EP444:伊予の物語「絢爛の紅粉青蛾(けんらんのこうふんせいが)」 その4~茶々、失恋する~
そんな泉丸を見てると、どこからどう見ても、テンションの上がった顔も、寂しそうな顔も、目を輝かせても、落ち込んで伏し目がちでも、たとえ逆立ちしたって、美人なんだろうな~~と思わせる何かがある。
身にまとった雰囲気?が既に別次元に優雅っ!!
色とりどりの反物を手に取り、動き回る姿をみて
『自分も含め、美しい物ならなんでも全てが好きなんだろうな~~~』
って思った。
鏡を見る時間が至福の時に違いないっ!!!
そんな感じで、扇、白粉、筆、墨、紙、に至るまで、あちこちの店に立ち寄っては、商品を手に取り、いちいち
「普段、伊予が使うのはどれ??!!教えてっ!!知りたいんだっ!伊予のこと全てをっ!!」
はぁっ??!!
えぇっ??!!
本気でっ??!!
って思うぐらい、細々、熱心に真剣な顔で質問してきて、迫力負けしてそれぞれちゃんと答えてると、気が付くとすっかり日が暮れた。
あちこち歩き回って全員、体力を消耗し、クタクタに疲れ果ててた。
泉丸は用事があるからと市で別れ、影男さん、茶々、私の三人で牛車に乗り、内裏へ帰ることにした。
牛車に揺られながら、茶々はジト~~~っと疑い深い目で私を見て
「伊予~~~~~!??
泉丸って実はあんたのことが好きなんじゃないの??
そうじゃなければあんなに夢中になってあんたのことを知りたがる??!!
あとで贈り物が山のように届くかも~~~!!!
羨ましい~~~っっ!!
ちっっ!!ったくぅっ!!!
なんで伊予ばっかりがモテるのぉ~~~!!!」
ブゥブゥ不満を鳴らす。
影男さんも腕組みし、険しい表情で
「泉丸のあの執心ぶりは異常ですね。
あなたに何らかの執着があるのは確かなようです。
・・・・茶々の言う事も一理あるのか?
余計な恋敵が増えた、ということか?
だが、あなたの命を狙うよりはマシかもしれない。」
はぁ~~~??!!!
そんなことあるわけないでしょっっ!!
昨日まで殺そうとしてた相手に恋するわけないっっ!!
それに肝心な事を忘れてるわよっ!
イラっとして
「それはないわっ!!
泉丸は今まで男性しか好きになったことが無いんですってっ!!」
言ったあと
ハッ!
その場が凍り付き、気づくと茶々が愕然とした表情で固まってた。
慌てて、
「あっ!ごめんっ!茶々は知らなかったのよね?でも、いずれ分かることだからっ!!
気の毒だと思うけど、泉丸が同性愛者だってことは変えられないし、恋しても報われないと思う。」
茶々が暗い顔でギュッと眉根を寄せ、
「過去に女性の恋人が一人もいないの?本人がそう言ったの?絶対に?」
「うん。そうみたい。本人が言ってたもの!女子に興味が持てないって」
茶々が泣き出しそうに、目をウルウルさせ
「そう。それならいいわ。男性が好きならいいわっ!
伊予を好きになるよりマシッ!
近くでイチャつかれないし。
見ないで済むしっ!!傷つかないで済むっっしっっ・・・・っうっうっ・・・」
声をひそめて嗚咽し、顔を手で覆って泣き出した茶々の背中を撫でながら
「そうよ。
私には兄さまがいるから、他の人と浮気なんてしないわ!
泉丸は兄さまのことが好きだったの。
でもあきらめて、私と親友になりたいって文に書いてたの。
だから今日の外出に呼んだの。
茶々が泉丸のこと好きだって気づいてたけど、同性愛のこともいつかは知らせなきゃって思ってたから、ちょうどいい機会だなって思って。」
美男子好きの茶々ならそりゃ一目惚れするわよねっ!!
竹丸だって一時期ハマってたし。
でもねぇ~~~!
泉丸が私にしてきた数々のことが目に浮かぶ。
何度も頸を絞められたっっ!!!
あの身に染みついた腹黒さが、こんなにすぐに治るとは思えないっ!!!
また何か企んでなきゃいいけどっ!!
茶々は牛車に乗って実家に帰る予定だったけど、私たちのために朱雀門まで送ってくれた。
影男さんと私は朱雀門の前で牛車から降り、茶々を乗せた牛車に手を振って別れた。
朱雀門から大内裏へ入り、内裏へ向かって二人並んで歩く。
影男さんがボソッと
「これから、二人で過ごせるところに行きませんか?」
ギクッ!
として焦り、
「あのっだからっ、もう浮気はしないっ!兄さまの妻だからっ!
二人きりで夜を過ごすのは無しっっ!」
上ずった声で答えると、
低い、かすれた声で
「十日近く音沙汰がないんでしょう?
伊予を妻にしないと茶々の前で宣言したなら、本気で別れるつもりなのかも。
あなたも、彼の嫌なところが気になって我慢できなくなった、ちょうどいいんじゃないんですか?
そろそろ潮時でしょう?」
ブンブン首を横に振り
「本気で嫌いになったわけじゃないっ!茶々の口車に乗っただけ!何を企んでるのか知りたかったから」
「善良なあなたに、冷酷非道な左大臣はつりあいません。
彼はこの先もあなたを利用し続け、裏切り続けるでしょう。
その度にあなたは傷つき、悩み、苦しむでしょう。
それでもいいんですか?」
「そ、そうとは限らないでしょっ!!あなたが言うほど酷いことはされてないしっ!!
そうよっ!兄さまはそれほどひどい事なんてしてないっ!!周りの人が悪く言うために無理やりでっちあげたのよっ!!」
影男さんはふぅっとため息をつき
「わかりました。あなたは幼いころから彼に手懐けられ、信じ切ってるんですね。
それを洗脳と言います。
被害者は客観的になれず、加害者を疑う事すらできない。」
(その5へつづく)