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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
443/462

EP443:伊予の物語「絢爛の紅粉青蛾(けんらんのこうふんせいが)」 その3~伊予、気の置けない仲間たちと外出を楽しむ~

 数日後、市までは遠いので、茶々(ちゃちゃ)の実家が出してくれた網代(あじろ)車を朱雀門の前につけて、その中で泉丸と影男(かげお)さんが来るのを待ってた。

茶々(ちゃちゃ)はさっきから


「この前はほんっっとにっ!ごめんねっ!!」


を繰り返してる。


茶々(ちゃちゃ)(いわ)


「『漢文研究会に屋敷を提供する代わりに、伊予を連れてきて、時平への本音を引き出してくれ』って泉丸に頼まれたのね!

誓って左大臣様と泉丸が盗み聞きしてるとは知らなかったのっ!!」


らしい。


嘘だってすぐ見抜いて、兄さまは笑って許してくれるハズだったのに、十日近く音沙汰無しだとは私だって予想もしなかった。

って茶々(ちゃちゃ)愚痴(ぐち)ると、また


「ほんっっとにっっ!!ごめんっ!二人の仲を壊してっ!!」


って謝られるけど、縁起でもないっ!!!


「冗談やめてよっ!!これぐらいのことで別れたりしないわっ!!妻になったばかりなのにっ!!

兄さまも誤解だってわかれば許してくれるし、そろそろ文を書いてみるしっ!!」


まだ書いてないのよねぇ~~~。

どう切り出せばいいのか分からなくて。

早く誤解だって伝えないと、余計こじれる?かな?


後簾(うしろすだれ)の向こうから


「伊予どのと茶々(ちゃちゃ)どのはおられるか?」


影男(かげお)さんの(かす)れた低い声。

茶々(ちゃちゃ)


「はいどうぞ!お乗りになってっ!」


後簾(うしろすだれ)を巻き上げ、影男(かげお)さんとその後ろから泉丸が乗り込んできた。


影男(かげお)さんの高い体温のせいで、身動きするたびに香の混じった汗の匂いが車箱に漂い、そのあと、泉丸の独特の強い香りが混じった。

麝香(じゃこう)?の粉っぽく甘い香り。


二人とも水干を袴に着込め、烏帽子を被ってる。


泉丸は頬に長い後れ毛をたらし、後ろは一つにまとめて、金と真珠の耳飾りが揺れる定番(いつも)のスタイル。


私と茶々(ちゃちゃ)が並んで座り、私の前に向かい合って影男(かげお)さん、茶々(ちゃちゃ)の前には泉丸が、膝が触れ合いそうな距離で座った。


狭い空間で四人!は人口密度が高い!

フツー男女は別の車にのるのが作法(マナー)

でも茶々(ちゃちゃ)は好きな人との距離は近ければ近い程良し!!らしいので、茶々(ちゃちゃ)の『ひと声』でこうなったの?


「東市までお願いねっ!」


茶々(ちゃちゃ)が牛飼童に告げると、牛車が動き出し、沈黙の緊張に耐えかねて、茶々(ちゃちゃ)が口火を切る。


「泉丸っ!お久しぶりねっ!左大臣様と伊予はまだ仲直りしてないらしいのっ!

あなたからも左大臣様に伊予は悪気は無かったって伝えてくださる?」


泉丸は茶々(ちゃちゃ)に無言でウンと頷いたあと、私に向かって、芙容(ふよう)の花が咲いたように(あで)やか微笑みかけ


「伊予!今日はありがとう。友達になることを承諾してくれて!!とても嬉しいよ!

今まで私は君に酷い事をしてきたから、もう二度と許してくれないと思ってた。

時平は一時的に怒ってるだけで、きっと君たちは上手くいくから!

私が悪かったと時平にも謝っておく!!」


うっとりと見とれる茶々(ちゃちゃ)を横目に、私は()めた冷ややかな態度で、泉丸を見返し


「心配していただかなくて結構!自分で説得します!」


と冷たく告げると、再び沈黙が車箱を満たした。


ギッギッギッ・・・・


牛車のきしむ音だけが聞こえる。


泉丸が躊躇(ためら)いながら


「ねぇ、伊予、お詫びに何か贈らせてくれ!

そうだな、扇や、香、(うちき)単衣(ひとえ)、伊予の好きなものを市で選んでくれっ!!

私が買いそろえて雷鳴壺に届けるよっ!!」


茶々(ちゃちゃ)がテンションが上がったように両手を握りしめ


「キャッ!!伊予っ!!素敵っ!!いいじゃないっ!!受け取れば??羨ましいっっ!!」


素直に喜べない私は、疑わしげな上目遣いで泉丸を(にら)


「いりませんっ!受け取る理由なんて無いものっ!」


間髪(かんぱつ)入れず


「今までの罪滅ぼしっ!と言っちゃなんだがっ是非、受け取って欲しいっ!これで私のしたことが消えるわけではないが、せめてもの償いだっ!!」


長い睫毛がバサバサ音を立てるかのような瞬きをし、泉丸が瞳を潤ませて懇願する。

澄んだ綺麗な瞳でジッと見つめられると、居心地が悪くなり、


フンッ!


とソッポを向きながら


「わかったわ!一つだけ受け取るからっ!!

でも、あなたの全てを許したわけじゃないからっ!!

それはこの先のあなたの行動を見て決めるからっ!!」


茶々(ちゃちゃ)は泉丸の過去の悪事を知らないから、ワケが分からないって感じでキョトンとしてた。


その後、東市へ到着すると、私たちは牛車から降り、色々な商品を見回ることになった。


気になったのは、行く先々の店で、泉丸が私にベッタリとくっついてきたこと。

薫物(たきもの)を売る店では


「伊予が好きな香はどれ?甘い安息香(あんそくこう)が強いコレ?それとも神聖な雰囲気がする薫陸(くんろく)が多いやつ?

今使ってる、この匂いは・・・大茴香(だいういきょう)が入ってるのか?

伊予の匂いの配合を教えて欲しいっ!同じものを贈るよっ!!」


とか私に鼻をくっつけて匂いを嗅ぎながら言うから、ビックリして焦って、思わず今、焚き染めてるの薫物(たきもの)の配合を教えた。


反物の店では、次々と反物を手に取り、瞳を輝かせて


「伊予に似合う色は・・・・あっ!薄紅が似合うからこの淡紅の反物はどう?

藤(白~淡紫)か撫子(なでしこ)(白~薄紅~蘇芳(すおう))の(かさね)の色目が合うイメージだなぁ!

えっ?そうなの?やっぱりっっ!!

小袿(こうちぎ)の文様は梅や桜がいい?どんなのを持ってる?教えてくれっ!!」


って、テンション高めで矢継ぎ早に聞いてくるので、圧倒されてついつい全てに答えた。

(その4へつづく)


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