EP432:伊予の物語「呪禁の獣皮(じゅごんのじゅうひ)」 その2~元佐、不思議な小箱を伊予に見せる~
買い物が済んだ帰り道、朱雀大路を歩いてると、大内裏の朱雀門のすぐ南側、二条大路を挟んだ向かいにある大学寮に差し掛かった。
大学寮の門から丸っこい姿形の灰色の衣・袴に烏帽子姿の男性が出てきて、何気なく目をやると、その人がこちらを向きバチッ!と目が合った。
「え?!!藤原元佐さん?」
元佐さんはパッ!と顔を綻ばせ、弾んだ声で
「あっ!伊予どのっ!!どうしたんですかこんなところで!って、そのとなりは確か、影男どの?・・・・・でしたっけ?」
隣にいる影男さんに視線を走らせ、色白なぽっちゃりとした頬をゆがませ『への字口』になった。
不機嫌そうな表情を一瞬浮かべた影男さんは、また元の傀儡のような無表情。
「ええっと、買い物に出かけてたの!影男さんがお伴してくれて。
あなたは?どこへ行くの?
それに、それが学生の服装なのね!へぇ~~~!派手な模様とか色柄がなくて簡素だけど、禁欲的な感じがカッコイイっ!!」
灰色一色の広袖の衣を、灰色の袴に着込めてるので、お腹がポッコリ膨らんでるのがわかる。
現代では丸っこく太れるのも一種の称賛すべき才能!ってみなされて、男女問わずモテる(はず?)。
「へへへっ!そうですかぁ~~~!」
ムッチリした指で照れたように頬を掻く。
「あっ!ちょうどいいところでした!あなたに相談したくて、文を出そうとしてたんですっ!!」
思い出したように唾を飛ばす。
「そうなの?何の相談?」
元佐さんは、探るように周囲を見渡して声をひそめ
「実は、ヤバいものを見つけたので、どうすればいいか相談したかったんです。
今、大学寮の直曹(寮内の寄宿舎)へ戻って取ってきます!ここで待っててください!」
ウンと頷くと、走って大学寮へ入っていった。
影男さんがソワソワしながら
「そろそろ、内舎人の勤務に戻らなければなりません。梢に伝言しておきますが、それまでは元佐と二人で大丈夫ですか?武術に長けているようには見えませんが、あなたを守れるでしょうか?」
心配そうに呟く。
う~~ん、でも、多分、誰にも後を付けられてないし、
「大丈夫!怪しい人影も無いし、仕事を優先して!!
ありがとう、平気だから!ほらっ!早く行ってちょうだいっ!またねっ!」
手を振ると、影男さんはチラチラ気にしながらも立ち去った。
大学寮の門の前の、路の端で待ってると、すぐに元佐さんが門からでてきて、
「これですっ!これっ!!」
古ぼけた、一辺が三寸(9cm)ぐらいの小さな木箱を目の前に持ち上げて見せた。
「何なの?これ?」
元佐さんがムッチリした掌の上に乗せて見せてくれる。
「今年の新入生の、菅野という男が、直曹の自分の房においてある棚の引き出しを開けると、これが入ってたと言うんです!
備え付けの棚ですので、去年までその房を使ってた学生の忘れ物だと思うんですけど。」
「じゃあ大学寮の総務部?か管理人?か何かに届ければいいんじゃないの?」
「いいえっ!!コレを見てくださいっ!!」
指さす木箱の蓋を見ると、消えかかった墨で文字が書いてあった。
「ええっと、読みにくいけど・・・・
『呪林xx 沙宅万首?』
って書いてあるわね?どういう意味?」
その木箱は、元は木目もはっきりした白木だったと思われるものが全体的に古びて、汚れ?や手垢?で黒ずんでる。
元佐さんはゴクッ!と喉を鳴らして唾を飲み込み
「お、おそらく、中に入ってるのは呪物です!
蓋の文字を読んだでしょ!!
『呪う林xx、沙は沙漠のことで、その沙漠の家に万の首あり』
って書いてあるんです!
xxには読めないけど、人の名前が書いてあるんですっ!!
『林xx』さんは、砂漠(沙漠)に住んでる人で、万の人を殺して家に首を曝したから恨まれてるんですっ!!」
ふ~~~ん。
呪物??!!!
って具体的に中に何が入ってるの?
大勢を殺した武人?狂人?を呪った呪物?って何??
期待が高まり、上ずった声で
「開けてみた?中身は何だったの?」
元佐さんは、ブルッ!と身震いし、ブンブン首を横に振り
「そんなっ!!怖ろしくてできませんっ!!
怖すぎますっ!!
呪物ですよっ??!!
開けたら呪われますっ!!
だからあなたに相談しようとしたんですっ!!」
はぁ??!!
なぜ私に?
か弱い女子よ??!!
屈強な男子じゃないけど??
どーゆー意味??
疑問でいっぱいになりながらも、『ビビってる殿方を尻目に、平気なところを見せつける!!』のも気分がいいので、
「じゃ貸して!開けてみる!」
サッ!
と気軽に手に取り、箱の下まで覆ってる蓋の部分を持ち上げて中身を見る。
一辺が三寸(9cm)ほどの立方体の箱の中には、真綿がいっぱいに詰まってるので、それを指でかきわけてみると、真綿の中に、茶色い、細長い、長さが一寸(3cm)ほどの、管のような、乾いて丸まって縮んだ?皮のようなものがあった。
手に取るのはちょっと気持ち悪い。
鼻を近づけ、匂いを嗅ぐけど無臭。
「何かしら?」
蓋をとるとき、ビクビクしながら体を引いて目を逸らしてた元佐さんが、私が平気なのを見てマジマジとそれを見つめ
「何でしょう?蛇の抜け殻でしょうか?」
(その3へつづく)