EP440:伊予の物語「春雷の馬芹(しゅんらいのうまぜり)」 その4~伊予、不穏な空気に狼狽する~
茶々はちょっとためらったあと
「実際どうなの?ぶっちゃけ、左大臣様と上手くいってる?この前はイヤなことがあるって言ってたけど?」
「う~~ん。そうねぇ。完全に上手くいってるかと言われると、そうじゃない気がする。」
茶々が食いつくように前のめりになって
「例えば?どんなところがイヤなの?」
「えぇ??!!例えば、こっちの怒りをまともに取り合わずに、うやむやにしようとするところ?とか、私を計略の一部に利用して平気なところとか・・・・」
「へぇ~~~!他には??!!」
ますます目を輝かせて、ウンウンと促すので思わず
「自分が一番偉いっ!って思ってて、傲慢なところとか、私が何でも兄さまの言いなりで、思い通りになる!と思ってるところとか、」
「で?それから?」
「上から目線で、子ども扱いで、対等に話してくれないところとか、色仕掛けでごまかそうとするところとか・・・・」
茶々が同情したように深くうなずきながら
「へぇ~~~~。大変ねぇ~~~!左大臣様ってそんな人だったの!!見る目が変わった!信じられない!
伊予はこのままでいいの?
結婚したって言ってたけど、屋敷で同居したり子供がいるわけじゃないんだから、妻って言っても二人だけの口約束よね?」
グイグイ顔を近づけ同意を迫る。
「うん。まぁ・・・そうだけど」
アレ?
茶々?一体何が言いたいの??
勢いづいた茶々が唾を飛ばしながら
「夫としても、恋人としても、酷くない?
そんな人と生涯添い遂げるつもり?
引き返すならまだ間に合うし、今引き返さないともっとひどい目にあうんじゃない??」
心配そうに眉根を寄せ詰め寄る。
イキナリの兄さま貶しにビックリして
「えぇっ??!!茶々もそう思う?でも・・・」
茶々が大げさに首を横に勢いよくブンブン振り
「いいえっっ!今すぐ別れた方が伊予のためよっ!!
臺与の彼氏の暴漢のこともあるし、色んな所に敵を作って命を狙われてる上に、性格も最悪っ!!とかやってられないでしょっ!!
伊予だって狙われて危ない目に合うかもしれないし、冷酷な無共感人間なんて一緒にいても、全っっ然っ!楽しくないでしょ?!」
茶々が私の腕にしがみつき、ガシガシ揺さぶる。
う~~~ん。
そうだけど、茶々の狙いは何?
別れさせたいの?
でも、なぜ、今?
ずっと前から付き合ってたのは知ってて、今まで何も言わなかったのに?
兄さまのことを愚痴ったのは今回が初めてじゃないし!!
違和感たっぷりなので、敢えて口車に乗ったフリで、ウン!と頷き
「そうね!
そう言われれば!
茶々の言う通り、時平様と別れることにする!
好きだったけど、もう未練はないわ!
愛想が尽きたってゆーか、前から嫌なところが気になって、うっぷんが溜まってたし、そろそろ限界ってゆーか、もう無理かもっ!!
うん。きれいさっぱり、別れることにするっっ!」
どう?これでいい?
満足?
言い終えて茶々の様子をうかがう。
すると、どこからか
「どうだ時平?!今の言葉を聞いたかっっ!!?」
辺りを見回すと母屋と北廂を隔てる御簾と屏風の向こうから声が聞こえたみたい。
男性の動く影が見え、御簾を押して姿を現したのは、泉丸だった。
その後ろから兄さまがついてくる。
二人とも従者のような質素な水干、烏帽子姿。
兄さまは扇で口元を隠し、無表情。
泉丸は嬉しそうにニヤニヤしながら
「伊予の本音を聞いただろ?お前を嫌ってるぞ!陰では悪く言ってたんだ!別れたいって!
そんな女子と結婚するつもりか?
この先何十年も一緒にいられるのか?!」
弾んだ声で兄さまに話しかける。
あっ!!
今、気づいた!
ここは誘拐されて連れてこられた、『呪物の競売』会場、つまり泉丸の屋敷っ!!(*作者注:「断絶の夢路(だんぜつのゆめじ)」にあります)
帰り道は意識があったから、何となく覚えてたけど!!
細かいことはすっかり忘れてた!
ということは、泉丸の企み??!!
まさかっ!茶々が泉丸にそそのかされたの??!!
にわかには信じられず
キッ!
茶々を睨み付けると、ビクッ!と身を縮めて、目を逸らす。
「もしかして、泉丸に丸め込まれたのっ?!恋人を探してるって『比翼連理』に通ってたのねっ!!」
茶々が申し訳なさそうに手を合わせてペロッと舌を出し
「ごめ~~ん!伊予の本音を引き出せって頼まれたのぉ~!」
まさか・・・・兄さま、信じたりしないよね?
こんなに不自然な会話をっ!!
頭から血の気が引き真っ青になった。
私の言葉が嘘って気づいてるよね??!!
大丈夫!って確信がありつつも、不安になり、ドキドキが止まらない。
何とか、言い訳しようと慌てて
「あのっ!に、兄さまっ!・・・・」
泉丸と無表情に見つめ合う兄さまを、訴えるような必死なまなざしで見つめる。
私が続きを口にする前に、兄さまはフッ!とため息をついた。
扇を下げると私の方を向き、目を合わせ、険しい顔で
「伊予の本音は確かに聞いた。
嫌われていることは重々承知した。
伊予の望み通り、妻にするのはやめにする。
金輪際、伊予とは逢わない。伊予も私に近づかないでくれ。
私たちの関係はこれで終わりだ。
じゃあな。今までありがとう。」
言い残すと、クルリと背を向けて、サッサと立ち去った。
はぁっっ??!!
信じたのっ??!!
ウソぉ~~~~っっ!!!
茶々が口に手を当ててオロオロ狼狽え、泉丸が腕を組んでニヤニヤと上機嫌なのを横目に、
私は、ショックのあまり、頭が真っ白になり、全身に力が入らなくなった。
ヘタヘタと両手を床につき、倒れ込みそうになる体を支えると、
絶望で、目の前が真っ暗になった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
タガラシ(田辛子、田枯し、ウマゼリ)は、見た目は可憐ですけど、芥子にもならないし、触るだけで皮膚がかぶれるほどの有毒植物らしいです!




