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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
437/505

EP437:伊予の物語「春雷の馬芹(しゅんらいのうまぜり)」 その1~伊予、春雷に翻弄される~

【あらすじ:轟音と閃光で地中から虫を呼び起こすという春雷。草木を芽吹かせる春の神様と崇められるかもしれないけど、時には人の命を奪うほどの怖ろしい力を持つことには変わりない。濁世の激流に、流されそうで、流されない、私は今日も踏ん張り続ける!】

今は、900年、時の帝は醍醐天皇。

私・浄見にとって『兄さま』こと左大臣・藤原時平(ふじわらときひら)様は、詳しく話せば長くなるけど、幼いころから面倒を見てもらってる優しい兄さまであり、初恋の人。

私が十七歳になった今の二人の関係は、一言で言えば『紆余曲折(うよきょくせつ)』の真っ最中。

原因は私の未熟さだったり、時平さまの独善的な態度だったり、宇多上皇(とうさま)という最大の障壁の存在だったり。

結婚だけが終着点(ゴール)じゃないって重々承知してるけど、今のままじゃ辿(たど)り着けるかどうかも危うい。

 にわかに天が暗くなったと思ったら、ポツリと雨粒が落ちてきた。

ザァッ!と雨音が聞こえるかと思ったら、


ゴロゴロゴロゴロ・・・・


空が唸り声をあげ、ピカッ!と光ったあと


ドーーーーンッ!!


雷鳴が(とどろ)いた。


冬眠していた虫たちが雷鳴に驚いて目覚めるという意味から「虫出しの雷」ともいわれる春雷。


胸の奥底に潜んでいた不満の虫も、春雷に驚いて這い出してきたかのように、次々と疑念や不安が湧きおこり、モヤモヤとした不快感が胸に渦巻(うずま)いた。


色仕掛けに流されて、またうやむやにして、兄さまを許してしまった。


私を計略に利用したことを。


『ちゃんと謝って欲しい!』


とか、


『代償として何かが欲しい!』


とかじゃなく、気が済むまで厳しい態度でいられなかったことが不満!


『私は怒ってるのよ!!』


という態度をとり続けられなかった自分にムカつく!!


そんなにも簡単に、篭絡(ろうらく)されてしまうことに。


触れられただけで、舞い上がって、兄さまの見せてくれる、悦楽の頂点を期待してしまう自分に。


淫靡(いんび)な魔力に絡めとられてしまう意志の弱さに。


いかがわしい快楽に溺れてしまう自分が嫌いだし、それを利用する兄さまにも嫌悪感を抱いた。


そういうとき、どうすれば冷静な自分を取り戻せるの?


触れられる前に、逃げればいいの?

理屈はそうよね?

でも逃げ切れないときはどうすればいいの?


欲望を制御(コントロール)したいのであって、いつもイヤ!ってワケじゃない。

もちろん、それは、その、私だって、素直に、したいっっ!!ってときもあるしっっ!!!!


「伊予っ!?聞いてる??ねぇってっ!!??」


ハッ!


雷鳴壺の私の(へや)で向かい合って座る茶々(ちゃちゃ)が、目の前で手をヒラヒラさせ、ぼ~~っっとした夢想から私を引き戻した。

お使いにきた茶々(ちゃちゃ)を引き留め、二人でおしゃべりしてたんだった!


茶々(ちゃちゃ)扁桃(アーモンド)型の目を細め、ニヤケながら、毛先をクルクル指で回しつつ


「あのね~~~私ね~~~今ね~~~恋人探しぃ~~してるんだけどぉ~~、そこでね、いい人を見つけたのね~~~、で、告白するべき?だと思う??!!」


「えぇ?そうなの?でも、出会ってすぐ告白?はやめた方がいいんじゃない?

その、性格とかちゃんと見極めないと、後悔するかもよ!

私なんて十何年の付き合いだけど、知らなかったこととか予想外のこととかいっぱいあるし。

それでちょっと悩んでるし。」


煩悩?の力がこんなに強いとは思ってもみなかった!

あと、兄さまの魔力っ!!


茶々(ちゃちゃ)が目を丸くして興味津々に


「何っっ??何なの??

左大臣様に変な(クセ)とかあるの?」


『真剣に怒りをぶつけたいのに、色仕掛けに負けて流されて、最後はうやむやに許してしまうのが不満!』


という最近の出来事の経緯(いきさつ)をかいつまんで話した。


茶々(ちゃちゃ)は理解不可能という雰囲気で眉をひそめ、


「ふぅ~~~ん。好きなのに?イヤなの?何が?

・・・・よくわからないけど。」


あっ!!


『男性経験豊富マウント』だと思われたらマズいっっ!!と慌てて話題を変えるべく


「あの、藤原元佐(もとすけ)さんがね、またこんど『漢文研究会』をしましょうって!お誘いがあったわ!

茶々(ちゃちゃ)が気まずいだろうから、只野さんは除いて、影男(かげお)さんを誘おうって話になったの!」


茶々(ちゃちゃ)は思案顔になり、白湯をズズッとすすり、


「そういえば、そんなこともあったわね。

でも元佐(もとすけ)さんの実家って遠くない?牛車を出さなきゃいけないし。

もっと近場でできればいいのにね!

内裏の近くで集まれればいいんだけど・・・・」


そんなおしゃべりをした 数日後のこと。


曇天の午後、雷鳴壺の自分の(へや)で、杜甫(とほ)の漢詩を書写してると、桜が


「伊予、お客様よ。(みなもと)香泉(こうせん)様とおっしゃる方が。」


陰鬱(いんうつ)な灰色の空が、


ゴロゴロゴロ・・・・・


不穏に(うな)った。


はぁっ??!!!

(みなもと)香泉(こうせん)様って、泉丸??!!

何度殺されかけたことかっっ!!

怖くて痛かった苦痛の記憶が、昨日のことのように一瞬で脳裏によみがえり、ブルッ!と身震いする。

どうしよう?

居留守を使う?

でも、人気のないところで襲われるよりは会った方がマシ?

桜にも見られてるし、まさか、宮中で白昼堂々、襲ったりしないだろうけど、警戒しなくちゃ!


弱気になれば付け込まれるかもっ!!

グッ!とお腹に力を入れ、緊張しつつも冷静かつ強気になる。


御簾越しに、桜に


「お通ししてくれる?あっ!(こずえ)に、菓子を持ってくるように伝えてね!」


声をかけた。


サヤサヤと衣擦(きぬず)れの音に続いて泉丸が


「久しぶりだね、伊予?浄見と呼んだ方がいいのかな?」


と言いながら御簾を押して入ってくる。

(その2へつづく)

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