EP457:伊予の物語「追憶の扶桑樹(ついおくのふそうじゅ)」 その5~竹丸、謎の和歌を解明する~
竹丸からの返事は
「五月x日近辺は他の使用人たちと桑の実狩りに行くのでその日以外なら、相談にのってあげてもいいですよ!
若殿や奧様や色んな人から頼りにされて何かと忙しい身ですけど、来る日を教えてくれれば左大臣邸で待機します。
姫とは昔のよしみがありますし、面倒ですけどしょうがないです。」
と上から目線?でちょっとエラそーでかつ恩着せがましい。
『忙しいアピール』する人ほど実は有能じゃない説があるけど大丈夫?
でも、桑の実?って
小さいツブツブが集まって細長い丸い実になって、はじめは白っぽくてだんだん赤く色づいて、完熟したら紫になるやつ?
食べたことないけど甘酸っぱくて美味しそうっっ!!
桑の葉は蚕が食べて、桑の実は人が食べるのね?
桑って万能っ!!便利っっ!!有益っっ!!
それはそれとして、竹丸でも誰でもいいから、できるだけ早く相談したいっ!!
という事で竹丸に面会の予約の文を送り、明日にでも、左大臣邸に出かけることにした。
・・・兄さまが堀河邸じゃなく、左大臣邸に『偶然』いることを期待しつつ。
翌日、『大納言邸』から『左大臣邸』と呼ばれるようになって以来、初めて、年子様が北の方としてお住まいになるお屋敷を久しぶりに訪れた。
水干・括り袴・束ね髪の少年風従者姿で。
梢は忙しそうだったから声をかけずに出かける。
ま、少しくらい大丈夫でしょっ!
無事、『左大臣邸』に到着し、侍所で待ちくたびれて昼寝してた竹丸を起こすと、寝ぼけた目をこすりながら
「ふわぁ~~~~。やっと来ましたね。うーーーーんっっ!」
伸びをしながら立ち上がりブツブツと呟く。
辺りを見回し、使用人や来客でガヤガヤしてるのを気にして
「ここではゆっくり話せませんね。
姫が以前、使ってた東北の対の屋を使いますか?
『彼』は夜しか来ないから、今は空いてますので。」
ん?
えぇ??
『彼』って・・・?
嫌な予感がしたけど、東北の対へ渡る竹丸に、大人しく黙ってついていく。
まだ兄さまが大納言で、堂々と付き合ってた頃、私に割り当てられてた殿舎は東北の対だった。
その『イロイロな思い出』の詰まった東北の対に、久しぶりに立ち入るっっ!!!
ドキドキしながら御簾を押して中に入ると、パッと見た感じでは屏風や几帳や畳・茵といった調度品や、鏡棚、書棚、文机は私が使ってた時のままだった。
でも、真っ先に目に飛び込んだ衣掛けに掛けられてる衣は、もちろん私のじゃない。
その衣は、黒い高級そうなツヤツヤした絹の狩衣で、銀糸で竜胆唐草の文様が刺繍されてる。
あと、黒光りした漆塗の蓋に金を散らして、螺鈿で龍が模ってある、見た事のない蒔絵螺鈿の手箱もあった。
嫌な予感的中。
『自分の持ち物を恋人の家に置いて目印付け!』って、女子あるあるだけど。
イラっとして口をとがらせ
「ふ~~~~ん。
今は泉丸がここを使ってるのね?
『夜しか来ない』って、夜は毎日ここに来てるの?」
竹丸もちょっと不機嫌そうに口をとがらせ
「いいえ。お互いの屋敷を行き来してるみたいです。
来るのは三日に一度ぐらいですかね、よく知りませんけど。
私だって暇じゃないんですっ!!
いちいち二人の動向を見張ってるわけじゃないしっ!!」
つっけんどんに吐き捨てるので、なんだかんだ、竹丸も泉丸のことまだ少しは気にしてるみたい。
二人ともトゲトゲした雰囲気のまま、私は畳に座り、竹丸は円座に座った。
早速、相談すべく持ってきた文を、袂から取り出して竹丸の目の前に並べ
「この一枚目の文は左大臣から私宛てで、逢瀬の場所?のことが書いてあるのかな?桑畑って?でも意味が分からないの。
で、二枚目の文は、差出人不明で椛更衣宛てなの。
和歌の意味が不吉なんだけど、疫病が流行るのを予言してるの?
どう思う?」
竹丸が文を手に取り交互に眺めながめた。
しばらく黙り込んで、やっと口を開いたと思ったら
「う~~~ん、一枚目の『今すぐ君と桑畑で喜びを分かち合いたい』の意味は分かりませんけど、若殿が書いた文じゃありませんよ!
だって、筆跡が違うじゃないですかっ!
姫だって気づいてるでしょ!
それに私の知る限りでは、最近は、姫に文を書いてる気配は全くありません。」
薄々感づいてた嫌な事をアッサリ言ってのけるので、イラっとしつつ
「ふんっ!何よっ!でも『左大臣から雷鳴壺の女房へと文を預かった』って大舎人が言ったんだものっ!」
竹丸は私を無視して顎に指を添え考えこみ、ブツブツ呟く。
「う~~~ん。二枚目のこの和歌は、何か知ってる気がします。
何だったかなぁ~~~~。
『ついなして しょうなきそらに えのかみぞ ・・・・』?
ん?
追儺、しょうな、疫神、と言えば・・・・
どこかで聞いたことがあるんですけど・・・・
どこだったかなぁ・・・
う~~~ん。
あっ!!そうかっ!」
何か閃いたみたいで突然、竹丸の目がキラキラと輝き出し、頬に赤みがさし、興奮が隠せない様子。
私もつられてドキドキッ!
期待感が高まるっ!!
「えっ!わかったのっ!!スゴイっ!早く教えてっ!!」
竹丸は勿体付けるように、ニヤリと片方の口を歪めて笑う。
ぽっちゃりとした桃色の頬に浮かべた、焦らすような自信満々の笑みにイラついた私は
「もうっ!!兄さまの真似??はいいから早く和歌の意味を教えてっ!!」
(その6へつづく)