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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
474/505

EP474:伊予の物語「不勝の簪(ふしょうのかんざし)」 その1~伊予、秘密の逢瀬が明るみになる~

【あらすじ:時平様の浮気に怒った高貴な麗人の恋人は、私がある条件をのまなければ、過去の悪事を暴露し時平様を失脚させると宣言した。自分のせいで他人に迷惑がかかることほど、耐えられない罪悪は無い!と内向き思考な私は、その条件を了承してしまった。何よりも大事な人でも、いつも同じ感情を共有できるワケじゃない!ことに気づいた私は、二人の未来を守るために、身を呈して反撃にでる!】

今回は一話ずつ毎日0:00~公開します!

全何話?かはまだ未定でございます!

よろしくお付き合いお願いいたしますっ!!

最後まで書ききれるかな?不安ですが。

「もう行かなくては!

泉丸に怪しまれるかもしれない」


呟いて、兄さまが私の腰から腕をほどくと


キィッッ!


音がして、妻戸から明るい光が差し込んだ。


ビクッ!!


思わず体が震え、兄さまは慌てて後ろに数歩下がり、私から距離をとった。


ゆっくりと、大きく開いた戸口に、黒い人影が立っているのが見えた。


逆光の人物を見極めようと、目を細めると、


「・・・・やっぱり、浄見と逢引きしてたんだな」


泉丸のよく透る低い声が、塗籠(ぬりごめ)に響いた。


ハッ!と驚いて、兄さまと顔を見合わす。


どうする?


何て言えばいい?


まるで心の声で会話するように、お互いを見つめ、次の言葉を探った。


『何も言わないように』


と私に指示するかのように、兄さまが首を横に振り、泉丸に向きなおった。

硬い、張り詰めた声で


「示し合わせたんじゃない。

竹丸が枇杷(びわ)を収穫したというから受け取りに来たら、偶然、浄見がいたんだ。」


泉丸がキッ!と(にら)み付けるように(うつむ)くと、金と真珠の連珠(れんじゅ)の耳飾りが揺れ、頬にかかる長い後れ毛に隠れた。


いつにもまして透き通るように美しい、蒼白な頬を(ゆが)め、抑えきれない怒りに唇を(かす)かに震わせ、


「言い訳は結構。

私がいない(すき)をついてその女子(おなご)と逢引きしたという事実だけで十分だ。」


ゴクッ!!!


息をのむ音がし、兄さまが聞き分けの無い幼子に言い聞かせるような、真剣な眼差しで泉丸を見つめ、一語ずつ()()めるように


「たった一度の浮気で私を(とが)めるのか?

お前と一生を(とも)にすると誓ったのに?

私が宮中でも名うての『好色な遊び人の浮気男』だと、知らないはずはないだろ?」


は??

下半身ユルユル宣言?って!

真顔で?

そこまで言う??

恥ずかしくないのっ??!!


でも、もしかしたら


『それならしょ~~がないな~~~!なんせ下半身が(ケダモノ)のクズ男だから~~~!』


って思われて許されるかも??!!


自虐?曝露?にビックリしつつも、いいアイデアかも?

ってヒヤヒヤしながら、様子をうかがう。


泉丸がピクリとも表情を変えず、


「下手な言い訳はやめろ。

お前が幼いころからその女子(おなご)に執着し、その女子(おなご)をあきらめるために自暴自棄になり、手当たり次第に遊んでたことは、身近な人間なら誰にでもわかること。

フンッ!!

『好色』が聞いて(あき)れるっ!

全てをその女子(おなご)に捧げておいて、どのツラ下げて色男を名乗るつもりだっ!」


ドキッ!!


幼いころから??!!


やっぱり、兄さまはずっと・・・!!!


それにしては、私と付き合ってからも有馬さんや丹後さんや臺与(とよ)とも仲良くしてるわよね??


う~~~ん。


私だけを愛してくれてる、と聞いてもまだ、疑惑が残る。

素直に喜べないところが、過去にイロイロあっても仕方がない『年の差恋愛』の難しいところよね~~。


兄さまがゴクッ!とまた息をのみ


「ならどうすると言うんだ?

菅公を失脚させる証拠が手に入るなら、お前と一生を添い遂げると誓ったが、その話も無かったことにするのか?」


泉丸の、白い大理石で作った傀儡(くぐつ)のような完璧に均整の取れた顔に、(ひび)が入ったかのように動揺が走り、険しく眉根を寄せ、チッ!と舌打ちすると


「その女を今すぐ他の男と結婚させろっっ!

お前以外なら、相手は誰でもいいっ!!

二度とお前に会えないように、その男の屋敷に住まわせるんだっ!!

そうでなければ、お前が菅公失脚を画策し、女間者(スパイ)を右大臣邸に潜入させたことを世間に暴露するっっ!」


はぁっっ???!!!

ヤバっっ!!!

そんなことしたら、兄さまが流罪になるっっ!!


でもっっ!!!

それを防ぐためには、結婚っっ??!!

兄さま以外の人とっっ??!!


絶~~~~っっ対っっ!!嫌っっ!!


できるわけないっっ!!!


焦ってると、兄さまがグイッ!と泉丸に詰め寄り、胸倉を掴んで、鼻と鼻が触れ合いそうな距離で睨み付けた。


「わかった、この話は無しだ。

浄見を他の男にやるぐらいなら辞職した方がマシだ。

菅公失脚の画策を世間に曝露したいなら好きにすればいい。

女間者の証言だけで、私を有罪に持ち込めるならな!!

やれるものならやってみろっっ!!!」


脅すように低い声で呟いた。


静かに(すご)むから、興奮してないみたいに見えるけど、声には怒りが(にじ)んでる。


私ならあの距離で兄さまの熱い息を唇に感じたら、頭が真っ白になって思考力を失いそうっっ!!


ドキドキしすぎて呼吸もできなくなりそうっっ!!


泉丸は大丈夫?


チラッと見ると、口をポカンと開き、驚いたように目を見開き、うろたえたように黒目をウロウロと泳がせたと思ったら、みるみるうちに顔が真っ赤になった。


『完璧な美の女神』がうろたえる姿なんて滅多にお目にかかれないっっ!!


チョー貴重な現象っ!!


見逃がす手はないっ!!


動揺する泉丸の様子を食い入るようにマジマジと観察し、真っ赤になって泣き出しそうなのを見て


『美の女神といえども所詮(しょせん)、愛する人の前では健気(けなげ)可憐(かれん)な恋する乙女なのね~~~~!』


って親近感を覚えた。


どーするんだろ??


って興味津々で見守ってると、スッ!と泉丸が視線を落として兄さまから目を逸らし、胸倉をつかむ手をグイッ!と引きはがし、


「そういうつもりなら承知した。

では、朝廷にお前の今までの悪事を暴露する。

菅公失脚のことだけじゃなく、鴨川河川工事費用の公金横領事件を、お前の一存で握りつぶした件や、内舎人の人事を己の意のままにしたこと、臺与(とよ)を使って公卿を取り込もうとしたこともな。」


呟いた泉丸は、既に元の、人間離れした美人オーラを放つ、芙容(ふよう)の花の化身のような、落ち着いたたたずまいだった。

(その2へつづく)

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