EP484:伊予の物語「禁断の口付(きんだんのくちづけ)」 その2~伊予、本格的な修羅場を引き起こす~
へっ??
焦って手をヒラヒラ振りながら
「誤解よっ!!
だって平次兄さまは雑色に変装した時平様のことだものっ!!
幼いころはその姿で会いに来てくれてたの!!」
影男さんの表情から緊張が解け、フッ!と短くため息をついた。
「そうだったんですか。竹丸が『伊予は関白家の雑色の平次と結婚した』と言ったものですから。勘違いしました。」
そうね~~~。
対外的には、そう思わせたかったしね~~。
あっ!そうだっ!いい機会だからちゃんと言っておこう!
思いついて
「あの、あのね、これからは、その、いいお友達でいましょ?」
影男さんはビックリしたように目を見開き、凍り付いたように私を見つめた。
「・・・・・・・」
何も答えないので、沈黙が怖くて、取り繕うように
「ええっと、だから、男の人で気を許せて、何でも話せて、ずっとそばにいてほしいって思えるほど、好きな人はあなたしかいないの!」
「・・・・・・・」
「だからっ、そのっ、男女の仲ってゆーよりも、親友?になってほしいなって、思ってて・・・・」
無言で私を見つめ続けた影男さんの表情から、スッ!と驚きが消え、人間から傀儡になったように無表情になった。
硬い沈黙を破るように、ボソッと
「分かりました。最後に口づけしてくれれば、これからは親友になりましょう。」
は?
口づけ?
親友なのに?
でも、わがまま言ってるのは私の方なので、親友でいてくれるなら、口づけぐらいいいか。
「分かったわ!」
モゾモゾと膝だちして影男さんのところへ近づき、両肩に手を乗せて腰を浮かせると、影男さんは私の顔をマジマジと見つめる。
恥ずかしくなって
「もぅっ!目は閉じてて!」
というと、影男さんが目を閉じたので、ゆっくりと唇を近づけた。
チュッ!
触れるとすぐ唇を離そうとすると、やっぱり、というか、予想通りというか、
グイッ!
鋼のように硬い腕で、ビクともしない強い力で、肩ごと抱きしめられて、締め付けられたまま、唇を押し付けられた。
熱い、太い、窒息しそうなほど、密な舌で、口の中をかき回される。
一つ一つを確かめるように、熱い肉体の一部が私の口の中をさまよい、情熱的に刺激する。
舌に舌を絡め、私の全てを奪おうとするかのように、吸いつくそうとする。
普段の無表情からは想像もできないぐらいの、激しい愛情。
何度も舌で舌をなぶられ、吸われ、狂おしい程の愛情を感じ、頭が痺れ、
「・・・・っっんっ!」
思わず官能の声を漏らした。
影男さんの動きが速度を増し、手が背中を這いまわり、下へ降りる。
片方の手は脇の下へ進み、もう片方は背骨を伝って、お尻へ到達した。
激しく口づけしながら、お尻の丸みを味わうように円を描いて、手が動く。
脇の下の乳房の付け根を指で摘まむように動かすと、そこから快感が広がり
ビクッ!
思わず体が震えた。
敏感になった胸の先端に、影男さんの硬い胸があたり、ジンとした刺激に力が抜けそうになる。
「・・・っふっ・・・っんっ」
吐息が漏れ、これ以上は危険っ!!て、胸を押して、体を引き離そうとした。
グッ!
目一杯、力を入れて、影男さんの身体を押して、引き離すと、トロンとした惚けたような表情で見つめる。
私が
「こんなの・・・親友の口づけじゃないわ」
呟くと
ガタンッッ!!!
目の端で何かが動いたと思ったら、次の瞬間、影男さんの体が後ろに引きずられ、背中から床に投げつけられてた。
黒い人影が、床に仰向けになった影男さんの胸に馬乗りになり、影男さんが顔をあげようとすると、
ガツンッッ!!!
骨と骨がぶつかるような鈍い音がして、拳が顎に振り下ろされていた。
ゴンッ!!
影男さんの頭の後ろが床に打ち付けられた。
口の端から血を滴らせた影男さんが、また顔をあげようとすると、
ゴンッ!!
また鈍い音がして、逆の頬に拳が振り下ろされ、また頭が床にぶつかった。
『これ以上殴られると、影男さんが死んでしまうっっ!!』
あまりにも突然、目の前で乱暴なことが起こっているのについていけず、恐怖で身がすくんで動けなかったけど、そこではじめて我に返って、
ハッ!
として、馬乗りになっている黒い衣の男性の後ろから胸に抱き着き、引きはがそうとした。
白檀の香りが鼻を突き、その男性の正体に気づいたけど、
『乱暴を止めなくちゃ!!』
そのことだけで頭がいっぱいになり、必死になって胸に回した腕に力を込めて、引っ張り
「やめてっ!!影男さんが死んじゃうっっ!!」
無意識に叫んでた。
兄さまは、邪魔する私の腕を引きはがそうと荒々しく掴んだけど、絶対に離さないっ!!と決心してたので、やがて諦めたように、影男さんを殴るのをやめた。
凶暴な力みが抜け、諦めたように緊張を解いたので、兄さまの身体から恐る恐る腕をほどいた。
兄さまがまたがっていた影男さんから立ち上がったのを見て、影男さんの様子を確かめようと、傷口に触れないように注意して顔にそっと触れ
「大丈夫?」
言いながらハッと気づいて、手巾を取り出し、血が出ている口の端を押さえた。
その手巾を掴み自分で血を拭うと影男さんが身を起こしながら
「大丈夫です。少し唇が切れただけです。他は何ともありません」
呟いた。
「ね、もうここにいないほうがいいわっ!!早く・・・」
逃げて!
って口に出そうとしたけど、兄さまを刺激するかも!とためらって口をつぐんだ。
(その3へつづく)