EP471:伊予の物語「黄金の琵琶(おうごんのびわ)」 その3~伊予、枇杷が最盛期の屋敷を訪れる~
私は
「じゃあ、やっぱり、『黄金の琵琶』の行方を探されたら困る誰かが殺した可能性もあるのね?
でも平杏仁さんの言う事もコロコロ変わって辻褄が合わないし、本当に『黄金の琵琶』と関係があるかどうかも曖昧よね~~!」
狭野方さんは難しそうな顔つきで黙り込んだ。
ちょうど大舎人寮に到着したので
「じゃ、ありがとうっ!!
何か進展があったらまた教えて欲しい・・・ですっ!!
雷鳴壺の伊予宛てに文を書いてねっ!!」
ヒラヒラと手を振ると、狭野方さんも微笑みを浮かべ手を振って別れた。
次の日の午後、椛更衣に許可をもらって、さっそく忠平様の枇杷屋敷を訪れた。
枇杷屋敷の東門を入るとすぐ見える、大きな枇杷の木には、黄金色の枇杷の実が、いたるところに房状に鈴なりになってて、重そうに地面に枝をしならせるほどだった。
枇杷の木は、幹の下の方から上の方へ順々に、長い枝を放射状に伸ばし、その先端に葉と房状の実をつけているので、採るとしたら外から手を伸ばして枝を掴んで実をもぎ取るか、内側から枝に登って枝先に手を伸ばして採るかのどちらか。
私が見たちょうどそのとき、竹丸が丸っこい体で、五尺(1.5m)ぐらいの高さにある太い枝の上に乗って、片手で太い枝を掴んで体を支え、もう片方の手で枝先に手を伸ばして枇杷の実を掴んでもぎ取ってた。
体を動かすのが嫌いなのに、食べ物収穫!ってときは汗をかいて一生懸命頑張ってる!
集中して真剣な表情!!
話しかけたら落ちる?
そんなに高くないから大丈夫だよね?
竹丸は枝に吊り下げた布に、枇杷の実を房ごと、もぎ取っては入れ、もぎ取っては入れ、を繰り返してる。
「竹丸~~~!気を付けてね!!落ちると危ないわよっ!!」
大きい声で呼びかけ、手を振ると、私に気づいた竹丸が
「主殿にいる四郎様から風呂敷をもらってきてください~~~!
姫の分を入れてあげますから~~~!」
さすがに手を振り返さず、両手は枝を掴んだままで答えた。
ふむ!
両手を離して手を振るとか、無謀な事はしないところがエラいっ!!
いつも案内してくれる顔なじみの雑色も、竹丸の登ってる下で収穫後の実を受け取ったり、新しい布を渡したり、作業を補助してるので、ひとりで勝手に中門廊に上がって、スタスタと主殿に渡った。
主殿の御簾を押して入ると、寝転がって書を読んでる、狩衣の男性の姿があった。
ドキッ!!
胸が高鳴る。
そっくりの背格好!
兄さまが寝ころんで書を読んでるみたい。
その男性が、身動きして片肘をついて頭を支え、顔を隠していた書を下におろした。
たった今、私に気づいたって感じで
「あっ!伊予?ホントに来たんだ!
竹丸が呼び出したと言ってたけど。」
忠平様はサッ!と体を起こして胡坐をかいて座り、
「どう?元気?」
微笑みながら話しかける。
無視して枇杷だけもらって帰るのも不作法だし気が引けるので、対面して座り込み
「はい。ありがとうございます。枇杷をもらって帰りますね!椛更衣や桜が喜ぶと思いますので。」
ペコッと頭を下げた。
久しぶりなので、ぎこちない話し方。
忠平様は大げさだな!というふうに手を振り
「礼なんていいって!堅苦しいな~~~~!」
満面の笑みを浮かべるけど、どこか緊張した表情だった。
日に焼けた、浅黒い肌、筆で引いたような眉や切れ長の目、筋の通った鼻梁、美しい形の唇、鋭い顎の線、は肌の色以外は、兄さまそっくり。
逢えなくて、恋しくて、愛おしすぎて、思わずウットリと忠平様を見つめてしまった。
あまりにも夢中で、熱い視線で見つめてるのに気づいて、居心地悪そうにモゾモゾして
「あぁ、表向きは、兄上は香泉さまと付き合ってるんだったな。
長いこと会ってないとか?
伊予とは別れたことになってるんだろ?」
チラッと私の様子をうかがう。
ウンと頷き
「そう。でもずっと無視されてるから、ホントに忘れられてるかも。
泉丸とはお似合いだし。」
忠平様は無理やりおどけるような笑顔を作り
「兄上の代わりをしてやってもいいぞ!
私の顔が好きなんだろ?」
カァッ!
と顔が熱くなり、手で頬を包む。
「はぁっ??!!
お断りですっ!!
じゃあ、枇杷をもらって帰るわねっ!!」
慌てて立ち上がると、忠平様が小さい声でボソボソと
「あ~~~、枇杷?竹丸が頑張って採ってるな。
私も木に登って採ったことがある。
・・・・知ってる?
木に登って中から、茂った葉の外側にある実を見るのと、外から見るのとでは全然違うんだ。」
「どこが違うの?」
「外から見ると、黄金色に熟した実の全体が見えるけど、中から見ると、葉に隠れて実の一部分しか見えない。
だから、必死で手を伸ばして、黄金色に見える実をもぎ取ったとしても、中心部分は未熟な青い実だったりするんだ。」
「ふ~~~ん。難しいのね。」
忠平様が真剣な目で私を見つめ
「権力や恋しい女子もそうじゃないかなと思ってね。」
「どういう意味?」
(その4へつづく)