の器を差し出したのに、兄さまは
ゴクッ!
喉を鳴らして白湯を飲み込んだ。
口を拭いながら、まだぼぉっとした表情で
「なぜ?美味しいのに」
ポツリと呟くので、ゾッとするほど恥ずかしくなり、気分が悪くなった。
素早く小袖の衿をかきあわせ、腰紐を結び、膝を抱えて座り込んだ。
顔色が悪くなり黙りこんだ私を見て、兄さまが何事も無かったかのように
「浄見はどこも汚くない。私が平気なのに、なぜ気にする?」
首をブンブンと横に振り
「イヤッ!信じられないっ!!もうやめてっ!二度としないでっ!!次やったら兄さまのこと、嫌いになるっ!!」
過去に、全身を唇で愛撫されたときだって、そこには触れなかった。
自分の指でだって、直に触れたことは無いのに。
清廉で高潔、気高くて尊い、高貴で立派な地位のある方なのにっ!!
下品で野蛮で猥雑な、こんなことするなんてっ!!
信じられないっ!!
思い出すだけで、恥ずかしさと、汚らわしいという気持ちと、情けないという気持ちと、禁断の刺激的な興奮と快感が生じ、それぞれの感情をどう扱えばいいのかわからなくて混乱し、悔しくて、悲しくて、恥ずかしくて、涙が出た。
私の涙を親指で拭い、心配そうに覗きこむ兄さまが
「浄見の全てを知りたいんだ。
全てを味わって、飲み込んで、私だけのものにしたい。
清らかな部分も、穢れた部分も、私には等しく愛おしい、求めてやまない、欲望の対象なんだ。」
ポツリと呟いた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は攻めました・・・がお叱りを受けたら、削除することになります。
悪しからずご了承ください。