EP470:伊予の物語「黄金の琵琶(おうごんのびわ)」 その2~伊予、黄金の琵琶の持ち主の不幸を知る~
狭野方さんは頷き
「そう。
事情を聴いてみると、最初、平杏仁さんは
『朝起きたら飾ってあった棚から無くなってたんじゃ!
きっと、年若くして引退した盗賊団の頭目の仕業じゃ!』
と言うから、
『そんな盗賊団がいるんですか?検非違使庁にそんな報告は上がってませんが。
その盗賊団の噂はどこでお聞きになったんですか?
その年若くして引退した頭目とはお知り合いだったんですか?』
と聞くと、平杏仁さんは黙り込んで何かを考えこんでいるようだったが、次に口を開くと
『名は何と言ったか忘れたが、ある教養溢れた若い貴族がおった。
その貴族に「黄金の琵琶」を鑑定に出したことがあったなぁ。
どれくらいの価値があるか教えてくれると思ったんじゃが。
そのときに盗まれたのかもしれん。』
としんみりとした口調で呟いた。
僕は盗賊団の話はどうなった?と疑問に思ったけど、話を合わせて
『その貴族は知り合いですよね?直接、「黄金の琵琶」の行方を尋ねてみましたか?』
というと、平杏仁さんは俯いて、またしばらく黙って考え込んだ。
ずいぶん長い間考え込んだ後、平杏仁さんはハッ!と顔を上げ
『欲深い商人がおった!
奴が仲介して、朝廷での官職を買ってやるという話があった。
だがそれは断念したのだ・・・・・』
呟くと、後は聞こえないぐらい小さな声でブツブツと呟き続けたんだ。
僕はいつまでも付き合うわけにはいかないので、ハッキリさせようと
『平杏仁さん?大丈夫ですか?聞こえますか?盗難届を出しておきますか?』
と大声で呼びかけると、平杏仁さんは呆然とした表情で辺りを見回し
『ここはどこだ?
わしはここで何をしてるんだ?』
『「黄金の琵琶」の盗難届を出しに来たんですよ!出しますか?』
『おおっ!そうじゃった!よろしく頼む!あれは家宝じゃから。一刻も早く取り戻してくれっ!
きっと、あの頭目の仕業じゃっ!!
あいつは根っから悪そうな人相をしとった。
あんな悪人と関わるんじゃなかった!』
と言うから、やっぱり知り合いなんじゃないか!?と思ったけど、聞くとまた長くなりそうだから、そこで切り上げたんだ。」
ん?
言ってることがコロコロ変わる人?
相手をするのは大変そうっ!!
「へぇ~~~~!
で、『黄金の琵琶』の行方は?
見つかったの?」
狭野方さんは眉根を寄せ、難しそうな表情で
「いや。
こんなことになるなら、もっとちゃんと平杏仁さんの話を聞くべきだったと後悔してるんだ。」
ビックリして
「えっ??!!
どういう意味??!!
何があったの?」
狭野方さんはふぅっ!と短く息を吐くと、言いにくそうにゴクッと唾をのみこみ
「実は、今朝、平杏仁さんが塗籠の寝所で死んでるのを、屋敷を訪ねた甥が発見したんだ。」
驚いて思わず大声で
「ええっっ!!!
あっ!
だから典薬寮で薬について調べてたの?」
狭野方さんは硬い表情のまま
「そう。
だけど、平杏仁さんの死にはおかしいところがあるんだ。
平杏仁さんのそばに、ある薬があったんだけど、甥の話では、その薬を常用してた記憶は無いという。
最近、飲み始めたんだろうとの事で、薬包紙に残ったのを持っていって、典薬寮で薬の成分を突き止めてもらったんだ。」
ふむふむ!!
誰かが毒を飲ませたのっっ??!!
不謹慎ながら胸を躍らせ、勢い込んで
「で、その薬は何だったの?毒?」
狭野方さんは険しい顔で
「見てもらった典薬寮の医師の話では附子(トリカブト)の入った附子理中湯の可能性があるけど、附子は毒性が強いため、そのまま生薬として用いることはほとんどなく、修治と呼ばれる弱毒処理が行われるが、それが甘かった可能性があるとのことだった。
もし、平杏仁さんの命を狙ったものがいるなら『黄金の琵琶』が盗難に遭ったことと関係があるかもしれない。」
呟いた。
「じゃあ、殺人事件として調べるの?」
ウウンと首を横に振り
「甥が言うには、平杏仁さんはいつ死んでもおかしくない老人だったから、殺人事件なんて大事にして世間を騒がせたくないと。
新しく飲み始めた薬が合わなかっただけの事故としてくれと。
あと『黄金の琵琶』については、所有してたとは聞いてたが、実際に見たことはなく、盗難届も必要ないとのことだった。」
う~~~~ん。
やけにあっさり引き下がるわね??!!
「その甥って怪しいんじゃないの?
自分が盗んで、騒がれたので平杏仁さんを殺したとか?」
狭野方さんは肩をすくめ
「さぁね?それは無いと思うな。
甥は唯一の親族だから平杏仁さんが死ぬのを大人しく待てば自分のものになるところだったのに、殺すなんて危険を犯すとは思えないけど。
銭に困ってる様子は無かったし。」
ふ~~~~ん。
でも、急に銭が必要になったってことも考えられるし!
「その新しい薬を平杏仁さんが、どこで手に入れたかが問題よね?
それを調べるの?」
「そう、もう調べたんだ。
平杏仁さんの侍女の話では、数日前、高貴な貴族からの使いと思われる、立派な身なりの雑色が、薬と文を届けたらしい。
その文を探したんだが、既に処分したらしく見つからなかった。」
(その3へつづく)




