EP469:伊予の物語「黄金の琵琶(おうごんのびわ)」 その1~伊予、金色の楽器の盗難を知る~
【あらすじ:惜しみなく金で細工を施した、金色に輝く『黄金の琵琶』が盗まれたと検非違使庁に訴えた、高貴な血筋の老貴族は、言ってることが二転三転して矛盾だらけ。
果実の枇杷の収穫に立ち会えば、実をゲットできるとのお誘いでノコノコ屋敷を訪れた私は、暗闇で襲われるハメになるけど、それはそれでアリかも?!
枇杷の実のように、痛みやすい、壊れやすい恋なら、いっそ手放したほうがいい?!って思い始めた私は今日も、甘酸っぱい思い出に浸る!】
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ジメジメと降り続いた雨が止み、雲の晴れ間から青空がのぞく梅雨のある日、竹丸からこんな文が届いた。
『四郎様の「枇杷屋敷」では、枇杷の収穫が始まってます!
私は枇杷屋敷に通い詰めて、枇杷を収穫するつもりですが、沢山採れるので一部を姫に分けてあげてもいいですよ!
この一週間ぐらいはいつでもいいので、枇杷が欲しければ来てください!』
ん??
枇杷??!!
私は昔から枇杷を食べると気分が悪くなることは、長い付き合いの竹丸なら知ってるでしょ?
もしかして忘れてる?
でも、わざわざお誘いの文を書いてくるってことは、もしかして兄さまと秘密裡に逢引きできるってこと?
行くっ!!絶対っっ!!
わ~~~いっっ!!!久しぶりに会えるっっ!!!
テンションが上がりかける、けど、文の続きには
『あっ!言い忘れましたけど、若殿は来ませんよ!
姫と若殿の密会を手引きすると思われてるのか、私も泉丸に行動を見張られてます。
文の内容もバレてるので、姫も気を付けた方がいいですよ~~~!
竹丸』
はぁ~~~~~。
ガッカリ。
やっぱりね~~~~。
でも、椛更衣や桜や梢が食べるかもしれないから、枇杷を分けてもらいに行ってもいいかな?
竹丸に『一週間以内に行きます』って返事を書いた。
その文を大舎人に届けてもらおうと、内裏を出て、大内裏の南東の端にある大舎人寮まで歩いていくことにした。
内裏を南門から出て、朝堂院の東側の道に沿って南下しようと、前を横切る道を渡る。
ふと西方向を見ると灰色の水干・袴・烏帽子姿の若い男性が歩いてくるのが見えた。
目鼻立ちが整った青年で、端が下がりがちの眉の下の切れ長な目を細め、形のいい唇の端を上げ、微笑みながら
「伊予さん!こんなところで会うなんて偶然ですね!」
最近知り合った、検非違使の狭野方さんだった。
元カノに、『浮気・身内暴力するクズ男』というウソを周囲に言いふらされ、なおかつその元カノは浮気三昧という酷い目に遭ってたのに、検非違使の権力を使って元カノに制裁しようとも考えなかった、優しくて気遣いのできる絵に描いたような『いい人』。
思いがけない人に思いがけない場所で会ったことに、テンションが上がり、思わず手を振って
「あっ!!狭野方さんっっ!!
ホント偶然ねっ!!
何かの調査?で大内裏に来てたの?」
狭野方さんが近づいてきてウンと頷き
「ある事件の捜査の一環で、ある薬について詳しく聞くために典薬寮を訪れたんだ。」
ん?
好奇心がムズムズして
「何?何の事件か聞いてもいい?」
上目遣いで見つめ、可愛い子ぶってみる。
狭野方さんは苦笑して
「検非違使には秘密厳守という規則があるのを知ってる?」
懇願するように、つぶらな瞳でジッーーー!っと見つめ続けると、照れたように微笑み
「じゃあ、伊予さんの目的地は?大舎人寮?そこまで送っていく間に、事件について軽く話してあげよう。」
「わ~~~いっ!!ありがとうっ!!行きましょっ!!」
ピョン!
って飛び跳ねるぐらい軽い足取りで歩き始めた。
狭野方さんはこめかみに指を当て、ちょっと考えて
「ええっと、先日、平杏仁という五世王(天皇から五代下った子孫)にあたる、臣籍降下なされた貴族が検非違使庁に盗難被害を訴え出たんだ。
平杏仁さんが言うには盗まれたのは『黄金の琵琶』という、親王であるご先祖様から代々受け継いだ、豪華な琵琶で、何て言ってたかな~~~、確か、
『腹板を木目模様の研出蒔絵(漆器に描かれた文様を、漆で覆って乾燥させた後、炭などで研ぎ出し、金粉などの蒔絵が浮かび上がるようにする技法)とし、覆手は金沃懸地(漆塗りの上に金粉を蒔き、その上にさらに漆を塗って磨き出すことで、光沢のある輝きを表現するもの)に波千鳥を付描し、撥面には満月に萩をあらわす。
満月は銀平文(金や銀、錫、鉛などを薄く延ばした板を模様の形に切って漆塗の上に貼り、さらにその上に漆を塗り埋めた後で、模様部分を研出したり、または小刀などで模様部分の漆だけを剥がし取る技法)、萩は金銀の研出蒔絵。
裏面は梨子地(梨の実の皮に斑点がある、その外観の感じに似せたもの)に銀蒔絵で流水文をあらわす』
物らしい。」
記憶してたことを一気に吐き出したあと、すぅ~~~ふぅ~と大きく深呼吸した。
「すっ!スゴいっ!!情報量だけでも桁外れなお宝ってことが分かる品ね?
そんなものを盗まれたらそりゃあ焦るわよね~~~!」
(その2へつづく)