表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
433/505

EP433:伊予の物語「呪禁の獣皮(じゅごんのじゅうひ)」 その3~小箱の文字の意味を教わる~

私が


(うろこ)がないから蛇の抜け殻じゃないわ!でも、獣の皮みたいね?何かの生薬かしら?」


言ったあと、あっ!!そうだっ!!と思いついて弾んだ声で


「典薬寮で聞いてみましょっ!!生薬の種類が分かれば、誰が持ち主か何かわかるかも!」


元佐(もとすけ)さんもウンと頷き


「持ち主は大学寮を卒業して、大内裏でどこかの官庁の官吏になってるかもしれませんしね!

でも医学を学ぶ医学生は典薬寮に寄宿してますから、それは無いはずですが。

自分用の生薬を持ち込んだ学生ですかね?」


そうなの?

(*作者注:大学寮内の寄宿舎で文章生は文章院、明経生は明経道院、算生は算道院、明法生は明法道院で暮らしていた。『ウィキペディア(Wikipedia)大学寮』より)


早速二人で、大内裏の西の真ん中あたり、豊楽院(ぶらくいん)の路を挟んだすぐ西にある典薬寮へ向かった。


朱雀門を通って兵部省(ひょうぶしょう)弾正台(だんじょうだい)を経て、豊楽院(ぶらくいん)の白壁を右手に見つつ、長い道を北へ向かって歩く。


「でも誰かを呪うなら、これは呪いたい人の一部?これに呪いをかければ、本体が死ぬとか?」


聞くと、元佐(もとすけ)さんはブルっと身震いし


「えぇ??!!ということは、皮膚?とか?・・・・まさかっ!!そのっ!!」


私の顔色をチラッとうかがうので、何?って怪訝(けげん)な顔すると


「え~~~、その、だから、男性の、それの、ま、マラの皮の一部ですかね??」


「はぁっっ!!??そうなの?それって、切り取っても平気なの?」


元佐(もとすけ)さんが痛そうな表情で


「死にはしないでしょうけど、想像するだけでゾッとしますっ!」


ま、何がどうなってるのか知らないけどっ!!!


典薬寮の入り口で、ちょうど中に入ろうとした、たくさんの草?多分薬草?の入った(かご)を持った女性を呼び止め、


「あのぉっ!すいませんっ!ちょっとコレを見てもらえますか?生薬かどうかを教えてもらいたいんですっ!」


蓋をとって小箱の中身を見せる。

突然のお願いなのに、足を止めてくれて、干からびた皮のようなものを摘まんで、匂いを嗅いでくれて


「ん~~~これは、多分、獣の皮を干したものね!」


「それは知ってますけどぉ~~~!獣の皮を生薬として使うとしたら何ですか?」


「そうね、人でも獣でも皮でも内臓でも筋肉でも髪の毛でも爪でも血でも唾液でも糞尿ですら、全て生薬になるわよ!唐の国ではね!

効果は大小便の不通、子供のひきつけ、鼻血止め、尿路疾患、利尿作用、難産、逆子、淋病や脚気、胞衣不下、蠱毒(こどく)や鬼魅の治療、緊唇、・・・・」


延々と続きそうなので手を振って言葉を(さえぎ)


「あっ!それぐらいで十分です!効果は分かりましたので!」


う~~~ん。

じゃあ、これは何?

中身の正体は結局不明。

ここで行き詰った。

悩んでると、元佐(もとすけ)さんが小箱の蓋を見せながら


「あっ!そうですっ!この文字って何が書いてあるか分かりますか?

『呪い』って読めるんですけど、典薬寮でやってます?」


変な質問なのに、その女性は小箱の蓋を手に取りジックリと眺め、ニッコリと微笑んだと思ったら


「あ~~~、これはね!

呪いじゃなくて、多分、


呪禁(じゅごん)博士 沙宅(さたく)万首(ばんしゅ)


って書いてあるのよ!

百年ほど前まで、典薬寮には呪禁博士(じゅごんはかせ)がいて、呪禁(じゅごん)のことを扱うとともに呪禁師(じゅごんし)を育成してたのよ!

沙宅(さたく)万首(ばんしゅ)は二百年ほど前(691年頃)の持統天皇のころの呪禁博士(じゅごんはかせ)の一人で、百済から帰化した人よ。」


呪禁(じゅごん)って何するんですか?」


「道教の呪術よ。

病気治療や安産には欠かせなかったの。でも厭魅蠱毒(えんみこどく)事件が続発して、危険視されたり、陰陽道の台頭によって廃止されたの。」


元佐(もとすけ)さんが腕を組んで考え込み


蠱毒(こどく)って毒虫を戦わせて、生き残った毒虫の毒を使うんですよね?じゃあやっぱり毒蛇の皮?じゃなくて(うろこ)が無いから毒蜥蜴(とかげ)か毒(がえる)の皮?それとも巨大な百足の皮?とか巨大な毒蜘蛛(どくぐも)の脚?」


実際的(リアル)に使い道を考えた私が


「じゃあ、毒を盛ろうとして持ってたの?真綿に包んで?

毒を盛るなら砕いて粉にして、小さいヒョウタンとかに入れて持ってた方が入れやすくない?」


物騒な話に、典薬寮の女性が頬を引きつらせて、愛想笑いを浮かべ


「じゃ、じゃあ、私はもういいかしら?忙しいから!」


「あっ!ハイッ!ありがとうございました!お忙しいのに!すみませんでした!」


ペコッと頭を下げた。


元佐(もとすけ)さんが小箱に蓋をしながら


「でも、道教と言えば仙人になるための霊薬・丹薬ですよね!それですかね?」


「う~~~ん、あっ!待って!もうちょっと小箱の中を探ってみましょ!」


蓋をもう一度開け、中の真綿を取り()け、その下を探ると、小さく折りたたまれた紙が出てきた。

(その4へつづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ