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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
463/505

EP463:伊予の物語「沐猴の木通(もくこうのあけび)」 その2~伊予、家庭内のドロドロしたゴシップを聞く~

大声を出した後、


あっ!

うるさかった??!!

迷惑かもっ!!


周囲の視線が気になり、恥ずかしくなって声をひそめ


「どうしたんですか?診察ですか?それとも薬を受け取りに?」


狭野方(さのかた)さんは『イタズラ成功!』って感じでニカッ!と大きく口角を上げて笑い


「かの有名な按摩(あんま)師・董林杏(とうりんきょう)の施術を予約してきたんだけど、施術を待つ人が僕の前にまだ数人いるみたいなんだ。」


董林杏(とうりんきょう)さんっ??!!

って、確か女子(おなご)だってことはまだ秘密なんだよね?

少し焦ったけど、あたりさわりのないように


「えぇっっ?!!羨ましいですっ!!私も興味ありますっ!!効果があったら教えて下さいねっ!!

確か、技術が凄いって洛中で評判になって民間の按摩(あんま)師から朝廷の官人になるって異例の登用ですってね?!」


狭野方(さのかた)さんは腑に落ちたように頷き


「そうかぁ~~~、董林杏(とうりんきょう)ほどの腕があっても朝廷の官人になりたいものかなぁ。

やっぱり朝廷の役人は収入が安定してるからなぁ。

でも昨日、相談に来た右弁官(うべんかん)右少史(うしょうし)近戎(きんじゅう)という役人は威張り散らして嫌な感じだった。

自分がこの世で一番偉いと思ってる様子だったよ。」


「え?どんな風に?教えてっっ!!」


悪口(ゴシップ)は『わかるぅ~~~~!!!』って共感できて盛り上がるので前のめりに食いつく。


確か『弁官局は議政官(大臣・大納言・中納言・参議)の下で太政官の実務を担う枢要の部署で、実務を運営したのは左右の大少史であり、特殊技能である算道、文書作成の慣行に関する知識が求められるから専門職としての一体意識が強い』らしい。


つまりその右弁官(うべんかん)右少史(うしょうし)近戎(きんじゅう)さんは、朝廷という役所の事務仕事の専門家(プロ)中の専門家(プロ)


お堅い上に理屈っぽさが(きわ)まってる感じ!?


四角四面な顔つきを想像してると、狭野方(さのかた)さんが内緒話をするみたいに声を落として


「ここだけの話にしてくれる?

巌谷(いわや)さんにも内緒だよ。

検非違使(けびいし)という仕事柄、守秘義務があるからね。」


モチロンっっ!!

(ゴシップ)大好きっ!!

早く教えてっっ!!


ウンウンウンウン!!と何度も頷く。


狭野方(さのかた)さんが真面目な顔つきで


近戎(きんじゅう)さんの訴えは、実の母親から屋敷と財産を取り上げてくれってことだったんだ。」


はぁ?

生みの母親から?

キョトンとして


「なぜなの?」


狭野方(さのかた)さんが眉根を寄せ、不機嫌そうに話し始めた。


「五年前、近戎(きんじゅう)さんの父親が『卒然として邪風に(あた)』った(脳卒中のこと)らしく、それ以降、体が不自由になり、助けが無ければ生活できない体になったそうだ。

だが、母親は介護をロクにせず、昼間は市へ買い物だ観劇だ寺社仏閣参りだと外出して遊びほうけ、病人だから必要無いと父親の食事を一食にし、なおかつ量を減らしたので、父親はやせ細ってついにはひと月前に亡くなってしまったそうだ。

近戎(きんじゅう)さんが言うには『私は父親の背中を見て育った。幼いころから大好きな、尊敬する父親を虐待し、命を奪った母親を絶対に許せない。あいつから全財産を取り上げて牢獄にぶち込み、死ぬほど後悔させたい』らしい。」


なんて(ひど)い母親っ!!

それまでは夫として愛して、一緒に暮らして子供まで産んで育てて、お互いに愛情があったハズでしょ?

なのになぜっ??

介護放棄するなんてっ!!

ムカムカと怒りが湧き、


「それなら近戎(きんじゅう)さんが母親に怒って当然よね!財産を取り上げるのが罰になるのならそうしたいって気持ちもわかるっ!!」


狭野方(さのかた)さんはウンと頷き


「そうだね。だけど、屋敷は母親が遺産として親から受け継いだものだし、荘園からの収入も母親が受け継いだもので、夫の遺産は調度品や書など無きに等しいんだ。

母親が亡くなれば、子は近戎(きんじゅう)さんだけだから屋敷も財産も受け継ぐことになるんだけど、母親が生きてる間は無理なんだ。」


「でも検非違使(けびいし)庁に訴えたということは、母親を夫虐待の罪で有罪にして、投獄?死刑?にして財産を受け取りたいってことね?

でも、そうなると・・・・ホントに夫虐待の事実があったかを確かめないと、財産目当ての訴えで、母親は冤罪(えんざい)の可能性もあるわよね!」


狭野方(さのかた)さんは真剣な表情で頷き


「そう。

近戎(きんじゅう)さんはそう言われると思って念入りに証拠を(そろ)えていた。

使用人には母親が命じた父親の食事の内容を毎日細かく記録させ、それを一年続け、もちろんその使用人に裁きの場で証言もさせるという。

その他にも、母親が何月何日、どこへどのくらいの間、誰と出かけていたかまで記録させたと言うんだ。

それだけじゃなく、母親は動けない父親を時々殴ったり蹴ったりして暴力を加えてたらしい。

使用人にはそれも逐一(ちくいち)記録させていた。」


「う~~~ん。それは立派な証拠になりそうっ!!

一年も毎日記録を付けたってスゴイっっ!!」


感心したけど、『ん??』って何か引っかかった。


そのとき受付の人から


「雷鳴壺の伊予さん~~!()をお待ちの伊予さん~~~!」


と呼ばれたので慌てて立ち上がり、()を受け取ると、戻ってきて狭野方(さのかた)さんに


「じゃあ、もう戻りますね!色々話を聞かせてくれてありがとうございました!

またどこかでお会いできたらいいですねっ!!」


って立ち去ろうとすると、狭野方(さのかた)さんが慌てたように口早(くちばや)


「待ってっ!!

明日はどうですか?

お昼休みに昼餉(ひるげ)を一緒に食べませんか?

宴の松原で!」

(その3へつづく)

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