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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
447/464

EP447:伊予の物語「死出の田長(しでのほととぎす)」 その2~伊予、開始早々先制攻撃を受ける~

 朱雀門の前までくると、網代(あじろ)車が路の端に止めてある。


「きっとあれね!」


影男(かげお)さんに話しかけ、二人で駆け寄った。

後簾の中に向かって


「泉丸?

私です!伊予です。」


牛車の中から泉丸のよく透る低い声で


「あぁ伊予っ!待ってたよっ!!さぁさぁ入って!」


弾んだ息遣いと同時に後簾が巻き上げられ、それを片手で支える泉丸が目の前に現れた。


(しじ)(踏み台)を踏んで、車箱(くるまばこ)の中に、泉丸の横を通って入ると、奥に水干姿の人影があった。


驚いて、ピタッ!と奥に進むのをやめ、そこで固まる。


泉丸が巻き上げた後簾を影男(かげお)さんに渡し、奥に入ってその人影と向かい合って座りながら


「驚いた?時平も誘ったんだ!」


明るい声で言い放った。


水干、括り袴で、烏帽子を被った従者姿の兄さまが、泉丸と対面に座り、眉間にしわを寄せ私をジッと見つめてた。


咄嗟(とっさ)のことで、私も何も言えず、正座したまま(うつむ)いていると、影男(かげお)さんが車箱に入ってきて私の対面に座り後簾をおろした。


泉丸が牛飼童に


「出してくれ!」


と言うと、ゆっくりと牛車が動き出した。


兄さまはまだ何も言わず、今度は泉丸を険しい顔で睨み付けている。


ピン!と張り詰めた空気の沈黙に耐えられず、精一杯の作り笑いを浮かべ、泉丸に向かって


「ねぇ!泉丸!私が枇杷屋敷へ行ったとき、なぜもう寝てたの?

それも、その、えっと、・・・・時平様と?

お邪魔しちゃいけないと思ってすぐに帰っちゃった!」


わざとおどけたように明るい口調で聞く。


兄さまの(まぶた)がピクっと痙攣(けいれん)したように見えた。


泉丸はなんでもないという風に肩をすくめ


「あぁ!悪いことをしたね!あの日は昼から時平と酒を飲んで伊予を待ってたんだ!

今度こそ二人を会わせて話をさせようと思って。

伊予を待つ間、昔話をしてたら盛り上がって酒が進んでね!

時平が寝ると言って先に寝てしまって、私も眠くなって寝てしまったんだ。」


はぁ?

だったらなぜ、私に成りすましたの?

それに寄り添って寝る必要ある??!!

相手が女子(おなご)なら、本人の許可なく隣で寄り添って寝てたら、フツーに強姦未遂か何かの犯罪でしょっ!!


カチン!ときてムッとしながら


「ふぅん。ところで、なぜ、私好みの衣や薫物(たきもの)を身につけてたの?

床に脱ぎ捨ててあったのはあなたが身につけてたからでしょ?」


鋭く言い放つと、泉丸は芙容(ふよう)がゆっくりと花開くかのように、華やかに、妖艶(ようえん)に微笑み、


「あぁ、あれは、伊予への贈り物を試着してみたんだ。

着てみると丈が長すぎるかなって思って、手直ししてから渡そうと思ってたけど、伊予は私が袖を通した衣は嫌だろ?

だから、別の贈り物をすることにした。」


そういうと、(たもと)のなかから小箱を取り出した。

一辺が四寸(12cm)ぐらいの立方体の小箱の、すっぽりとハマった蓋を開け、中身を見せながら


「ほらこれ!琥珀(こはく)だよ!」


小箱の中に、白い絹の布が詰めてあり、そのうえに、澄んだ透明の黒っぽい茶色の小さい卵型の宝石があった。


「わぁっ!!キレイっ!」


思わず、感嘆の声を漏らした。


泉丸が


「綺麗だろ?不純物が少なく透明なものは値が張るけど、私は虫などの不純物が入って、複雑な色合いをしてる方が好きだ。

見ていて飽きないからね。

伊予は純度が高いほうが好きかと思って。」


影男(かげお)さんが小箱を覗き込み


「ウグイスの卵ぐらいの大きさですね。色もちょうどこんな感じですよね」


兄さまが首を伸ばして


「いや、もっと大きいぞ!ホトトギスの卵ぐらいあるんじゃないか?」


私は疑問に思って


「ホトトギスってウグイスに托卵するのよね?我が子を他の鳥に育てさせるのよね?

卵が似てるの?色も?大きさがちょっと違うだけ?

色まで似せてるってことは、育てさせる気満々よねっ!!」


兄さまが思わずプッ!と吹き出し


「そうそう!親ウグイスはやがて自分の何倍もの大きさの子ホトトギスに餌をやる羽目になるんだ!」


影男(かげお)さんも


「ウグイスの寛容さと慈悲心には目を見張るものがありますね!」


泉丸が話を琥珀(こはく)に戻すため?かエヘン!と咳払いし私に小箱を差し出し


「これをお詫びの一部として受け取ってくれ!

これからは、過去の過ちを伊予に(つぐな)うため、誠心誠意(せいしんせいい)(つと)めるから!」


何とな~~く胡散臭(うさんくさ)い言葉っっ!!


「ありがとう。でも、高価なものはこれで終わりにして、あとは態度で示してね!」


薄目の横眼で冷ややかに見つつ、一応、小箱はありがたく受け取った。


その後、話題は途切れ、また沈黙が車箱を満たした。


兄さまはさっきから何か言いたげに、泉丸を見つめてる。

あんまり真剣に見つめ続けているので、


『あの日、ホントは二人の間に何かあったんじゃないの?』


って勘繰(かんぐ)りたくなる。


兄さまは水も(したた)るようなキリッ!としたスッキリ美男子(イケメン)

泉丸は女性と称しても違和感のない、線の細い、可憐な中性的絢爛(ゴージャス)美人。


二人が寄り添って眠る姿は絵的にはとてつもなく、美麗・優美・耽美・甘美!!で、あらゆる美の神がこぞって仲を取り持った恋人同士って感じだったけど、私にとっちゃ単に兄さまを寝盗られただけっっ!!

しかも男性にっっ!!

屈辱感(まけいぬかん)半端(ハンパ)ないっっ!!


歯ぎしりして二人を(にら)んでると、影男(かげお)さんが


「伊予さん。足を出して下さい。傷薬をつけてあげましょう。」


不意に話しかけた。

(その3へつづく)

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