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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
476/505

EP476:伊予の物語「不勝の簪(ふしょうのかんざし)」 その3~伊予、宮中から里下がりする~

私もつられて、ジワッと涙が(にじ)んで


「う~~~~ん、誰かの妻になっても、たまに遊びに来る、とかはできると思います。

でも、今までのように一緒に過ごすことは、できないと思います。」


自分の言葉にますます悲しみがこみ上げ、たまった涙がこぼれ落ちそう。


チュッ!チュッ!

チュチュチュンッッ!!


庭で忙しそうに(すずめ)が鳴き交わす。


そばについている親(すずめ)に、子(すずめ)が羽をバタバタさせて、餌をねだってる。


見た目や大きさは親とほぼ同じなのに、まだ子供の特権を駆使して、親に甘えてる。


(すずめ)も、そう遠くない将来、親(すずめ)(はな)(ばな)れになければならない。


『別れを恨んでは 鳥にも心を驚かす(恨別鳥驚心)』

(別離を悲しんで鳥の(さえず)りにも心は乱れる。)(*作者注:『春望(しゅんぼう)杜甫(とほ)


という漢詩の一節を思い出した。


翌日、茶々(ちゃちゃ)にもホントのことを話すと、ボロボロ涙を流しながら無言で


ギュッ!!


私を抱きしめ、


「結婚してもいつでも桐壺に会いに来てね!伊予の嫁入り先に私も遊びに行くから!一生のお別れじゃないわよね?!」


だから!『最悪の場合』だけど!?


結婚確定!じゃないけどっ!!


もし、私の考えている作戦が失敗したら、二度と宮中(ここ)に戻ることはできない。


二度と、雷鳴壺で(もみじ)更衣や(こずえ)影男(かげお)さんと過ごすことはできない。


あっ!影男(かげお)さん!


には何て話せばいい??


悩んでるうちに、(こずえ)が雷鳴壺にやってきたので、捕まえて全てを打ち明けた。

この先、護衛してもらうかどうかは悩んだけど、作戦実行中は一人で乗り込むので、護衛は頼まないことにした。


これで影男(かげお)さんにも伝わる!


うん!


いよいよ、明日には、左大臣邸に引っ越す!ことになり、雷鳴壺の自分の(へや)で、日用品や筆記用具・巻子本(かんすぼん)など身の回りの物を(ひつ)に詰めたり、(ひとえ)(うちき)(はかま)などの衣を衣装箱に詰めて、牛車に乗せる準備を整えた。


そして、次の日、左大臣邸に無事、引っ越しを済ませた。


竹丸や綿丸といった、兄さまの一の従者?が牛車から荷物を運び入れてくれた。


以前、私の住まいとして兄さまが与えてくれた東北の対の屋には、この前来たときに見た、泉丸の豪華な衣や荷物は無くなってた。


私はいそいそと、棚に書を並べたり、衣を衣装箱から広げて衣掛(ころもか)けにかけたり、塗籠(ぬりごめ)に置くものと出しておくものを整理したり、手箱や文箱の中身を整理したり、調度品や棚の埃を払ったり、床の雑巾がけをしたり、思いつく限りの整理整頓で、常に手を動かして(いそが)しくしてた。


え?


年子様に挨拶したのかって?


まぁね~~~。それが一番、心の重荷だったりする。


荷物を運び入れたあと、枇杷(びわ)と白湯を(くりや)から調達して食べながら、私が床拭きしてるのを見守ってた竹丸がボソッと


「まずは女主人(あるじ)である、年子様に挨拶するのがフツーじゃないですか?」


ハイハイ。


「拭き掃除してからね~~~。まずは自分が過ごす場所を気持ちよくしたいしっ!!」


手を動かしながら言い訳を口にする。


動きやすいよう、(ひとえ)(うちき)は脱いで、引きずらない長さの(はかま)と、たすき掛けして袖をくくり上げた小袖姿で掃除してると、


スッスッ!!


衣擦れの音がし、巻き上げた御簾越しの廊下に、誰かが現れた気配があった。


「あら、伊予は相変わらずお掃除が好きね?」


落ち着いた大人の女性の声。


ギクッ!


として雑巾を片手に素早く立ち上がり、深くお辞儀しながら


「年子様、ご無沙汰しております。

えっと、掃除を済ませてから、と思いまして、その、先にご挨拶に参りませんで、失礼しました。

あのっ、これから、しばらくまた、お世話になります。」


ドギマギしながら呟いた。


年子様には表向きの話として、『これからここに男性を通わせ、遅くともひと月以内には結婚して出ていく予定であること』を伝えた。


「ですが、それまでにしたいことがありますので、度々屋敷を留守にすると思います。

侍女として働くことができず、申し訳ないと思っています。」


ペコッと頭を下げた。


年子様は手をヒラヒラと振り


「いいのよっ!あなたの労働力なんて、初めから当てにしてないわ。

だけど・・・・」


言い(よど)み、私の真意を見抜こうとするかのように、ジッと見つめられた。


「ま、いいわ。好きになさい。」


ため息のように、吐き出すと、年子様はクルリと背を向けて立ち去った。


 その夜、日中にすべきことを全て済ませ、あとはある方からの返事を待つだけ!という状態になった。


もし、作戦が実行できることになれば、忙しくなるっ!!

今から少しでも知識を蓄えようっ!!


宮中から持って帰った漢詩集を文机に開き、読み進める。


杜甫(とほ)李白(りはく)韓愈(かんゆ)白居易(はくきょい)柳宗元(りゅうそうげん)辺りの唐代詩文を押さえておけば大丈夫。


漢詩の形式(五言・七言、律詩・絶句)とか、対句・押韻の技法、典拠となる故事まで勉強すべき?


ムリ~~~~っっ!!!


頭がパンクしそうっっ!!


少し読み始めた段階で疲れ切って、


ゴロンッ!


手を広げて背中から後ろに倒れて、そのまま寝てしまいたくなった。

だって~~今日は引っ越しで疲れたし~~~!!

もう寝てもいいよね~~~~!!


あっ!でも(あか)りを消さなきゃっ!!


モゾモゾ起き上がると、妻戸越しに、低い声がした。


「伊予、私だ。入っていい?」


ドキッ!!!


期待してなかったと言えば、嘘になる。

(その4へつづく)

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