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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
448/461

EP448:伊予の物語「死出の田長(しでのほととぎす)」 その3~伊予、久しぶりに時平と話し合う~

私は驚いて、


「えっ??」


影男(かげお)さんがニコッ!と微笑み、手を伸ばし、私の足を引き寄せようと腰を浮かせた。


焦って


「はぁっ??!!えぇっ??!!大丈夫っ!何ともないわっ!」


言い訳すると、影男(かげお)さんが


「さっき新しい草履で()()けたって言ってたでしょう?傷につける薬を持ってますから、塗ってあげます。」


チラッと兄さまの方に視線を走らせる。


そっか、兄さまに見せつければ、本心が分かるかな?


少しためらいつつも、正座してた足を崩して、影男(かげお)さんの方へ伸ばすと、影男(かげお)さんが私の足を持ち上げ、胡坐(あぐら)(もも)に乗せた。


(たもと)から、手のひらにすっぽり収まるほどの大きさの小瓶を取り出し、(ふた)のように詰め込んでた布を小瓶の口からスポッ!と抜いた。


片手で私の足の親指と人さし指の間を広げ、もう片方の手で小瓶をトントン揺すって、中身の粉を振りかけた。


影男(かげお)さんの指が、私の足の指の間に薬を塗り広げるように動き、たまに足の裏にも(かす)かに触れて、くすぐったい。


「ひゃっ!!」


思わず声を出し、足をピクっ!と動かすと、影男(かげお)さんが悪戯(いたずら)を思いついた子供みたいに


「これはどうだっっ!!!」


足を片手でつかんで、もう片方の指先でコチョコチョくすぐる。


「ちょっっ!・・・・ダメッ!!くすぐったいっ!!・・・・やめてっってっ!!」


ジタバタして足を引っ込めようとするけど、なかなか放してくれず、ついには影男(かげお)さんの肩を両手で押して、足を手元から引っこ抜いた。


視線を感じて兄さまの方を見ると、殺気立った表情で影男(かげお)さんを睨み付けている。


顔色も蒼白で、こめかみに血管を浮かせ、口の端をピクピクと痙攣(けいれん)させて、怒りを我慢してるのが手に取るように分かる。


やりすぎたかなぁ~~~??!!


でも、嫉妬してくれてる?

私のことをまだ好き?


それとも軽蔑された?

ちょっと心配。


再び静寂が空間を満たした。


ギッ・・ギッ・・ギッ・・・・・・


一定のリズムの、車輪が(きし)む音と、牛の(ひづめ)が砂利を踏む音。


「泉丸、少し牛車を止めてくれ。外の空気を吸いたい。」


突然、兄さまの低い、硬い、押し殺したような声が車箱に響いた。


泉丸が牛飼童に止めてくれと頼むと、牛車が停まった。


「伊予に話がある。一緒に降りてくれ」


兄さまが言うので、私が先に後ろから降り、草履をはきながら、外で兄さまを待ってる。


次に、影男(かげお)さんも降りようとすると横に並んだ兄さまが影男(かげお)さんの肩を掴んで引き留め


「お前は、ここにいてくれ」


言ったあと、兄さまが中で草履を履いてからヒラリと飛び降りた。


牛車が停まった場所は、二条大路を右京三坊あたり?で南に曲がり、少し進んだところだった。


「少し歩こう」


兄さまがズンズンと北へ向って、先に歩き出したので、『いいのかな?引き返してるけど?』と牛車を気にしながらもついていった。


二人っきりで話せるのは何日ぶり?

かれこれ二週間?かな?


牛車から十()(18.3m)ほど離れて兄さまが立ち止まり、振り向いた。

腕を組んでふぅ~~~っと息を吐いた。


ドクッ!


胸の高鳴りに、


『私、緊張してるっ!!』


って一度気づくと、もう抑えられない。


鼓動が速く打ちすぎて、上手く息が吸えない、吐けない!


兄さまは腕を組んで、(うつむ)いたまま、考え込んでるようだった。


私は兄さまの目の前で、向かい合って、自分の袖の、(しぼ)れるようになってる紐を摘まんで引っ張ったり、(しぼ)った袖の皺を伸ばしたりして、モジモジして手持ち無沙汰を(まぎ)らわしてた。


兄さまが、筆で引いたような、美しい、切れ長な目で、私をジッと見つめ、


「浄見、怒ってるのか?」


はぁ?

思いもかけない、突拍子もない言葉に、唖然(あぜん)として


「はい?どういう意味?怒ってるのは兄さまでしょ?

冷たい態度で、もう私を妻にしない、二度と会わない、近づかないでくれ、関係は終わりだって言ったのは兄さまでしょっ!

どうして私が怒ってると思うのっ??!!」


兄さまは驚いたようにパチパチと瞬きして


「浄見が文をよこさなかったから。

嘘を確かめるための文をよこさなかっただろ?

私の嘘に、本気で腹を立てたのかと思った。」


チラッと牛車の方向を気にしながら、声をひそめ


「泉丸の企みに乗ったふりをした。浄見もそうだろ?茶々(ちゃちゃ)の口車に乗り、私と別れると言ったんだろ?だからお互い承知の上だったはず!なのに・・・・」


兄さまが言い(よど)み、ギロっと怖い顔で目を光らせ


「目の前で影男(かげお)とイチャつくから、我慢できなくなった。本気でヤツを殴りつけるところだった。」


ひぇ~~~~っっ!!!

ヤバっっ!!!

危なかったのねっ??!!

冷や汗っ!


同時に


ドキッ!


として、カッ!と顔が熱くなる。


恥ずかしいっっ!!


ちょっと、冷静になろうっ!!


熱くなった頬を冷やそうと両手を頬に当て


「いつも、あーゆーこと、してもらってるわけじゃないからっ!さっきはたまたま足が痛くなって・・・・」


兄さまが組んだ腕をほどき、


「こっちっ!」


私の手を取ってグイッ!引っ張りながら歩きだした。

(その4へつづく)


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