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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
480/505

EP480:伊予の物語「不勝の簪(ふしょうのかんざし)」 その7~伊予、女間者に探りを入れる~

「ええっと、持ってきた文はこっちです。」


元佐(もとすけ)さんが(たもと)を探って文を取り出して見せてくれた。


『藤原元佐(もとすけ)という男は、日ごろから漢籍に熱心に取り組み、年若くして学識豊かな青年です。

将来の朝廷に必ず役立つ人材となるでしょうから、ぜひとも貴卿の門下の末席に加えて、ご指導いただきたいと存じます。資質に疑念がおありなら、試験などで見極めていただければ、彼の才が傑出していることをご判じいただけると存じます。


右大臣菅卿


 藤原時平 謹言』


つまり、入門試験して、合格したら元佐(もとすけ)さんに『菅家廊下』の受講資格を与えてやってくださいって菅原道真様に頼んでるってことね?


でも多分、私が右大臣邸に潜入するから、その見張り?に送り込んだのね。


受付の雑色が


「では、(あるじ)の元にご案内します」


促すと、元佐(もとすけ)さんはコクリと頷いて緊張した顔で雑色の後についていった。


私はガッツポーズして小声で


「がんばってねっ!」


元佐(もとすけ)さんは振り向き、引きつった笑顔で拳をグッ!と握りしめ、ウンと頷いた。


手をヒラヒラ振って、送り出し、『さて!今日のところは帰るかっ!!』


と東門に向かって歩き出すと、


「あの、清丸さん?少しお待ちくださいな。」


(たお)やかな女性の声で引き留められた。


声の主は、あの、泉丸の女間者!催馬楽舞(さいばらまい)の踊り子っ!!で、私が近づきたかった目標人物(ターゲット)っ!!


なので、


ドキッ!


チョット身構えて、微笑みを浮かべ、


「はい、何でしょう?」


余裕のフリをかましてるけど、内心、手の内を探りに来たことを悟られないかとハラハラしてる。


女間者も微笑み返し


「私は菅家で、秘書のような仕事をしております、久美(くみ)と申します。

清丸さんは(あるじ)にこの紅梅殿へ、自由な出入りを許されたでしょう?

ご覧になりたい書もございますでしょうから、さっそく書庫をご案内します。

どうぞ、こちらへ」


え?

もう?

展開速っっ!!


「あっ、ありがとうございます!」


久美(くみ)が歩き出すので慌ててついていく。


東の対には書棚ギチギチに()じ本が並べてあるし、塗籠(ぬりごめ)には巻子本(かんすぼん)の書棚までズラッと並んでる。

西の対へ渡る途中、北の対の廊下を歩いていると、久美(くみ)はクスッ!と(ひそ)かに笑い


「北の対には、正式な北の方がいらっしゃいます。

そこにはあなたが興味を持つような書の(たぐい)はありません。

私たち菅公のお気に入りの側女(そばめ)は西の対の一角に室をつくって寝起きしております。」


そして、思わせぶりな視線を私に走らせ


「清丸さん・・・は、菅公の女子(おなご)になるつもりはないのでしょう?

男装してらっしゃるし?」


えっ??!!

驚きすぎて思わずビクッ!として


「はいっ!そんなつもりは、一切ありませんっ!!」


大声が出た。


その後連れていかれた、西北の対の書棚や塗籠(ぬりごめ)の書庫を見て回る間


ど~~~しよ~~~~!!

どうやって切り出せばいい?

探りを入れるってどーすればいいの?

何て話しかければいいのっ??!!


久美(くみ)が話しかけるたびに相槌(あいづち)はうっても終始、上の空で、悩んでた。


「では、今日はこれで終わりましょう。読みたい書があれば、いつでも尋ねてくださればお探しできると思います。」


久美(くみ)が私と真正面から向き合った時、突然、怪訝な表情になり


「清丸さん・・・と、どこかで会ったことがあるような気がしません?」


ギクッ!!


嘘つくべき?

正直に答えるべき?

ドギマギしつつ


「はいっ!実は、催馬楽舞(さいばらまい)の会場で舞を拝見しました。あと、公卿暗殺のお芝居も。」


久美(くみ)はジィッ!と見つめたあと、あぁっ!と気づいたように


「左大臣の隣に座ってらっしゃった方ね?じゃあ泉丸ともお知り合い?」


「そうですっ!」


と答えて、ハタと慎重になった。


泉丸が上皇の弟君の源香泉さまだと久美(くみ)は知ってるのかしら?

どれぐらいの関係性?

恋人・・・・?ならこっちの味方につけることはできない。

金銭で結ばれてるとか、脅迫を受けてしょうがなく手を貸してるとかなら、私の味方になってくれるかもしれない。


私が『う~~~ん』と考え込んで、難しい顔をしてるのを見て久美(くみ)


「では、私は失礼しますわね。まだ仕事が残ってるものですから。」


話を切り上げ、私も


「ハイッ!いろいろとありがとうっ!」


と答え、ペコッ!と頭を下げて、右大臣邸をあとにした。


左大臣邸に帰り、夕餉を済ませ、自室で漢詩を勉強しながらウトウト舟をこいでると、


「姫っ!私ですっ!」


廊下から竹丸のよく響くいい声が聞こえ、妻戸を開けると入ってきて


若殿(わかとの)からの伝言です。


『夫探しは順調か?

何か私にできることはないか?

明日から竹丸を護衛につけるから、出かける際は(ともな)うように。』


だそうです。

ふわぁ~~~~~!

眠い!!

明日は何時にどこへ出かけるんですか?

命令なので一緒に行きますけどぉ、遠いところは嫌ですよぉ!」


「明日は朝から右大臣邸へ行くわっ!!迎えに来てねっ!」


ん?

竹丸に伝言?


兄さまが姿を見せるつもりがないのに気づいてムカッ!として、口をとがらせ


「いつまで兄さまは怒ってるの?

私が嫁に行くまで会わないつもり?」

(その8へつづく)



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