EP464:伊予の物語「沐猴の木通(もくこうのあけび)」 その3~伊予、内侍司の女儒のクズ彼氏の話を聞く~
狭野方さんの声がわりと大きめだったので、また周囲の視線をチラチラ浴びる。
恥ずかしかったので、早く立ち去りたかったし、お昼休みに会うぐらいは別にいいかなっ?!て思って
「分かりました!じゃあ明日のお昼に、内裏の殷富門で待ち合わせして、それから宴の松原に行きましょう!」
ちょっと遠いけどっ!!
お昼ご飯逢引きの約束を済ませ、そそくさと雷鳴壺へ帰った。
で、ちょっと悩む。
・・・・逢引きしたら、兄さまに悪い?
罪悪感が皆無!ってわけじゃないけど、泉丸に別れたって信じさせるためにも『恋人がいる』フリをした方がいいって言ってたし、逢引きなんて大したことないっ!!
もし、狭野方さんを恋人にしたら?って考えてみた。
そもそも『恋人を作って周囲に見せつけろ』なんて、私が誰とどうしようが兄さまは全然気にしないってこと?
嫉妬も怒りもしないってこと?
心配したり不安になったり凹んだり落ち込んだりしないってこと?
それとも私が兄さま以外の人に本気で恋すると思ってないってこと?
つまり自信の表れ?
『自分よりいい男はその辺にはいない!!!』
っていう大自惚れ?絶対的自信?!!!
まぁね~~~~~。
そーゆー自信満々なところも好きだけど。
でも、影男さんには本気で嫉妬してるってことは、私が影男さんには心を許してるってバレてるのよね?!
う~~~ん。
やっぱり幼いころから私のことを見てるだけのことはある。
性格から好みから癖や機嫌の良し悪しまで、兄さまには何から何まで『知りつくされてる』気がする。
雷鳴壺に戻ると、椛更衣が蘇を召し上がり、半分ほどお残しになったので、私が頂けることになった。
せっかくなので食べたことが無いと言ってた梢に声をかけ一緒に食べることにした。
私の房で匙で小壺から交互に掬いながら口へ運ぶ。
梢は最初こそ
「美味しい~~~!!!感動ですぅ~~~!!蜂蜜が甘すぎますぅ~~~~!!!ひゃぁ~~~~~!!!」
って喜んでたけど、最後は普通に噂話に花を咲かせる。
梢が
「最近、内侍司の女儒で、仲良くなった子がいるんですけどぉ~~~、彼氏がクズ男って話で盛り上がったんです~~~!」
「へぇ~~~~!どんなクズっぷりなの?」
「何かぁ~~その子は、朱実っていう子なんですけどぉ、最近、彼氏が急に別れたいって言うんで、理由を聞いたらしいんですね、」
ウンと相槌。
「そしたら、『お前には愛想が尽きた』ってひと言なんですって!
で、その彼氏が、前から浮気するわ、暴力をふるうわで最っっ低っっ!!のクズ男のくせに、『お前が何度も浮気することに、いい加減ウンザリしてる』とか朱実が悪いみたいに周囲には言いふらしてて、それでも朱実は『別れたくないっ!!』って泣いて頼んだのに、『どうしても別れる』って言い張るから、朱実が『慰謝料くれたら別れてあげる』とか言ってて揉めてるらしいんです~~~!
酷くないですか??そのクズ彼氏っ!!」
「う~~~ん、そうね~~~。それがホントならかなり高水準なクズっぷりね!」
梢が『はらわたが煮えくり返る!』って感じでプンプン湯気を出して
「朱実ってホントにいい子なんですっ!!!
私にもアケビの蔓で編んだ小さい籠とか作ってくれたりして、気の利く、気前のいい、いつもニコニコして美人の、まるで伊予さんみたいに良い人なんですぅ~~~!」
『いつもニコニコ』って褒めてくれてる?んだよね?
『愛想だけは良い人』とかの意味じゃないよね?
「籠?自分でアケビの蔓を編んで作るの?凄いっ!!」
木通って、皮が紫の楕円形の果実で、実の部分がちょっと厚みあがあって、中心にたくさんの黒い種がニュルっとした透明の寒天みたいなものに包まれてて、味が薄~~~~い、ぼんやりした甘味のアレよね?
蔓で籠が作れるんだ!!
梢が
「朱実の父親が竹細工?の職人で、見よう見まねで作ったって言ってました~~~!
仲良くなると誰にでもくれるんです!」
「へぇ~~~~!」
感心してると、梢は怒りが再燃したように口をとがらせ
「マジでムカつく彼氏ですっ!!
そいつっ!検非違使のくせにっ!
他人の規則違反を取り締まる前に自分の常識違反をちゃんと取り締まったほうがいいですよね~~~!」
検非違使??
そういえば狭野方さんも検非違使だったよね?
まさかっ!クズ彼氏?・・・・は同僚だよね?
恋人候補とか考える前に、キチンと彼女の有無を確認しなくちゃ!!
次の日の昼、約束通り内裏の殷富門で狭野方さんと落ち合うと、二人で並んで宴の松原方向へ歩き始めた。
私はつい先ほど、内膳司で二人分用意した、昼餉のおにぎりの風呂敷包みを持って準備万端!
並んで歩きながら、どちらから口火を切る?って牽制し合ってると狭野方さんが
「午前中、昨日話した近戎さんの母親のところへ詳しい話を聞きに行ったんだ。」
「そうなんだ!どうだったの?なぜ夫を介護しなかったの?」
(その4へつづく)