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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
485/505

EP485:伊予の物語「禁断の口付(きんだんのくちづけ)」 その3~伊予、無理難題を押し付けられる~

影男(かげお)さんが小さく頷いて立ち上がり


「本気で嫉妬させたということは、やっと対等な恋敵になれたということですか?

フフッ!じゃあ喜ぶべきだな」


兄さまに向かってかすれ声で呟いた。


は??

カッコつけてる場合っっ??

早く逃げてっ!!

もっと殴られるかもっ!!!


ハラハラしつつも影男(かげお)さんの無事にホッとして、ちょっと余裕ができ、心の中でツッコむ。


できるだけ早く兄さまから距離をとろうと、影男(かげお)さんの背中を押し、私の(へや)から追い出した。


立ち去る瞬間、振り向いて私に微笑み


「また来ます」


それを聞いて、立ち尽くしていた兄さまが身じろぎしたように見えたので、


は?また殴られるかもっ!!!


って焦って


「えっと、ここじゃなくて、外でね、昼間にね、会いましょ?」


誤解されないように、親友として、の意味を込めた。


影男(かげお)さんが出ていくと、兄さまが荒々しく


ドスンッッ!


と音を立てて座り込んだ。


まだビクビクしながら、恐る恐る、水瓶から器に白湯を注いで、兄さまに差し出し


「どうぞ」


言い訳しても見苦しいかなと、そのあとは黙ったまま。


兄さまは白皙(はくせき)の肌を赤く染め、こめかみに血管を浮き立たせ、ギラギラと怒りが(たぎ)った鋭い目で私を睨み付けた。


口の端がピクピクと痙攣(けいれん)してる。


フンッ!


と横を向き、白湯を受け取らないので、器をおろした。


無言のまま、チクチクした沈黙が続くので、緊張に耐えられず思わずヘラヘラして


「あの、その、親友でいましょ、って言ったら、最後に口づけして欲しいって言うから、軽く、したのね。

そしたら、捕まえられて、ああなった、というか、・・・・」


でも、今までだってそーゆー場面が何度もあったのに?!

なぜ今頃、これほどまでに激怒するの??!!


それにっ!!

自分だって私に女子(おなご)とむつみ合ってるところを見せつけたくせにっ!!

今までさんざん浮気してたくせにっ!!

あそこまで影男(かげお)さんを責めるなんて、ひどすぎるっ!!

傲慢で利己的すぎるっ!!


一方的に怒りをぶつけられることに、だんだん腹が立ってきて、イラっとして


「兄さまは、私が誰の子供を(はら)んでも自分の子として育てるとか、寛容なこと言ってなかったっけ?

泉丸と恋人ごっこしてる間は、他の恋人を作って見せつけろ!とか?

自分は妻二人に恋人もたくさんいたから、私が他の恋人を持っても構わない、とか?

ホントにそうしたら、激怒して殴るとか、言葉と矛盾してない?」


責めると、兄さまはふぅ~~~~っ!とため息をつき


「これからは、他の女子(おなご)を抱かない。

だから、浄見も他の男に触らせないでくれ。」


静かに言い放った。


「はぁ?そんなことできるわけないでしょ?

廉子(やすこ)様や年子様は?

少なくとも奥様二人は拒否できないでしょ??

それだけでも嘘だってわかるのに、そんな約束、信じられないっ!!」


兄さまは激情を(たぎ)らせた、鋭い眼差しで私を見つめ、


ドンッ!ガサッ!


床を這うようにして、にじり寄り、覆いかぶさるように身体をくっつけ、鼻がくっつきそうな距離で


「なら二人とも離縁する。

浄見だけを妻にして、毎日浄見のところへ帰る。

他の誰も必要ない。」


ビックリして


「ダメッ!そんなことしたら周囲の信頼を失うでしょっ!!

奥様方や子供たちを苦しめるでしょっ!!

二人のご家族にも心配かけるし、お屋敷の使用人も生活できなくなるでしょっ!!

今更バカげたこと言わないでっ!!」


私の顔の隅々を点検するように見つめながら、熱い息を唇に吹きかけ


「私は一の大臣(おとど)だ。

何をしても許される。

私を非難する者は朝廷から追放すればいい。」


はぁ??

あまりにも極端なので、心配になって


「本気で言ってるの?

おかしくなったの??!!

子供たちの幸せは?

幸せになってほしいと思わないの?

我が子を愛せないような無責任な夫は、私だって願い下げよっっ!」


兄さまの顔から血の気が引き、青白くなり、少し冷静になったように見えた。


私に覆いかぶさるのをやめ、床に視線を落とし


「じゃあ、どうすればいい?

どうすれば、影男(かげお)と別れてくれるんだ?」


寂しそうに口を尖らせた。


「は?

別れるも何も、影男(かげお)さんには親友でいてほしいとお願いしたのに!

恋人じゃなくて友達として、これからは付き合ってくださいって言ったのよ?」


ブツブツと


「でも、ヤツは全く同意してないんじゃないのか?

さっきのアレは、完全に・・・・」


言葉を濁した。


ドキッ!!


やっぱり見られてた?


反応したのを、


危なかったのを、


もしかして、見破られてる?


以前は、無意識に受け入れてなかったせいか、触れられて感じたとしても、最後は痛みになってやめてしまった。


だけど、だんだん受け入れて平気になってきたら、って考えると、この先どうなるか、自分でもわからない。


影男(かげお)さんをキッパリ拒絶できるかどうか、ずっと無反応でいられるかどうか、自信がない。


もう試すつもりも無いし。


少なくとも、過去の二回は影男(かげお)さんに敏感な部分に触れられても反応しなかった。


でも、この先は、わからない。


なぜ、反応したりしなかったりするの?


こちらの体調?恋愛感情?気分?


それとも相手の色気?匂い?目に見えない何か?


影男(かげお)さんには途中で冷めたこともあったし、その違いがわからない。


ただ一つ、確実なのは、と考えながら、不安げな表情の兄さまをジッと見つめた。


床に落とした視線を、落ち着かなさそうにさまよわせ、筆で引いたような美しい眉をひそめ、興奮で赤く染まった唇をかみしめてる。

(その4へつづく)

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