EP450:伊予の物語「死出の田長(しでのほととぎす)」 その5~伊予、不吉な妄想をする~
その後、雅楽の演奏が加わり、人の声と笛や篳篥のような管楽器が違う音色で、一斉に歌っているような不思議な感覚が起こり、後半の駆け上がっていく旋律には、その場が一体となった高揚感があった。
同じ曲の二度目が始まろうとするとき、演奏者の後ろの衝立から、四人の舞姫が現れた。
全員、白い水干、白い袴で、裾を引きずっていて動きにくそう。
一見、巫女舞と同じ?とも思えるけれど、泉丸アレンジはテンポが速くて、振付にも変化が多い。
曲は『更衣』や『伊勢の海』や『安名尊 』やその他、有名なのが多かったけど、私が特に面白い!と思ったのは
『妹之門』
かな?
歌は
『妹が門や 夫が門 行き過ぎかねてや 我が行かば 肘笠の 雨もや降らなむ 死出田長 雨宿り 笠宿り 宿りて罷らむ 死出田長』
意味は
『愛しい女子の家の門、愛しい殿方の家の門、何もせず通り過ぎるなんてできない!
にわか雨でも振ってくれないかな?
そうしたら雨宿りを理由に訪ねることができるのに!
ホトトギスも雨宿りしてるみたい。
好きな人と一緒に肘笠に入って、雨宿りしたいわ!ね?そこで鳴いてるホトトギスもそう思うでしょ?』
みたいな感じかな?
完全に独断の意訳だけど!!
『万葉集』の
『妹が門 行き過ぎかねつ 久方の 雨も降らぬか そを由にせむ
(あの娘の家の前、通り過ぎなんてできません。雨でも降ってはくれないでしょうか。そうしたら、それを理由にできるのに。)』
という歌からインスピレーションを得たのね!
ホトトギスを『死出の田長』と呼ぶ理由は、『伊勢物語』の四十三段の話を基にしている。
あらすじは
『親王が女子を所望したという噂を聞きつけて、田植え間近の田舎の女子が
「私も立候補したいなぁイケてると思うし」
ていうと、男が答える。
「お前ぐらいの女は疎ましいぐらい多くいる。
ホトトギスが急かすように鳴いてるだろ?田んぼの労働者の長みたいに。
『死ぬほど忙しい田植え』の季節だ!早くしろっ!!早くしろっ!!夢見てないで働けっ!ってな」』
という話。(*作者注:ウェブ情報を基にした独自の解釈です!)
ホトトギスが田植えの時期に鳴くからって、『死出の田長』って結構怖い名前を付けられてるのがギョッ!とする。
田植えって『死出の旅』を覚悟するほどつらい労働ってことだけど、それにしても、ホトトギスに『死人を迎えに来る鳥』のイメージも湧いてしまう。
『妹之門』を聞いてるうちに、空想に耽った。
私が兄さまの屋敷の前で雨宿りしてると、ホトトギスの声がする。
ふと、声の方向を見ると、路の真ん中に真っ暗な穴が開いている。
そこは黄泉への入り口で、ホトトギスはその穴の上で鳴いている。
私たちを死出の旅へと誘い出しているような気がして、
ゾクッ!
と背筋が寒くなった。
ボンヤリ物思いにふけってるうちに、演目は別の曲になってた。
さっきから気になってたけど、舞姫の一人は動きがぎこちなく、他人の袴の裾を踏んで動きを妨げたり、自分で袴のさばきが甘くて、つまづきそうになったり、ちょいちょい失敗しがち。
容姿はズバ抜けて美人なだけに人目を引くので、失敗も目立つ。
もったいないなぁ~~!
と思ってみてると、演奏と歌が終わるという最後に全員でピタっ!と静止する。
その美女はちょうど兄さまと泉丸の目の前で、手を前に伸ばし、片方の足に重心を乗せてバランスをとり静止した
・・・・はずが、
グラッ!!
バランスを崩し、兄さまの目の前に体の横から崩れ落ち、
ドサッッッ!!!!
腿から床に、強く打ち付けた体を、何とか手をついて支えた。
ジッとして動かないので、
『どこか怪我したの?』
と皆が心配になってきたころ、すぐそばに座ってた兄さまがサッと腰を浮かせ、美女に近づき片膝をついた。
肩に手をのせ顔を覗き込んで、怪我の様子を確かめようとする。
はぁ??
何っっ??
美女だからって行動が素早いっっ!!!
イラっとしてると、その美女が顔を上げると同時に、いつの間にか手に持っていた棒のようなものを、兄さまのお腹に突き立てた。
ハッッ!!!
一瞬のことで、何が起きたのか理解できず、私はただ茫然と口を開けたまま凍り付いた。
兄さまのお腹から赤い液体がポタポタと滴り落ちる・・・・・
かと思ったけど、そうはならず、兄さまは自分のお腹に押し当てられた手と棒を見て
「何の真似だっっ!!」
鋭く言い放った。
(その6へつづく)