EP467:伊予の物語「沐猴の木通(もくこうのあけび)」 その6~伊予、寂しさに負けそうになる~
私はウンと頷いて
「もちろん!雷鳴壺の伊予に文を送ってくれれば、都合が合えばまた、ご一緒しましょ!」
左大臣の権力に臆せず、ちゃんと次を誘ってくれるところが良かった。
狭野方さんのそういう、権威とか圧力に屈せず、付き合う人を決めるところに好感を持った。
条件や外面で人を選ばない人?なのに朱実の性格は見抜けなかったのね?
梢も騙されてたし、騙すのが上手い人は上手いんだろうな~~~~!
ちょっと感心!
その夜、一日の女房の仕事を終え、雷鳴壺の自分の房に独りきりになったころ。
ぼんやりしてると、昼間の出来事を何とはなしに思い出した。
兄さまは私の間女の疑惑を晴らして、狭野方さんたちのもめ事にスッキリ決着をつけてくれたけど、あのあと、目が合っても微笑んでくれる事は無かった。
『一切無関係!』の他人を見るような、冷たい視線を投げかけられただけ。
私との関係は終わったと泉丸に納得させなければならないから仕方ないけど。
てか、二人を覗き見してたのがバレてたのね?
・・・でもそう考えれば、間女疑惑から助けてくれただけでもありがたいっ!!!
肯定的に解釈すればそれだけでも幸せ!よねっ?!!
はぁ~~~~~~。
無理やり元気を出そうとしても落ち込むだけ。
ぼぉっとしてると、兄さまと泉丸の口づけしてる場面が目に浮かんだ。
二人とも、『自分たちだけの世界!』って感じで、ウットリと甘い雰囲気で陶酔に浸って、長い間見つめ合ってた。
事情を知らない人が見れば、完っっ全っにっ!!完っっ璧っに!!ただの美形の恋人同士っっ!!
天界の美の女神が地上に降臨し、見染めた地上の美貴公子と甘い時を過ごしてるって感じ!!
結末はきっと、地上の人間が植物か何かに変身して終わるんだよね?(*作者注:アネモネ(アドニス)とかロトス(ドリュオペ)とか月桂樹(ダフネ)とか?ニンフでしたけど!ギリシャ神話ですけど!!)
ついこないだまで、あんな風に甘い時を過ごしてたのは私だったのにっ!!
はぁ~~~~~~。
また大きなため息をついた。
寂しい・・・・
嫉妬で胸が痛い・・・・
抱きしめて欲しい、
兄さまに逢いたい、
誰かにそばにいて欲しい、
そばにいて安心できる人、寄り添ってくれる人、寂しさをわかってくれて、優しく慰めてくれる人、
に一緒にいて欲しい!!
横になって目を閉じ、寂しさをかみしめていると、帷の外から
「伊予さん?もう寝ましたか?」
押し殺して、少し掠れた影男さんの声がした。
ドキッ!
急いで起き上がり、肩からずり落ちた単衣を肩にかけ直して、髪を手で整えた。
焦って上ずった声で
「どうぞっ!影男さん?入ってきてっ!」
少し間があり、几帳の帷をめくって、影男さんが私の房に入ってきた。
真っ暗な闇の中でも、影男さんの戸惑ってるような表情が見えた。
「どうしたの?」
何も話さないので問いかけると、影男さんは困惑したように微笑み
「いえ、この前は、今後、私を房に入れないと言われたのに、今夜はなぜ許されたんだろうと考えてたんです。」
ん?
まぁ、理由は簡単!
私が寂しかったからってだけっ!!
こう聞くとワガママだな~~~~ってつくづく思うけど。
「ワガママに付き合うのが嫌になった?」
上目遣いで甘えるように見つめると、三白眼の瞳が大きく輝き、頬に赤みがさしたように見えた。
え?あざとい?って?
何とでも言ってっっ!!
あざとくて結構っっ!!
寂しさには代えられないっ!!
口をとがらせブツブツと
「ね?添い寝して愚痴を聞いてくれる?」
呟くと、ふぅっと短い溜息をつき、
「分かりました。さぁどうぞ。」
寝転がりながら、腕を伸ばしてくれた。
枕をいい位置に置くと、私もすぐに影男さんのそばにゴロンっ!と寝転がり、その腕に頭を乗せた。
兄さまにするときのように、胸に腕を回してギュゥゥゥゥッ!と抱きついた。
影男さんの匂いっ!!
兄さまの次に落ち着くっっ!!
完っ全っに身代わりにしてるのに、影男さんは意にも介してないように
「どうぞ愚痴ってください。何があったんですか?」
昼間見た兄さまと泉丸の話や、朱実や近戎の話まで全部話した。
「『衣冠沐猴』って言うでしょ?
あれって、『理性と礼儀のある人間のように衣服と冠(帽子)を身につけてはいるが、その本性が大型の猿(沐猴)のように野蛮で品性下劣だってことでしょ?」
影男さんがウンと呟く。
「近戎とか『誰かさん』とか、身の回りにはそんな人ばっかりだな~~って、改めて思った。」
影男さんが不思議そうに
「泉丸と昼間から逢引きしてたから、左大臣は猿呼ばわりされるんですか?」
ウンと大きく頷き
「それに朱実だって、果実の木通みたいに、見た目は紫色のすべすべで高貴な佇まいなのに、中身は黒くてグチャグチャドロドロしてて、あんまり好きになれないわ!」
影男さんがフフフッと軽く笑い、モゾモゾと体を横に向け私と向かい合った。
低い、聞き取れないほど小さなかすれ声で
「あなたの秘密の果実を味わいたい。いいですか?」
三白眼の瞳を漆黒に輝かせ、真剣な目で見つめる。
は???
えっ???!!!
どー―ゆーー意味っっ??!!
焦りまくって、パニクって変なことを口走る
「果実?木通??ってそういえば、アレって、熟して皮が割れると、その、中の種のニュルッとした部分が丸見えになって、あの、そのっ、まるで、女性の、何かに、似てるって言われてるのよね??
ってことは、そのっ、そーーゆーーー意味?ってウソっっ!!」
そんなっっ!!
下品な下ネタ??!!
みたいにっっ!!
ウソでしょ??!!
冷や汗をかくけど、心臓がバクバクするのが止められないっ!!
恥ずかしいっ!!
って気持ちと、
試したらどーーなるの??!!
って気持ちと、
もし別の意味だったら、ただの赤っっ恥っっ!!
って気持ちが錯綜し、入り乱れ、混乱して収拾がつかなくなった。
とは言え、心臓のドキドキだけが正直な気がした。
「影男さん・・・・には、触れられても、イヤじゃない・・・・かも」
呟くと、影男さんの手がモソモソ動き、袴の横の、開いた部分から、何かを探し求めるかのように、中に滑り込んできた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
アケビは皮を食べるんですってね~~!