EP458:伊予の物語「追憶の扶桑樹(ついおくのふそうじゅ)」 その6~伊予、危機的状況に慣れる~
竹丸はせっかちな私の態度に呆れたように『ふぅっ!』とワザとらしくため息をつき(これも兄さまの真似?)、
「では教えてあげましょう!
私の手掛けた事件のひとつなんですがね、約十年前、あれはまだ私が十歳の頃でした。
毎年大晦日の夜、宮中で追儺の儀が行われることは知ってますよね?」
はぁ?竹丸が手掛けた事件?兄さまが、の間違いでしょ?
心の中で密かにツッコミながら、口には出さず黙ってウンと相槌を打つ。
竹丸が続ける。
「その追儺の儀の最中に、内裏の淑景北舎にいたはずの璋那更衣が疫神に攫われて、一緒に宮中から京外へと追い払われてしまったんです!」
真剣な表情で食い入るように私を見つめて言い切った。
はぁ?
まさかっ!!
「疫神?が実在したってこと?
ウソぉ~~~~!!
後宮が嫌になって、儀式で皆の注意がそれた機会で逃げだしたんじゃないの??」
竹丸が目を細め『してやったり顔』で口元を緩め
「ま、そうなんですけどね。
実際は、下総国から方相氏に選ばれて上京した恋人の大男と、璋那更衣が駆け落ちしただけなんですけどね~~~~!(*作者注:連載竹丸『雲隠の追儺(くもいがくりのついな)』にあります!)
世間にバレたら家族に迷惑がかかるのを危惧して、若殿が表向きには疫神に誘拐されたってことにしたんです。」
へぇ~~~~!
そんなことがあったのっ!!
感心してると竹丸が続ける。
「あっ!でもその日は、志茂岳という陰陽師が陰陽寮を解雇にされるのを阻止しようとして、変に小細工したから、事件がややこしくなったんですよね~~~。何したかって?それはですね・・・・・」
自分の思考に集中し、ハッ!として途中で竹丸の話を遮り
「じゃあ、この
『追儺して しょうなき空に 疫神ぞ またも騒げる 春の夕暮れ』
という和歌の意味は
『疫病が流行するという予言』
じゃなくて
『十年前の追儺のときの璋那更衣のように、更衣が再び疫神に誘拐されるだろう』
って言う意味なのっ??!!」
えぇーーーーーっっっ!!
どーーしよーーっっ!!
どーすればいいのっっ?!!
焦りまくってパニック!!!になったけど、少なくとも四人の更衣さま方がこの文を受け取ってる。
犯人は疫神?ってワケないから、疫神のせいにして誰かが更衣を誘拐するってことよね?
一体誰を狙ってるの?
それとも複数人?
それとも無作為に選ぶの??
なぜ??
ハッ!!
突然、頭に『呪いの儀式』の場面が浮かんだ。
痩せ衰えた初老の男性が
「・・・おのれっ!おのれぇぇぇっ!ついに突き止めたぞっ!!
私の力を今こそ見せつけてやるっ!!
十年前の恨みを晴らしてやるっ!!
お前に地獄を見せてやるっ!お前を奈落の底へ突き落してやるっっ!!!私の味わった地獄をぉぉっっ!!!」
って言ってた!
てことは、あの男が更衣さま方のうちの誰かの誘拐を計画してるの?
その更衣さまが十年前、男に地獄のような酷い仕打ちをしたの?
でも、みんなお若いはず。
十年前は十歳にもなってない!
ということは、更衣さまの家族を恨んでるとか?
とにかく椛更衣の身辺警護を厳重にしなくちゃ!
決心して、左大臣邸を去ることにした。
東中門廊を渡るときも、草履をはき庭に降りるときも、門から出るときも、無意識に狩衣姿の男性の姿を探してしまう。
どこかで会えないかな~~!
最後の最後まで、期待しながらソワソワしてる。
竹丸は門までついてくると手を振り
「気を付けて帰ってくださいよ~~~!」
愛想笑いしてるけど、内裏まで送ってくれるつもりはない。
はぁ~~~~~。
ため息をついて凹みつつ、内裏への帰り道をトボトボひとりで歩いてた。
大内裏の入り口、待賢門まであと少しというぐらいのところで、
グィッッ!!
後ろから腕を回され手で口を塞がれた。
はぁ??!!またっ??!!
もう『慣れっこ』になってたので、暴れても無駄だと悟るのも早かった。
大人しくしてると目隠しをされ、猿ぐつわを噛まされ、腕を後ろにまわされて後ろ手に縛られ、牛車に引っ張ってかれて、抱き上げられて乗せられた。
手荒で雑な扱いだから、忠平様じゃなさそう。
ウンザリしながら、牛車に揺られ悪党の巣窟へ到着すると、目隠しを外された。
悪党の顔を見ると、やっぱり、というか、予想通りというか、蓬矢だった。
蓬矢は青白い顔で、いつもの愛想笑いじゃなく、本心から出る会心の笑みを浮かべ
「悪いね、女房殿。もう少し付き合ってくれ。父がお前に話したいことがあるそうなんだ。」
猿ぐつわと後ろ手に縛られたまま、普通の貴族の屋敷の、庭を通って歩かされ、階段を上がって主殿に連れて行かれた。
主殿の母屋に入れられると、夢で見た『呪いの儀式をしてた場所』だと気づいた。
ということは、蓬矢の父が『私』を恨んでるの?
え?
アレ?
『更衣さま方の家族』じゃなく?『私』っ??!!
十年前は六歳だけど??!!
恨まれるようなことした??!!
モヤモヤ疑問で頭がいっぱい!
(その7へつづく)