表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
472/505

EP472:伊予の物語「黄金の琵琶(おうごんのびわ)」 その4~伊予、枇杷採りの苦労を知る~

忠平(ただひら)様が私から目を逸らさず、瞬きもせず見つめ


「欲しいと願い続けて、やっと手に入ったとしても、外から見るほどいいもんじゃない、ってこと。」


「う~~~ん。それはそうかも!何にしても当事者って大変だものね!

(はた)から見て憧れるのは簡単だけど。

検非違使(けびいし)だって扱うのは面白い事件ばっかりじゃないし!

枇杷(びわ)と言えば・・・・あっ!

ねぇ!忠平(ただひら)様!『黄金の琵琶』って知ってる?」


早口で言い終え、はたと自覚した。


急な話題転換は(あせ)ってる証拠?


だって、思い詰めた雰囲気で見つめられたし、気まずかったから。


忠平(ただひら)様は苛立ったように眉根を寄せたあと、何かに気づいて意地悪そうにニンマリと笑い


「いつでも(すき)あらば、私が伊予を口説くとでも思ったのか?

まぁいい。

(あせ)るってことは、私にもまだ脈はあるってことだな?

ええっと『黄金の琵琶』?

あの正倉にある聖武(しょうむ)天皇の『螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんのごげんびわ)』にも劣らないと言われる、豪華な逸品だな?

確か、上皇の宝物庫で見かけた気がする。

それがどうかしたのか?」


えぇ??

じゃあ上皇(とうさま)平杏仁(たいらのきょうにん)から盗んだの?


平杏仁(たいらのきょうにん)という貴族の屋敷から、一昨日、盗まれたらしいの!!」


忠平(ただひら)様が怪訝(けげん)な顔で


「そんなはずはない。

私が見たのはもう五年以上も前だ。

そのころには上皇の物だったはずだ。」


はぁ??!!

わけがわからないっっ!!

平杏仁(たいらのきょうにん)が嘘を検非違使(けびいし)庁に訴えたの?

なぜ?


う~~~~ん。

でも言う事が二転三転してるし、平杏仁(たいらのきょうにん)が嘘をついてるとしたら、なぜなの?

目的は何?


顎に指を当て考えこんでると、忠平(ただひら)様がもの言いたげな眼差(まなざ)しで、ジッと見つめてるのに気づいた。


(あせ)って


「じゃ、ホントに帰るわね!枇杷(びわ)をありがとっ!!」


クルッと背を向けて歩き出そうとすると、


グイッ!


後ろから腕を掴まれた。


低い硬い、艶やかな声で、キッパリと


「たとえ恋しい女子(おなご)が未熟で期待通りじゃなかったとしても、かまわない。

私は欲しいものに、何度でも手を伸ばし続ける。」


ドキッ!


胸が高鳴る。


「あっ!あのっ!早く帰らないとっ!!迷惑がかかるから、もう行くねっ!!」


掴まれた腕を振り切って、走って枇杷(びわ)の木まで戻った。


木に登って枇杷の実を採りまくる『猿神の化身』から、地に降りて『丸っこい人間の従者』に戻った竹丸が、袖で汗をぬぐいながら


「あれ?姫、枇杷(びわ)を包む風呂敷は?四郎様にもらわなかったんですか?」


あっっ!!!


「すっかり忘れてたっ!どーーしよっっ!!」


私がオロオロ狼狽(うろた)えてる様子に、何かを察したのか竹丸が


「じゃあこれを持って帰っていいですよ!汚れてるけどいいですよね?」


ウンと頷くと、枝につってた布に、私の分の枇杷(びわ)を入れて渡してくれた。


竹丸にもお礼を言って枇杷(びわ)屋敷を後にした。


雷鳴壺に持って帰った枇杷(びわ)は、(もみじ)更衣や桜や有馬さん、後で(こずえ)にもあげると、美味しそうに食べてた。


枇杷(びわ)をひとつずつ剥きながら頬張る(こずえ)の様子をぼぉっと見てると、昼間のことを思い出した。


上皇(とうさま)の宝物庫にあるという平杏仁(たいらのきょうにん)の盗まれた『黄金の琵琶』や、忠平(ただひら)様の真剣な眼差し。


涼やかな目元、鋭い顎の線、薄い桃色の唇、筋の通った鼻梁。


忠平(ただひら)様のことが、私がまだ幼いころの、今よりも若々しい青年だった兄さまの姿に見えた。


今すぐ触れたい。


全身を隅々(すみずみ)まで、兄さまでいっぱいに満たしたい。


匂いで、体温で、体液で、感触で。


逢いたくて、恋しくて、狂おしいほどの焦燥が胸を焦がした。


枕に頭をつけても眠りにつけない、長い夜が、また訪れた。



 次の日、(もみじ)更衣が何気なく


枇杷(びわ)、美味しかったわね~~~!伊予が食べられないのは残念だけど。」


(おっしゃ)るので、もう一度、枇杷(びわ)屋敷を訪れて竹丸に分けてもらう事にした。


って枇杷(びわ)屋敷は忠平(ただひら)様のものだから、『竹丸に分けてもらう』はおかしいよね?


午後、枇杷(びわ)屋敷を訪れると、竹丸がまた木に登って枇杷(びわ)を採ってる最中だった。


私に気づいて竹丸が


「今度こそ主殿で風呂敷をもらって来てくださいっ!!

母屋にいなければ塗籠(ぬりごめ)で寝てるかもしれませんよっ!!」


はぁ???

また忠平(ただひら)様がいるの?

暇なの?

仕事は?


チョット警戒しつつ、主殿に渡り、御簾を押して入った。


できれば会わずに帰りたかったので、自分で風呂敷を探すことにした。


母屋を見渡しても見当たらない。

棚を物色したり、手箱を開けてみたりしたけど、それらしいものはない。


どこに置いてるのかしら?


塗籠(ぬりごめ)??


真っ暗だし怖いけど、戸をあけっぱなしにすれば中が見えるかも!!


塗籠(ぬりごめ)の妻戸に近づいて、大きくあけ放ち、中を覗き込んだ。


ん?


大小の(ひつ)や書棚や衣装箱、使わない几帳や衝立、が置いてあるけど・・・。


誰も寝てる気配は無いけど?


もっと奥まで入って探す?


躊躇(ためら)いながら、足を踏み入れ、キョロキョロしてると、


バタンッ!!!


妻戸が勢いよく閉まる音がして、辺りが真っ暗になった。


「えっ!!忠平(ただひら)様っっ??!!いるのっ?!!冗談はやめてっ!!暗くて見えないから危ないでしょっ!!」


叫ぶと、


ギュッ!


腕を掴んで引き寄せられ、


フワッ!


狩衣の硬い胸に抱きしめられた。


はぁっっ???!!!

パニクって胸を押して暴れ、体を引き離そうとした。


「嫌っっ!!やめてっ!!忠平(ただひら)様っっ!!こんなの卑怯よっっ!!」

(その5へつづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ